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村回です。
家に入って俺がドアを閉めると日傘を折り畳んでソファーに座る。
家の中はかなりきれいだが窓がない。
「君たちも座りたまえ」
「ありがとうございます」
ソファーに座ると結構柔らかい素材でできていて、座り心地が良かった。
ユーマとシーナも楽しそうにソファーで跳ねていた。
「あまり、騒がないようにな、ユーマ、シーナ」
「「はい」」
「クク、問題ないさ、そのソファーは頑丈にできているから、どんな衝撃にも大抵は耐えるさ」
「そうなんですか…」
「ああ!なんせそれは2000年前にエルフ族の女王に貰ったものだからな!」
「ええ…」
女王って……もしかして、この魔族……かなり偉い人なんじゃ……。
「おっと、そういえば、まだ私の事を話してなかったな!
私は一応この村の長をしているヴァラド=ルーツ=バラグ、気軽にヴァラドと呼んでくれ」
「分かりました、ヴァラドさん、
では一応、俺はベン、プレイヤーです。
こっちの2人はユーマとシーナです」
そう紹介するとユーマとシーナがヴァラドさんに向いてお辞儀する。
「なるほど、ユーマに、シーナか、なかなか礼儀がなっているな!」
ヴァラドさんがそう言うと2人とも明るく笑った。
「そういえば、何故、俺たちをここに?」
「…そうだな、では、それについて話そう…」
急に和やかな雰囲気から張り付けた雰囲気に変わった。
ヴァラドさんの表情も少しだけかたくなった。
「君たちを……いや、プレイヤーであるベン君に用があるんだ……」
「俺に?」
「ああ……最近、君たちプレイヤーがこの島に流れ着くことは知っていたんだが…」
そう言うと、顔が強ばりはじめた……ユーマとシーナが俺にしがみついてきた…。
「村の魔族たち……しかも、腕利きの者が傷だらけで帰ってきたんだ…」
「!…もしかして……プレイヤーが…」
「ああ…私はすぐに襲われた現場に行き、そこで記憶を見たんだ」
「記憶を?」
「ああ…私の固有の魔法でね、このように見れるんだ」
そう言うと目の前の空間に映像が流れた…。
この映像は俺たちがここに入ってきた時の様子だ。
「このようにある一定の範囲で最大10年まで遡って過去が見れる魔法だ」
「…それで、そこにプレイヤーは何人ほど?」
「6人だった…種族はばらばらだったがバランスの良い冒険者のパーティーだった」
「それは、何時の事ですか?」
「昨日の夜の事だ……これだ」
そう言って、映像が変わって森が映し出された。
…たぶん、子供が見ていいもんじゃないよな……俺も子供だけど…。
「ちょっと待ってください…オゾレクスさんいいですか?」
「む?なんじゃ?」
「オゾレクスさん、少しの間ユーマとシーナを離れた場所で見てもらっててもいいですか?」
「…分かった、ベンの頼みじゃ…ユーマ、シーナ、こっちで本を読んでやろう」
「「本?」」
「うむ…"空間創造"、では、入るか」
オゾレクスさんが魔法を使って見えない空間に入っていき、ユーマとシーナは短く返事をして入っていった。
「ほぉ…なかなか高度な"空間魔法"だな、いや、あれは"創造魔法"か?
