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時は遡るッ…回です。
ベンが夜に1人で森に入った時間まで戻る…。
―タイチョー視点―
「では、俺はこの後、少し用事があるので…」
「そうなのかい?」
「はい、そう言うことなので…」
そう言ってベンが抜けていった。
「ベンは随分忙しいのだな」
「そう…みたいですね」
「だが、テントの方向に行ってねえみてぇだな」
確かにドドグラスの言うようにテントではなく、外に向かっていた……まさか…。
「すみません、少し席を外します」
「まだ始まっていないから構わないが…どうかしたのかい?」
「はい、ちょっと…」
そう言いながら、ちょうど近くにいた"ジュウザク"に声をかける。
「ちょっといいか、ジュウザク」
「ん?なんすか、クラマス?」
「昨日の事件については聞いているな?」
「昨日?
…ああ…それなら、ガラタスから聞きましたよ。
あの初心者にPK紛いなことをしたって言うのすよね?」
「ああ、その初心者を今からこっそり護衛してくれ」
「?普通はテントで寝てるんじゃ…」
「それが、普通じゃないことが起きているらしく、さっき海側の森に向かって行ったんだ…頼めるか?」
「なるほど…別に構いませんが……俺、1人ですか?」
「いや、最低でも2、3人で動いてくれ…たぶんだが、また襲われるだろう…」
…また、同じように返り討ちにできるとは限らないからな…。
「分かったっす」
「ああ、頼んだ」
ジュウザクが返事をして離れていった。
…これで大丈夫だろう…。
そう思いながら席に戻る………。
―ジュウザク視点―
とりあえずクラマスの頼みだから二つ返事で応えたけど……その初心者って誰だ?
…………まあ、ガラタスに聞けばいいか。
「ガラタス!ガラタス!起きろ!!」
「うるせえな!もう起きてるわ!!」
ガラタスのテントを叩きながら声をかけると、ガラタスが入り口から顔を出して大声で返事を返してくれた。
「おお、そうだったか!」
「……はぁ…全くお前はもう少しなぁ…」
「はっはっは!説教は後にしてくれ、クラマスからの依頼だ」
「………いきなり真剣に話すなよ……それで…依頼って?」
「昨日の事件の初心者をこっそり護衛だとよ」
「昨日の…なるほど、で、その初心者は?」
「それを聞きにお前に聞いているんだよ」
「………はぁ………………どこに行っているんだ?その初心者……確か…名前は……ベンジャミンだったかな?」
「クラマスの話だと海側の森に行っているそうだぞ?」
「ならいくか」
「おう!」
ガラタスに着いて行く…やっぱりガラタスに頼ってよかったぜ!
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森に入ってガラタスの"探索"のお陰ですぐに初心者のベンジャミンを見つけることができた。
「とりあえず、この距離を保つぞ…」
ガラタスの言葉に頷いて見張りをする。
見張りをしているとベンジャミンの横に黒いもやもやが現れた!
「ど、どうする!?」
「落ち着け…あれについてはグラナさんから聞いている。
確か、ベンジャミンの仲間のはずだ…しかも、かなり強いらしい…」
「そ、そうか…」
ガラタスの話に納得しつつ、ベンジャミン達を見張りをしていると黒いもやもやが消えた。
「…にしても、そんな強い奴が仲間に居るなら俺達が護衛することもないだろ…」
「いや…護衛というよりは…」
「というよりは…?」
「たぶん、昨日のPKと同じように証拠がないという言い逃れをされないように…」
「少々よろしいでしょうか?」
「「!?」」
咄嗟の事だったがすぐに武器を構えて距離をとる…。
…すでに、ベンジャミンは狙われていたのか。
そう思いながら相手を見ると先ほどの黒いもやもやだった。
「失礼、急に声をかけてしまいましたことをお詫びします」
「……いや…大丈夫…だ……」
「お心遣いありがとうございます。
それで、お時間よろしいですか?
