第二話 父親という存在
第二話
戦闘回(なおギャグははさまないと死んじゃう)
傭兵団員の朝は早い。
皆一様に日の出前には起床し、鍛錬に赴く者たちは各々が普段使う鍛練場に向かう。また前日に魔獣討伐といった依頼を請け負った者たちも同様に早朝に出発する。出来る限り日を跨がず帰還するためだ。そちらの方が食糧の消費が少なくて済むため、持ち運ぶ荷物の量が少なくなる。
また、魔術の鍛錬をするにも最も効率的に行える時間帯でもある。朝の時間帯は全身を流れる魔力の流れがあまり活発ではない。しかし、それを放置していればその日の魔力の流れはぎこちなくなるし、連日放置していれば最悪の場合、碌に魔術の行使が出来なくなる。
こういったことはレオ達が所属している傭兵団でも同じことだった。レオがホームの奥に隣接している鍛練場に赴いた時には、既に傭兵団のお目付け役であるガン爺ことガンド・キルシュタインが暑苦しい雄叫びと土煙をあげながらシールドタックルを何度も繰り返していた。
一方毛根を食い散らかされた厨二病のルドルフ・ソザートンはといえば、「我が下に現界せよッ! 永遠の時を生きしアークデビルッ! 今が復活の時だ!」と叫びながら背中に爆破属性魔術『スモールエクスプロージョン』を発動させつつ剣舞を演じ、魔術と二刀流剣術の鍛錬を行っている。
そして、ある意味酷くカオスな鍛練場には居てはいけないであろう少女がもう一人。
「あ、おはようおにぃちゃんッ!」
怒涛の勢いで駆け寄って来たのは、この国では滅多なことでは見かけることの無い頭頂部に並ぶ耳と、銀狼種特有の銀色の髪をなびかせた少女だ。その狙いはいつもと寸分違わずレオの鳩尾を狙っている。……少女自身は胸元に飛び込んでいるつもりなのだが。
もはや慣れたと言わんばかりに、レオは突撃してきた少女を両手で抱え込み、そのまま重心を下にずらすことで衝撃を緩和させた。
「おはよう。今日も朝早くから偉いな」
「えへへ……」
全く悪びれる様子もなく腕の中ではにかむ少女の名はアカネ・柏木。獣人族の銀狼種と人族のハーフだ。
彼女は二年前、レオが義父に連れられて行った実戦訓練の帰り道の途中の森の中で捨てられているのを拾ったのだ。そのためか、レオに良く懐いている。
アカネが拾われた当時はまだ十歳だったこともありレオが見下ろすくらいの身長だったのだが、銀狼種は十一歳のころから急激に背丈が伸びる特徴があり、気が付けばレオはアカネを見上げていた。十四歳と成長期に差し掛かったレオは漸くアカネと背を並べられ、相当安心していた。
ただ、やはりこの娘も単細胞なのか天然なのか分からないが、超近接距離で張り合う事を生きがいにしている。最早剣すら握らない。拳で全て平伏せている。瞳孔を開きながら魔獣を殴り倒し、顔に血を滴らせながら「やったあ!」と喜んでいた光景はシュール過ぎだとレオは思っていた。
はてさて、レオはアカネを腕から離してやると少し物足りなさげではあったものの「おにぃちゃんも頑張って!」と言いながら自分の鍛錬に戻っていった。
さて自分も鍛練を始めようと思い、腰にさしていた重量鉄(27p/cs^3。地球上で最も比重が重いと言われるオスミウムの二倍以上の重さ)仕込みの木剣を握りこむ。実際の剣の重量を遥かに超えるそれを片手で振り回すのは困難を極める。だが、レオ自身「とりあえず訓練で相当重めの奴使ってたら実戦でしくじんないだろ」と物凄く安直にこの鉄剣を使うことにしていた。
レオは目の前設置してある、予め魔術式で強化された木製の人型へと振り下ろす。
「――シッ。――シッ。――シッ」
――ドッ。――ドッ。――ドッ。
幾たびも振り降ろされる度に、人型が鈍い音をあげる。
夜の内に冷め切った空気が酷く美味い。頭の端でそう考えながらも、レオは淡々と木剣を振り下ろす。
どれ程時間が経ってからだろうか。レオがまだ百度の半分も振り下ろしていない頃に、一番遅れて漸く義父が現れた。
義父は珍しく――普段使っているのはやはり両手直剣なのだが――手元に木製の槍を携え、真っ直ぐレオの方に歩んでいった。
(さて、昨日のが少しは堪えたか……?)
