6話 王子とか、めんどくさい。
放課後、迎えの馬車を待っていると少し離れた所にやたらキラキラした男子生徒の姿を見つけた。
彼は攻略者の一人、ニクス・セルビア。
この国の王子で物腰柔らかなイケメンである。金色の髪が日の光を反射して輝いていた。
ニクスの回りには数人の女子生徒がいてひっきりなしに話しかけている。
王子様はモテモテですなぁ……
決めるのはスピカだけど出来れば王子ルートは避けてほしい……王妃様になったらスピカの心労絶えなさそうだもの
あの子が将来苦労しない様にニクスはお勧めしたくない。
そんな事を考えながらハーレムを眺めているとニクスと目があった。
瞬間に何か嫌な予感がしてぐりんと首ごと目をそらす。勢いをつけすぎて首の筋が痛かったがそれどころではない。
私の嫌な予感は妙に当たる、このまま見つめ合っていたら絶対駄目な気がした。
視線を反らしたのにびしばしと王子から視線が刺さる。
何でこっち見てるの……見なくていいから。変なフラグたてないで……
迎えはまだなの?
一刻も早くこの場から逃げ出したいのに迎えの馬車が来なければ動けない。
必死に視線をそらしていると女子生徒達が落胆する声が聞こえコツコツと石畳を歩く音がしたかと思うと、やたらいい声がすぐ正面から聞こえた。
「ステラ嬢、ごきげんよう」
貴方のせいで最悪の気分です、と言えるわけもなく私はスカートの裾を摘まんで頭を下げる。目の前にこられて声をかけられたら流石に無視できない。
「……ごきげんよう、ニクス殿下」
早く女の子達のとこに戻ってくださいという気持ちをできるだけ声色に含めて挨拶する。
「スピカ嬢が早退したと聞いたけれど様子はどうだった?ステラ嬢が見送ったと聞いたのだけれど」
そう言われて顔をあげればニクスは眉尻を下げて不安そうな顔をしていた。
なんだ、てっきり私が絡まれるのかと思っていたけどスピカの事を心配してただけなのね……やだわ、私ったら王子様にまで難癖つけられるのかと勘違いしてた、流石に失礼ね
ニクスに心の中で謝罪しながらスピカの様子を告げる。
「意識も戻りましたし、足元もしっかりしていました。先生にも様子を見ていただいて、大事をとって早退という形をとらせていただきましたが明日は普通に登校できると思いますわ」
私がそう言うとニクスは安堵したようにふわりと微笑む。
「そう、それは良かった。なら私がお見舞いに行っても構わないね」
ふむ、王子様はお見舞いに来たかったんだ。
これも何かのイベントなのかな?ゲームの中身覚えておけばよかった……まぁ、仕方ない
そう思っているとやっと我が家の馬車が到着した。御者が扉を開けるとニクスはこちらにすっと手を差し出す。
「ステラ嬢、私も同伴させてください」
目を瞬かせる私に手を差し出すニクスは我が家の馬車に私と同乗し、スピカのお見舞いに来るつもりらしい。
少し離れた所からニクスの事を見ていた女子生徒達の悲鳴が上がる。
嫌な予感の正体はこれだったようだ。
まじか、家まで王子様の相手しなきゃいけないのか……あー、めんどくさい