あなた達はどうやらベン様に危害を加える気は無さそうですし」
「…ベン?ベンジャミンじゃないのか?」
「はい、ベン様です」
黒いもやもやが当然かのように応える……。
俺はガラタスの方を見ると、ガラタスが思い出したかのように話し出す。
「あ~…そうだ…そうだった」
「ガラタス、名前を間違えてんじゃねぇよ」
「なんだと、お前は覚えてなかったろうが」
「なにを~!」
「やるか!」
「お時間、よろしい、ですか?」
「「!」」
一瞬、黒いもやもやから殺気がとんできて驚いてそちらを見る。
「え、ああ、すまない……時間については構わない、話してくれ」
「ありがとうございます、あなた達はベン様の護衛、もしくは見張りをしているのでよろしいでしょうか」
「ああ、その通りだ」
「でしたら、ベン様がPK?という輩と1対1で勝負するときは手を出さないでください」
「…それは…ベンが決めたことか?」
「はい、ですが、PK?が1人ではない場合はお力をお貸しください」
「?あんただけでもどうにかなるんじゃないのか?」
ガラタスの話によるとこの黒いもやもやはかなり強いらしいし…別に俺達がいる必要…。
「いえ、私だけでは昨日のように言い逃れをされそうになりますので…その対策です」
「なるほど…分かった、そうしよう」
俺がそう応えるとガラタスも頷いて了承する。
「ご理解いただきありがとうございます。
それでは、私は一旦ここで…」
そう言って黒いもやもやが消えていった。
……とりあえず、今はベンを見張りつつガラタスの"探索"で警戒しよう………。
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しばらくして、ベンが砂浜に出た。
「どうやら、ここに呼び出されたっぽいな…」
「そうだな……お…ベンは"気力操作"を持っているんだな…」
「へ~…あれって結構キツイ修行がいるんじゃないのか?」
「ああ、"気力操作"を覚えているNPCから教えてもらはないと覚えないレアスキルだぞ…」
「なるほどな………」
その後、しばらくして呼び出した相手がやって来て、ベンが挑発をしている。
「ベンは相手をキレさせたいようだが、相手は冷静だな…!!」
「どうした?」
「……近くに団体様が来たっぽいぞ…」
「…なるほど…あのフードの奴はベンを疲れさせて、その後で集団で………か…ゲスい奴等だ…」
「全くだ……行くぞ…」
「ああ」
「私もお手伝いしましょう」
「!……いきなり、出てこないでくれよ…」
「これまた失礼しました…相手はどうやら26人居るのでお手伝いしましょうか?」
「26……ああ、お願いする…」
「かしこまりました」
「…そう言えば、ベンは大丈夫なのか?
相手はベンより強そうだが…」
「はい、1対1なので。
ベン様も死ぬ気で戦うおつもりなので」
「なるほど…じゃあ行くぞ!」
仕切り直してガラタスを先頭に集団に向かう。
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少し森の中を進んで行くとガラタスが足を止めて、近くの木に隠れて向こう側の拓けた場所を覗きこむ。
「あれを見ろ…たぶん、PKだ…」
「………どうやら、そのようだな」
「…あのマークを着けているな…」
「ああ…"Queen"だ…」
俺も覗きこむと見たことのあるやつばかりだ…。
…これは…苦戦しそうだ……。
そう思いながら、奴らの話に耳を傾ける。
「もう一度、今回の目標について話そう。
今回の標的は九尾様のお誘いを断り、さらに我々の仲間がPKをしたという嘘の情報を流した!」
「許せね!」「ふざけるな!」「さっさと殺せ!」「そうだ!そうだ!」
"Queen"の幹部であるファブニールの話を鵜呑みにした奴らが怒りを露にしている。
「その通り、君たち同胞の言うとおり私も実行しようと九尾様に提案した!
しかし!それは、却下された!」
「嘘だろ!?」「バカな!」「ありえん…」
「九尾様は却下したが、我々の怒りを鎮めるために素晴らしい案を提案してくださった!」
がっかりしていた奴らがファブニールに注目する。
「九尾様は愚かなそのプレイヤーを許し、そして、我々の仲間に入れる…と」
「なんと!」「お優しい!」「さすが九尾様…いや、女神様」
「そして、今回その勧誘を任されたのが我々である!
九尾様は、我々に期待しているのだ!」
ファブニールの言葉に全員の指揮が上がるように感じた。
「我々は!九尾様の期待に応え、成功させなければならない!!」
「「「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」」」
「我々は!どんな手段を使っても許される!」
「「「「「「おおおお!!」」」」」」
「何故なら!我々の女神である、九尾様の命令だからだ!!」
「「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」」
……なんというか…噂で聞いていた以上に…
「「宗教団体…」」
どうやら、ガラタスも同じようなことを考えていたようだ…。
「では、同胞諸君…いつも通りだ……分かっているな」
急にファブニールの声が低くなり、聞いていた奴らが静かに頷いた。
「どうする…今から動くか?」
「動くしかないだろ…」
「諸君…どうやら、ネズミが2匹そこの木の後ろに居るようだ……出てきたらどうなんだい?」
「「!」」
気づかれていた!?
……ここは、大人しく出ていくとしよう…。
「気がついていたのか…」
「気がつかないとでも?」
「ちっ…」
「おや、君たちは"コロナ"の……なんだったかな?弱い組織については詳しくないんだ、自己紹介してくれるかい?」
「………………」
明らかに挑発だ…ガラタスも分かっているようで黙っている。
「……まあ、いいさ……それで、何のようだい?