普段とは違うその様子に僅かながらに期待を寄せつつ、義父の様子を視界の端で確認しながら剣の振り下ろしを続けた。
やがてレオの隣にまで来たかと思えば――ただ、一言。
「レオ。別の木剣を準備してから私のところに来なさい」
レオは思わず鍛練を一旦中止させ義父の方を見ると、もうその背中は鍛練場の端――普段は義父が使っている鍛錬の場へと向かっていた。
仕方ないと思い、レオは一旦ホームに戻る。ホームの中にある木剣置き場で普通の木剣とレオ専用鍛練用木剣を取り換えてから、ふと思案に浸る。
(まさか――な)
だがその思案はまさかそんな訳ないだろうと思いながらも、中々に捨てられない。脳裏で僅かに期待していることと、もうひとつ――。
(いや、ここで考えても仕方ないか)
結局考えることを止め腰に木剣を差すと、義父が待っているだろう鍛練場の端へ向かおうとホームを出る。
鍛練場の端で待つ義父は片手に槍を携えたまま――瞑想をしているのか、目を閉じたまま終始無言。そんな父親にレオも無言で歩み寄る。
ちょうど義父との距離が5msに差し掛かった辺りで、レオは義父に語りかけた。
「来たぞ、オヤジ」
義父はその声を皮切りに、ゆっくりと目を開いた。
その瞳の先は――レオだ。
武器を持った状態でお互い対峙するのは久しぶりだ。その若干の緊張感からか、レオは僅かに仰け反りそうになる。若干の体の揺らぎはあったかもしれないが、軽く重心を落とした状態で義父の視線に真っ向から向かい合った。
――そして、義父が一言。
「さて。これから私と戦いなさい」
第二話 父親という存在
レオの義父は、とんでもなく強い。
傭兵団ギルドでは、登録されている傭兵たちをそれぞれの強さに応じてランクをHから順にSにまで割り振っている。
なんと義父は、数多くいる傭兵の中でも僅か四人しかいないと言われているSランクに認定されている。以前は他の傭兵団からの勧誘も激しかったが、傭兵団を立ち上げてしばらくするとピタリと止んだ。『なに』をしたかは聞いたことは無いが、多分聞いたら後悔するとレオは思い込んでいた。
しかし、レオの義父はその剣技が目立ち過ぎているせいであまり知られてはいないが、他の武器も超一流に扱える。彼の扱える武器は手甲、槍、カタナ、弓、メイスなどだ。しかも、彼はこれらの武器を扱えるにも関わらず未だ若い。
はっきり言って異常だ。
通常、その武器を実践の場で使いこなそうとすれば最低でも五年以上はかかる。
そのこともあり、一度レオはこれまでどういう生涯だったのか尋ねたことがあるがひらりと躱されて結局聞けずじまいだ。ただ知っているのは、昔いろんなところを旅していた――ということだけだった。
――そして。その義理の父親が今、目の前に対峙している。
槍を構えたその態勢だけで超一流の戦士だとわかる。木製とはいえレオの眉間に向けられたその槍の穂先は命を狩るための道具にしか見えない。身体強化魔術を一切使わずに
このままではある意味恐怖心からか、レオも自然と腰に差していた木剣を構えた。
レオという少年は、未だ十四歳にも関わらず相当な実力の持ち主だった。傭兵ギルドに名簿登録をしてまだ数か月なのでまだGランクまでしか上がってはいないが、現時点においてもその実力は既にCランクを超えている。レオ自身自覚はないが、傭兵ギルドの中でも相当の有望株として注目されていた。
そして、レオは剣先を義父へと向ける。
剣を構えるのに言葉は要らない。剣を交えるのに言葉は要らない。
その剣が、その目が、全てを語る。
――もちろん、レオが身体強化魔術を掛けるのにも。
(うん、やっぱSランクの化け物オヤジとまともに戦う方がどうかしてる。最悪の場合傭兵として生きていけなくなるかもしれない。いや、もしかしたら死ぬよな。若干十四歳の少年にあんた何求めてんだよ。殺す気か? 殺す気だってのか?)
