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改心回です
明けましたおめでとうございます。
後、爆死しました。(悔しい)
まだ昼前なのに魔術ギルド本部では、
様々な種族や地位、老若男女が喜びを分かち合っていた。
「なんか、すごい騒ぎですね」
「カッカッカ、儂の現役時代でも大きな研究が実れば皆で分かち合い、認めあっていたのさ」
「認めあう…ですか?」
「そうじゃ…まあ、あまり表に出ておらんだけで、身分や種族によっては蔑まれておった」
「そうですね…今でも私の見えない所では様々な差別が横行しているのでしょう…悲しいことです…」
「じゃからこそ、自身の研究で蔑まれている現状を打ち破っていくのじゃ」
「ええ、今回の件もきっと誰かを救うきっかけになることを願います…」
「…叶いますよ…絶対に…だってこんなに沢山の人々が色々な垣根を越えて喜んでいますから」
「そう…ですね」
「ギルドマスタ~、こっちに来て飲みましょうよ~」
「分かったわ、今行く…じゃあ、ベン君も楽しんでいってね」
「はい、そうさせていただきます」
そうは言っても、未成年である俺はお酒の付き合いは出来ないし、とりあえず雰囲気だけでも楽しもう…。
ガシャーン
「貴様!」
「ひぃ!すみません!」
なにやら、トラブルがあったらしい。
野次馬気分で覗くと、昨日絡んできた
いかにもテンプレヤンキー貴族に少年がぶつかってしまい、服を汚してしまったらしい。
貴族の方はかなり怒っていて、無礼講であるにも関わらず、器の小さいやつだ…。
方や少年の服装は、少々汚れていて可哀想なほど謝っている。
…他の人は、聞こえていないのかそれとも…。
…仕方ない…。
俺はグラスを持って怒っている貴族に近づき…。
「貴様のような下級…」
ガシャーン
「おっと…すまない…わざとだが許してほしい」
汚された服にさらに、水をこぼした。
「なんだと、…貴様昨日の!!」
「おや?顔を覚えてくれていたのか、流石お貴族様だ、まあ、汚してしまっても…"清掃"…ほら、きれいになっただろう?何も問題はないだろ?」
「!!!…くっ、貴様…それは…決闘と受けとるが…構わんな…」
「何のことやら…だが、良いだろう、受けとれ」
そう言って近くにあった、ナプキンを手袋に見立て貴族の足元に投げた。
同時に貴族の方は白い手袋を投げた。
「ここでは他の者が邪魔だ、来い!」
「そうだな…その辺は弁えているのか…」
そう思いながら、ギルドの奥にある多目的場に行く。
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「…この中では、決闘の神の守護によって命の補償はあるが…貴様のようなプレイヤーには関係あるまい」
「そうだな、ならば決闘方法は…」
「もちろん…デスマッチだ!!」
貴族様が振り返ったと同時に魔法を放った。
ほぉ、無詠唱か…すごいな…
しかし、そんな事はお見通しだ!
「ふん!」スパッ
「ほぉ…中々やるようだが、甘いわ!」
「何の!」カンッ
お次は剣で斬りかかってきたが、この短剣の前ではあっさり壊れた…。
「な!?」
「次は…こっちからいくぞ!!」
「!?っく」
残念ながらあまり致命傷は与えられていないが…それでも、MPには限りがあるためあちらも攻めあぐねている…。
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………随分長い間、静寂が訪れて貴族様が無言でこちらを睨む。
「良いだろう、ここまで戦うとは思わなかったが…こちらも奥の手を出してやろう」
「奥の手は最初にだした方がさっさと済むんじゃないのか?」
「…死にさらせ!!吹き荒れろ"ダイダロスエッジ"!!!」
貴族様が魔法を唱えると俺に向かって無数の風の刃が襲う…。
…結構不味いが…どうにかしてやる!