…まあ、いい……では、記憶を流すぞ」
「お願いします」
映像が進むと、動物と6体のゴブリンが戦っていた。
それぞれ、武器が異なるがどれも凄そうに見えるし防具もしっかりしている。
ゴブリンたちが動物を狩って血抜き作業をしていると、急に後衛っぽいゴブリン2体が傷を負って、さらに矢がとんできた。
『敵襲だ!』
『全員構えろ!ゴンズとバララは大丈夫か!』
『俺は問題ないが、バララが!』
『ぐ…結構、矢をくらっちまった…』
『分かった!ゴンズはバララを抱えてすぐに村に戻れ!』
『分かった…ありがとう…』
『他は周囲を警戒しながら村に戻りぞ!』
『『『了解!』』』
そう言ってゴブリン2体がさがって、残った4体が警戒しているとまた、急に1体の防具に傷がはいって、矢がとんできた。
とんできた矢を払い除けてとんできた方向を睨み付けると、左右の茂みからプレイヤーが飛び出して攻撃を加える。
『くらうか!』
『ちっ、こいつら結構強いからバフをくれ!』
そう言って男のプレイヤーが他のプレイヤーに声をかけて連携を取って、ゴブリンたちを追い詰めていき、ゴブリンたちが瀕死に近づいた辺りで急に仮面をつけた黒い服のプレイヤー?が数人現れた。
『なんだ、お前らは!』
『悪党に名乗る名はない…殺るぞ!』
そう言うと黒い服を着たプレイヤーたちがゴブリンを襲っていたプレイヤーを次々と狩っていき、全員を倒した。
『ぐ…お…お前らは…』
『すまない…プレイヤーが迷惑をかけた……ホワイト…傷を治してやってくれ…』
『分かった…"完治"』
そう言って黒い服を着た"ホワイト"と呼ばれたプレイヤー?がゴブリンたちの傷を癒していった。
『ありがとう、助かった…』
『いや、当時の事をしただけだ…それに、これは我々プレイヤーが起こした問題だ…申し訳ない、もう少し早く来ていれば…』
謝罪の言葉を続けようとしていると、リーダーのゴブリンが口を開いた。
『いや、それについては問題ない、所詮この世は弱者が悪いのだ…我々の問題でもある。
傷を癒してくれてありがとう、それだけで十分だ』
そう言うと他のゴブリンも頷く。
そして、懐から俺も持っている布を取り出して、プレイヤーに渡した。
『これは、その感謝の気持ちだ、何か困ったことがあればこの布を持ってこの先の平野にある村に来るといい…歓迎しよう』
『そうか…分かった、ありがとう。
では、俺たちはここで…』
そう言って映像が止まった。
「……」
「その後もいくつかの狩りに行っていた者が襲われて、あのプレイヤーたちのように助けてくれることもあった、大抵は追い払えるのだがな…」
「…死者は…」
「…幸い出ていない…が、村の者の中には襲ってきたプレイヤーに復讐を考える者も出てきた…」
「………」
…まあ、そりゃそうだよな…プレイヤーのように何度も生き返れる訳じゃないし、もしかしたら殺されてしまうかもしれないからな…殺られる前に殺る…という考えもでるわな…。
「もちろん、そんな事はさせんが…これ以上被害が大きくなっては、こちらとしては動かなくてはならない…」
「そうでしょうね…どうにかしないとな…」
「ああ…それでなんだが…」
「?」
「今日の夜に君たちプレイヤーの拠点のどこかでリーダー同士で話し合いたいのだが、ベン君、それに協力してくれ」
「!?俺にですか!?」
「ああ!君のことはダゴンやエアベル様から安全と聞いていてね」
「…俺なんかでいいんですか?
プレイヤーの中でも発言力無いですよ?」
「問題ないさ、あくまでリーダーの人に伝えてもらうだけで構わない、それに…」
「それに?」
「君がこの村に訪れた初めてのプレイヤーだからね」
「?他のプレイヤーは?来ているはずですよね?」
「ああ、だが、信用の証としている布を持ってない者たちだけどね」
「へ~…」
「とにかく頼めるかな?」
「俺は構いませんよ、それに俺はエアベル様が言っていた"共存"をしっかりやっていきたいんで」
「……やはり、君は信用に応えてくれる者だ、ありがとう、頼むよ」
そう言って、ヴァラドさんが右手を出してきたので、俺もそれに応えて右手で握手をしながら
「はい、喜んで!」
と応えた。
…と言ったものの俺は俺で夜は忙しくなるな…と考えながら、その後は少しだけ雑談することになった………。
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1時間ほど話して、オゾレクスさんたちを呼んで帰り支度をして、ドアを開けるとそこそこ日が傾いていて、影が伸びていた。
「では、頼んだよベン君」
「はい、では」
そう言って家を出て、村を出るために橋を出してもらって、拠点へと戻ることにした………。
人物紹介
ヴァラド=ルーツ=バラグ(???)
何千年も生きている魔族
日に当たると日焼けするため日傘を用意している
固有魔法の"記憶魔法"の使い手
ゴンズ(ゴブリンスカウト)
斥候を担当している
肉より野菜派
バララ(ゴブリンマジシャン)
魔術を使った遠距離担当
野菜が嫌い
今回出てきたゴブリンのリーダー"ぜラス"
(ゴブリンリーダー)
パーティーのまとめ役
暇さえあればチェスをする
黒い服の"ホワイト"
黒い服を着ているのにホワイト…
これは、偽名だな…
イベントも大体中盤かな?
そういえば(どうでもいい話)
私はRTAやTAS動画が好きですが(唐突な自分語り)
64のマ○オのRTAが更新されててびっくりしました(感動ものですね)
いつも読んでいただきありがとうございます。
TAS小説って結構あるんであるんですね。




