15話 カラスの恩返し-弐
広く晴れた空の下で食べるお弁当は格別だ。
のんびりと堪能していると、急に目の前に黒い塊が降り立った。
数度瞬きしてそれが何か認識した私は人がいないのを良いことに話しかけてみる。
「また会ったわね」
私の言葉にゆっくりとこちらを見つめたのは、昨日治癒魔法をかけたヤタガラスだった。
何やら咥えていたようでお弁当を包んでいた包みの上にぽとりとそれを落とす。
「これ……クッキー?」
それは可愛らしいリボンでラッピングされ、小さな袋に詰められたクッキー。
まさかとは思うけど、昨日のお礼のつもりかしら
でもヤタガラスにクッキーが作れるはずないし……まさか、泥棒してきたとか?
お礼だとするならば素直に嬉しいが、それが盗んできたものとなれば受け取れない。
私がクッキーの袋をじっと見つめていると、ヤタガラスは受けとれと言うようにくちばしで袋をこちらに寄せてくる。
「……気持ちは嬉しいけれど、これどこで手に入れたの?盗んだものは受け取れないわよ」
言葉など分かるはずもないと思いながらそう告げるとヤタガラスはじっとこちらを見てくちばしを開いた。
「盗んだりしてねぇよ!ちゃんと人間の通貨で買ってきたんだ、だから安心して食え」
………………………
……………
…………
……
ヤタガラスが喋った。
……そうか、魔法が使える世界だもの、動物が喋ってもおかしくはないのね
一人納得すると私は再びヤタガラスに話しかける。
「そう、ならありがたくいただくわ。そうだ、お礼にひとつ食べる?」
そう言ってクッキーの代わりにお弁当のおかずから卵焼きを弁当箱の蓋にのせて差し出した。
「いいのか!?食う!」
ヤタガラスは嬉しそうに即答し、ぱくりと卵焼きを一口で平らげる。しかしすぐにはっとして慌てだした。
「昨日の礼にクッキー持ってきたのにまた貰ったら、またお礼もって来なきゃいけねぇじゃん!」
そんなこと気にしなくていいのに律儀なヤタガラスだ。
慌てるその様子が可愛くてつい頬が緩んでしまう。
「ヤタガラスって律儀なのね」
「まぁな。俺は日本育ちだからな!アンタもそうだろ?俺の一族のこと、知ってるみたいだし」
こてんと首をかしげるヤタガラスに私は目を瞬かせる。
「……貴方、日本から来たの?」
「おうよっ!」
どうやらヤタガラスはこの世界の生き物ではなかったらしい。




