プロローグ
どうもはじめまして。
近所の戦闘狂と申し侍り候なりけり。
人称のずれは仕様です。
この世界は、妙に狭い。
そう感じたのは何時頃からだっただろうか。物心が付く頃にはそう思っていた。
何故かはわからない。
己は矮小な存在のはずなのに。
自分はどうしてここにいるのか。
幼い『私』は考える。
――分からない。
自分は誰だったのか。
――分からない。
天気は曇りのまま。そのまま『私』を飲み込んでしまいそうな程暗く。今にも雨が降り出してしまいそうなほど不安げで。
いくつの頃だったか。ただ母親が泣き崩れているのを見た。
『私』の父親が死んだらしい。戦死だった。この時代では珍しくとも何ともない。
でも、周りの人が「名誉の死だ」といって喜んでいるのを見て、自分の感情は分からなくなってしまった。
命の価値が、分からなくなってしまった。
――ぽとっ。
そして、ついこの間。
母が死んだ。
何者かに強姦された後、首を斬られて逝ってしまった。
『私』に恨みはない。それが当然の世の中だったからだ。
そもそも、親の愛など認識できるほど成長していなかった。
スラム街の路地裏に咲く花が、どうして親の愛を知れようか。
――ぽたっ。
どうしてこうも簡単に死んでしまうか。
少年には分からない。
“悲しかった”“悔しかった”“恐ろしかった”
どの感情が正しいのか。
――ぽたぽたっ。
いや違う。
“分からない”から“恐れた”のだ。
見ることも聞くこともできない、それなのに感じることの出来るそれに、『私』は“恐れた”。
――ザァァァアアア。
不安げな空はついに、抱えた物を抱えきれずにこぼしてしまった。
軒下に居た為直接雨には当たらないが、地面から跳ね返った水や土、泥がこの身を汚していく。
何日も碌なものを食べられていなかったから、最早身に着いた泥を何とかしようとすることも出来ない。
もうこれまでかと、前のめりに倒れ込んでしまった。泥が身を覆い、軒下から出た体を雨が容赦なく襲う。奪われていく体温が、少年に『死』というものを尚意識させる。
だが――。
ふと、視界が暗くなった。
いや違う。目の前の人が大きすぎるのか。
「こんな子供がこのような場所に捨てられているとは……。世も末ですね」
その人は妙に低く、それでも人の好きそうな声で話しかけてきた。
「ですが、貴方は幸運だ。何故なら――」
顏は良く見えない。髪は女性の様に長くて、まだ幼い『私』の体を抱え込んだ腕はそれに合わず力強く。
「――私が拾ったのですから」
書きダメは衝撃の残り6話。
プロットは完成済みなんだけどなぁー