36.5話
「なんで…っ!」
苛立ちを含んだ声と共に薄暗い部屋の中でばしゃりと水の入ったガラスの器を引っくり返した。これは先程までステラたちの様子を監視するために使っていた水鏡の器だ。
絨毯に出来た染みには目もくれずそれを力任せに踏みつける。
ばりんと割れたそれは上等なものらしいが、変わりはいくらでもあった。
粉々になるまで何度も踏みつけ唇を噛み締める。
スピカがニクスに惹かれ、ステラを誘拐しようと魔物達が現れるところまでは順調だった。
けれど現れた魔物の中にあの人が居たのだ。会いたくて会いたくて堪らなかったあの人が。
スピカをニクスルートに進ませる為にステラの悪い噂を流し、彼女は悪者だという先入観を生徒達に植え付けた。
そしてステラを孤立させ魔物に誘拐させる。
本来ならばその後、自分がスピカを励ましてステラを助けに向かった所であの人と出会うはずだった。
なのに何故かあの人はステラを助けに来た。ステラを守ったのだ。
そんなのシナリオには存在しない。
あの人に愛されるのは自分のはずなのに、なんであんたがそこにいるステラ・カークラ!
「…悪役風情が…あの人の傍にいるなんて許せない」
何が原因で物語が狂ったのかわからない。
けれど狂ったなら修正すればいい。
他でもない、自分の手で。
そうしなければあの人に愛してもらえない。
「…彼女には…死んでもらわないと」
溢した呟きは闇に溶けて消えた。