レオは無詠唱で自身に身体強化付与魔術を掛けていた。これは絶対に詠唱を必要とする『身体強化魔術』や『属性身体強化魔術』と違い、あくまで体の各部位に強化魔術を『付与』することで必要な詠唱の過程を飛ばすのだ。しかも強度が上がるにも関わらず、第三者が見たところで魔術を行使していることは分かりにくい。
まさに外道。
しかし、やはりと言うべきか流石と言うべきか――義父はレオの体を隈なく見つめると、ポツリと溢した。
「――なるほど、ちょうどいいハンデですかね。私も『本気』になった方がいいのでしょう――」
寒気がした。
レオの周囲を、まるで寒波が襲って来たかのように覇気が取り囲んでいく。
そして。
――音が、消えた。
朝の鍛練場では爆破音や雄叫び、衝撃音が絶えない筈なのに、それらを一切感じることが出来なくなった。レオには最早、別世界に連れ込まれたような感覚に陥っていた。
(これが、Sランク――)
舐めてかかっていた訳ではない。むしろ格上の相手だと判り切っていたからこそ、レオはあくまでばれない様に身体強化魔術を使用したのだ。
だが、レオの義父はその上を往く。
この時点で、レオの目的は『勝利』から『無難に負ける』にすり替わっていた。無難といってももちろん手を抜いて戦う訳ではない。戦う上で『攻撃する』という選択肢を捨て、防御のみに専念するという意味だ。
レオは改めて意識をし直し、剣を握りなおす。
剣先は無論――義父の胸元に。だが、剣は平らな面を向けて。
一瞬義父は顔を顰めたが、構わなかったのだろう、そのまま構えをとり続けた。
――それからどれ程の時間が経ったのか。
十秒か、二十秒か、あるいは三十秒か。
時計の無いこの場においては、精神時間が全てだ。
緊張感のせいか、肌に刺激がひりついている。風の向きすら感じられず、踏みしめる大地すら不確かな存在に感じてすらいた。
不意に――
――水の滴る――
――音がした。
駆け出した瞬間はほぼ同時――いや、レオの方が僅かに遅れた。
これまで絞められたネジが巻き戻るかの如く、集約された時がレオの周囲を駆け巡る。刺突の構えを取りながら義父との距離を測り、槍の間合いに突入する。
『身体強化付与魔術』を使っていたレオと同等の速さで駆ける義父は、獲物の間合いに入るや否やそれを突き出した。
無論、レオもやられる訳にはいかない。義父に向けていた木剣のたいらな面を槍の穂先に傾けてぶつけ、刺突の勢いを逸らす。その衝撃を利用し、顔は義父に向けたまま片足を軸に体を反転させる。
十分すぎる勢いの刺突にも関わらず、義父は既に突き出した槍を引き戻していた。
(まっず!)
相当勢いよく体を回転させていたというのに、次の『横薙ぎ』に間に合わない。そう確信したところで――レオは妙な違和感がした。
(……あれ? なんで俺、オヤジが次に横薙ぎするなんてわかるんだ?)
