朝
この小説に出てくる人物名、団体名、建物、地名はすべて想像であり実際のものとは関係ありません。
「Iと夏のモラトリアム」
「恋ってさ、なんかわかんないよね。」
「どしたの急に。」
「みんなどうして恋なんてするのかな。早く大人になりたいのかな。」
「いやいや、好きな人ができるからでしょ。」
「好きな人かあ。それって本当に好きなのかな?」
「本当とかないと思うけど。でも恋は盲目だからね。恋してる人にはわかんないんだよ。」
「やっぱり厄介なやつだな!恋ってのは。」
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今日も暑い。まだ5月だというのに、気温は連日25度を超えている。熱中症とか温暖化とか、スーツの専門家がすまして喋っているのを横目に家を出る。太陽がぎらぎらと通勤通学の若者を容赦なく焼く。まだ朝の7時だというのに空気は既に熱く汚れている。さっきのテレビ局は冷房がガンガンに効いていて冷えているんだろうな。羨ましい、なんて思いながらだらだら歩くと赤い時計塔が見えてくる。あれが私の通う学校だ。地元じゃいいとこのお嬢様校なんていわれているけど、実際は普通の中高一貫女子校だと思う。裏口から階段を上り教室に着くと、そこはいつも通り騒がしく、制汗剤の臭いに包まれていた。
先生の話を静かに聞いて、黒板通りにノートを取る。しまった、今日は小テストの日だ。私は人より抜けているのかよくテストや宿題を忘れる。言い訳をすると、サボろうとしてるわけじゃなくそもそも先生の話を聞いていないのだ。だけど、こういうときこそ何とかするのがわたしだ。
先生が教壇でテストの準備を始めた。私はそっと2つ右の席のなーちゃんに目配せをする。なーちゃんがこちらに気づき「なに」と口パクをする。私はワークノートのテスト範囲であるページをそっと見せる。そのノートの白さを確認したなーちゃんは、任しとけと言わんばかりの笑顔でオッケーのサインをし、叫んだ。
「せんせー!せんせーの親友がハムスターって本当ですか?」