我々は狩りをしているだけなんだが?」
「ほぉ~…こんな低レベル地帯で狩りごっこか?
見た目とは裏腹に弱いんだな」
「…………………雑魚のネズミ風情が調子に乗るなよ…」
「へへ…本性を現したな…」
「どうせ、お前達2人は生きては帰さん……じっくりと盗み聞きをした説教をしないとな……メインディッシュの前に殺れ!」
「来るぞ!」
「おう!」
矢、様々な属性魔法に魔術、そして目の前にまで迫ってくる敵の壁が押し寄せてくる。
……敵の数が想像していたより多い………貧乏くじを引いたな…これは……。
そう考えながら、武器を構えて迎え撃とうとした瞬間こちらに向かっていた攻撃が黒いもやもやに消された…そして…。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「や、やめてくれええええええええ」
「ファアアアアアアアアアアア」
「な、何が起こっているんだ!?」
攻撃を仕掛けたプレイヤーがいきなり狂ったように地に伏して叫んでいる。
突然の事態に驚いているファブニールの前に黒いもやもやが現れた。
「な、なんだ!おまe…「失礼します」…があああああああああ」
「うるさいですね…黙りなさい」
「……!…!!……!」
黒いもやもやがファブニールの顔を覆うとファブニールが騒いだが、すぐに声が聞こえなくなった。
「な、なんなんだ…いったい…」
「これで、終わりました。
これらのゴミはどうしましょうか?」
「え……あ~…」
「昨日の檻にでも入れましょうか?」
「昨日の檻?……あ~…でも、あそこじゃ、精々10人しか入りませんね…」
「檻に入る空間があれば問題ありませんね?」
「え、まあ、そうですね」
「分かりました、檻の空間を広げますのでそこまで案内してください」
「?分かったが…ベンの方は?」
「問題ありません」
「分かった、じゃあ……どうやって連れていくか…」
「それは、こちらでお手伝いをします。
(パチンッ)」
「お呼びでしょうか」
「「!!」」
黒いもやもやから音が鳴ると同時に黒いもやもやが増えた。
「ゴミを連れていく」
「かしこまりました」
黒いもやもやがプレイヤーを持ち上げた。
「では、案内をお願いします」
「……ああ…」
ガラタスが呆れるのも分かる。
俺だって、呆れている。
「「(俺達…必要あったのか?)」」
「それについては、先ほどお話ししたとおりです」
…この黒いもやもや…心まで読めるのかよ……。
そんな事に呆れながら拠点に戻ることのした。
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拠点に戻ると、グラナ達が防衛していた。
グラナが俺達に気が付いて近づく。
「ジュウザク、ガラタス、大丈夫だったか?」
「ああ」「はい」
「良かった…………って、また黒いもやもやさんか…」
「昨日はお世話になりました。
今回もお世話になります」
「……ああ、分かった。
ジュウザクとガラタスも着いてきてくれ」
「はい」「おう」
グラナの案内で檻の場所まで案内してもらうと、黒いもやもやが…。
「確かに…これでは手狭なので、少々弄りますが、よろしいですか?」
と、グラナに聞いて、グラナが無言で頷いた。
「ありがとうございます。
では、(パチンッ)」
「「「!!!」」」
音が鳴ると同時に檻が急に最初の5倍大きくなった。
「では、入れますので、後の処理はそちらに任せます」
「…………あ…ああ、分かった」
「それでは、私はここで」
そう言ってまた黒いもやもやが姿を消した。
…あっという間のできごとすぎて驚く暇がなかったが………いったい、何があったらあんなやべぇ奴が仲間になるんだよ……。
「とりあえず、俺はクラマス呼んでくるから、見張っててくれ」
「…わ、分かりました」
……とりあえず、今はこっちの厄介事を片付けるとしよう。
久々に長い話でしたが、まだ前編です。
後編も楽しみにしておいてください!いいですね!
今回出てきたプレイヤー
・ジュウザク(男性)
黒髪のヒューム
戦闘系クラン"コロナ"の幹部
主に裏方の人間
武器は魔鉄鋼の小刀
防具は魔鉄鋼の軽装
KMNライダーが好き
・ガラタス
紫髪のヒューム
戦闘系クラン"コロナ"の幹部
主に裏方の人間
武器はダンジョンで見つけたデザートイーグル
防具は魔鉄鋼の軽装
KMNライダーが好き
私もKMNライダーは大好きです。(唐突な自分語り)
いつも色々ありがとうございます。