まだレオの義父は槍を手元に引き戻した段階に過ぎない。それにも拘らずレオは即座に次の攻撃を『横薙ぎ』と断定していた。戸惑っても仕方ないと、レオは半身にまで回転していた体を一気に捻りこんだ。
回転斬りの要領で木剣を打ち付けようとしたレオと、やはり横薙ぎを繰り出した義父が再び衝突する。
木製のもの同士とはいえ、その衝撃は半端ではない。現役『Sランク傭兵』である義父を迎え撃とうとしていたレオは、相当力を込めて槍に叩きつけたにも関わらず痺れるような衝撃を腕全体で感じた。
(身体強化してなくてこの腕力かよ!?)
「このSランク魔獣! ちょっとは手加減してくれよ!」
「ははは。一対一の勝負でこっそり身体強化を掛ける人に言われたくはありませんね?」
「こんにゃろ……!」
やはりバレていた。しかし、それこそが義父の実力を証左している。相手を――その構えを見ただけで全てを見通すそれは、超一流の武芸家にしか出来ない代物だ。
しかもそれだけではない。まさにレオが今迎え撃っている、連撃に次ぐ連撃。最早身体の一部であるかのように振るい回す槍を、レオは紙一重で躱し、いなし、時には避けそこなった攻撃を喰らう。身体強化をしているのではないかと勘繰ってしまいたくなるほどに、攻撃の一つ一つが尋常でなく重い。
幾度も打ち合っていたレオは遂に、木剣を握る手を緩めてしまった。もちろんレオも故意ではない。あまりの衝撃に両腕が痺れきってしまっていたのだ。
「しまっ……」
それを見逃す義父ではない。握りが緩くなっていた木剣を槍による大きな振り回しで叩き飛ばした。ここでアカネのように超近接戦闘を得意とするならまだやりようもあったが、レオはそこまで格闘技を極めている訳ではない。そもそも両腕両足と槍では間合いに差がありすぎる。槍と言う武器を相手にした経験の無いレオは、そこからの距離の詰め方を知らなかった。
その上両腕が痺れている以上、出来ることは限られてしまっている。
レオは迷わず蹴りを繰り出そうとしたが、レオの義父は脚の間合いの外から槍を突き出していた。
(――勝負あり、か)
負けを確信したレオは、一気に弛緩した体に身を任せ、そのまま尻餅をついた。しかし、それ以上に無難に終わる事の出来た安心感の方が強かった。
(あー。負けた負けた)
やはりSランクと言う壁は大きい。そうレオは義父と言う存在を再確認していた。
しかし、同時にレオは無自覚でもあった。いくらハンデもあったとはいえ、若干14歳にも関わらず本気のSランク傭兵と途中まで打ち合えているという事態は異常であった。
しかし、レオは気が付かない。目の前の壁が大きすぎるあまり、その他の壁を障害として認識していないのだ。レオがこの事実に気が付くのは、まだ先だった。
「お疲れ様です、レオ」
そう言って義父は槍を持っていない方の腕をレオに差し出した。
レオには少し複雑な感情もあったが、先ほどの戦闘で殆どの体力を持っていかれていたせいでまるで動けなかったのもあり、仕方なくその手を掴んだ。漸く立ち上がれたレオはもうたくさんいいだろうと愚痴をこぼした。
「チートだろ。なんで身体強化使ってんのにまともに打ち合えるんだよ」
「ははは。実力差と言うものですよ、レオ」
「相当うざいこと言っているのに事実なのがなお腹立つ……」
思春期に差し掛かっているレオは義父の言うことに一々目くじらをたてていたが、最早馴れたと言わんばかりに容赦なく畳みかけた。
やれ最初の構えの段階で攻撃という手段を捨てたのは何を考えているんだ、相手の力量も大事だがこれはあくまで鍛練の一環なのに何故挑戦してこない。
やれ2撃目で槍の横薙ぎの予想はなかなか良かったが、その前に何故回転斬りをしようとした、悪手でしかないだろう。
やれ一番最後に足掻いて蹴りを繰り出したのは悪手とは言い切れないが、武器によっては悪手でしかない。しかも槍相手に何をしているんだ。一歩下がるなり方法があっただろう。