「………ハアッ!!!!」
気力と魔力を短剣に集中させて、思い切り横凪ぎ払うように風の刃を斬った…。
「な!?バカな!?こんなことが…」
「……ふぅ…中々良い魔法だな…あんたもこれを覚えるために…どれだけの努力をしたかなんて、俺には分からないし…あんたの功績も俺は知らない…」
「……………」
「…だが、さっきのあんたの技には何か…いや…全て足らなかったよ…本当なら俺では斬れなかった…」
「……この魔法は…我がスカイ家の奥義として代々当主の者が継ぐものだった…」
「…そうか……」
「……しかし、父上は…父上は!長男である!私ではなく!甘ったれた考えの!魔法のセンスのない!弟を!当主して選んだのだ!!」ゴッ
先ほどまで立っていた貴族は崩れるように膝をつき、地面に向かって何度も殴る…。
「……俺には、その親父さんがおまえに…本当なら、当主を譲りたかったんだろうよ…」
「……貴様に…何がわかるんだ…」
「…おまえは親父さんの気持ちを分かってない…弟だって…驚いていたはずだ……きっと今でも当主にはおまえが相応しいと思っておるだろう…」
「…黙れ!おまえに!!俺の気持ちが「分かるわけがない、だろ?」っ!?」
「それは、おまえもそうだろ?
おまえの昨日の態度と今日の態度は目に余るほどのものだ…俺は今まで2~3人しか貴族に会ったことがなかったが…全員、国民の平穏や安全、そして…誇りを持って!日々努力してんだよ!」
「そんな事は!」
「いいや、おまえは知らない!!
親父さんがおまえに当主を継がせなかったのは!おまえが国民より自身のプライドを!…名誉を優先していたからだ!!」
「!!」
「おまえになかったものを……おまえが蔑んでみていた弟が持っていたから……親父さんは弟に当主を無理矢理継がせたんだろうよ…」
「…………」
貴族は思う節があったのか、自身の態度を振り返っているのかは分からないが、しばらく、その場から動かなくなった…。
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昼も少し過ぎたが、まだお祭り騒ぎは聞こえる…。
すると貴族は立ち上がり…。
「すまなかった…貴方に気付かされたよ…今までの自身の過ちと父上…いや一族を裏切るような行為をしてしまった……貴方にも多大な迷惑もかけてしまった…本当にすまない…」
「……確かに謝っても済まないかもしれないが…俺に謝る前に、今まで迷惑かけた者にも謝ってくるんだな……さっきの少年にもな」
「…ああ、そうさせてもらうよ…私の名前はへリム・スカイ…私の過ちを指摘してくれた貴方の名前を聞きたい」
「俺はプレイヤーのベン…ただのお節介焼きのヒュームだ」
「…そうか…だがそのお陰で私は変わる…変わってみせるさ…」
「ああ、楽しみにしておこう……では、祭りに参加しよう…まだ少年もいるだろう…」
「ああ、そうさせてもらうよ…ベン様」
「辞めてくれ、様付けなんて…俺は様なんてたまじゃない、呼び捨てで構わん」
「そうか、分かった…ベン…私の事も呼び捨てでお願いしたい」
「分かったよへリム」
そうして、多目的場を後にした…。
もちろん、さっきの少年には公衆の面前で謝り、許されたが…。
「ありがとう、少年…」
「い、いえ、そんな、本当に大丈夫ですので」
「そうだな、へリム、あまり無理矢理謝罪を押し付けるものではないぞ」
「あ、ああ、そうだな、では私は他の迷惑をかけた方に謝りに行く、本当にすまない少年、こんな形の謝罪しか今はできないが…」
「はい、こちらもグラスをこぼしてしまったので」
「そんな事は"清掃"を使えばどうにでもなる…だが、謝らせてしまった私に非があったのだから」
「まあ、そうだな」
「あ、はい、分かりました…でも僕は問題ないですから、他の方にその誠意を伝えてあげてください」
「分かった!それを君との約束として、私は必ずまた君に謝らせてくれ」
「約束か…少年名前は?」
「え!?カヤックです」
「カヤック君か…分かった!必ず戻ってきて謝らせてくれ、カヤック君」
「は、はい!」
そう言って、へリムは魔術ギルド本部を出ていった…。
彼の行動は苦難が多いだろうが、しかし、それでも折れない強い覚悟と決心で進むであろう…。
その後、スカイ家の欠点と呼ばれていた男は、今まで迷惑をかけた者に長い期間謝罪をして回り、その誠心誠意の謝罪が実り全員が許した。
そして、カヤック少年と再会し謝罪をもう一度正式な形でして、全てが丸く収まり、
父上と弟が当主を譲ろうとしたが…
「私は、弟…現当主の補佐をします!」
と自ら申し出て、弟の補佐として一生懸命働き、
ユウゾリア共和国で1番栄えた領土として国民を支えたのは、また別の話…。