と、一通り先ほどの戦闘の批評を終えた義父はレオの方を見たが、その超本人(誤字に非ず)はと言えば。
「あ、あほー」
語彙力を失っていた。
少しかわいそうなことをしてしまったかと義父は漸くそこで思いとどまった。だが時すでに遅し。レオは最早焦点を合わせぬまま明後日の方に向かってひたすら「あほー」としか言わなくなっていた。見るに堪えないその光景にさすがのレオの義父も苦笑いを浮かべるしかない。
しかしここは流石レオの父親。義理とはいえ10年近くレオを育てて来たせいか、レオの扱いはもうわかり切っていた。
「というわけで、レオ。そろそろ武器を槍に持ち替えてみませんか?」
「――あほぉ?」
レオの焦点が戻った。かと思えば、ブリキの様に首をギギギギッと鳴らしながら義父の方へと顔を向けた。顔芸人となり果てたレオは、漸くその口を開いた。
「……マジ?」
「マジもマジ、本気ですよ。これまでは十分に槍を振り回せるだけの身長がなかったからと言うのが一番大きいですね。それにレオもそろそろ剣ばかりは飽き飽きでしょう?」
レオの義父はそうは言うものの、実を言えば本質はそれだけではなかった。
レオは未だ14歳。これまで背丈的にも大弓どころか槍を扱えるとは到底言えなかった。もちろんそれだけではない。これから大弓を扱おうとすれば、それ相応の筋力も必要になってくる。身体強化だけで扱えるほど甘い武器ではないのだ。射撃をしようとすれば狙いから逸れない様に態勢を維持できるだけの地の筋力も必要になって来る。
しかも、現時点でいる大弓使いはその殆どが近接戦闘を苦手としている。普段は間合いの遥か遠方から援護射撃をしていれば、自然と近接戦闘から距離を置くようになる。そもそも元は魔術に通じていた者が殆どだ。近接戦闘の経験が基からないのだ。それを見越した上で、レオに近接、中距離、遠距離のどの土俵に立ってもAランク以上に対抗できるだけの実力を付けさせようとしていた。
……あくまでもレオの気持ちを尊重して、だ。あくまでもレオが大弓を扱いたいという気持ちを汲んだのであって、別に近距離で戦いたくないと言っていたのに対して『ちょっと可愛がってやろうとしただけであって、義父に他意はない。無いったら無い。
「ィよっしゃァァァアアアアッ!! さては昨日のが効いたな!?」
「レオ。まだ体力が残っているようですね。それでは早速槍について教えていきましょうか」
「あ、いや。ちょっと待とうか。なんで指をボキボキ鳴らしているんだ? っていうかなんで身体強化魔術使ってんだ? 俺の総魔力量舐めるんじゃねぇ! ……あ、すいません嘘です。私が間違ってました。だから逞しいそれを下して――あ”あ”あ”あ”あ”! ってなんで回復魔術を掛ける!? 逃がさない気か!? 誰か助けて! 逞しいアレを突っ込まれるゥ!」
やはりと言うべきか何と言うべきか、レオはアホだった。
それから朝食の時間になるまで、レオはいたぶられ続けた。
義父の前に残った屍には、最早何も言うまい。
「全く……」
地べたに転がるレオを見ながら、義父は溜息を溢す。しかし、その眼差しは先程よりも優しげだ。
(でも、だからこそ期待できるんです。君なら、彼らを――)
義父は日が昇り切り、雲一つない晴れ渡った空を眺める。しかし、その視線の先は更に遠く――それでいて、その存在を確かにとらえていた。
これからレオは傭兵ギルドに来る依頼をこなす事を一旦止め、義父に槍のいろはを叩き込まれた。およそ二年間に渡る歳月が経ち、成長期に突入したレオの背丈は180csとなっていた。漸くアカネに見下ろされずに「おにいちゃん」と呼ばれる事に安堵していたのはここだけの話だ。たとえその話題を義父がしたとしても。
そして、二年の歳月が経ったとき――物語は流転しだす。