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二十話 神顕す能士(前編)

 ポタ…… ポタ…… ポタ……


 御階(みはし)猿渡(さわたり)の銃弾を受けた阪牧(さかまき)は身体から血を滴り落とす。


「お仲間の登場かね……。ぬぅ……」


「へっ! 警視庁公安部特殊捜査班SPAGとは俺たちのことだ!」

「この四人が揃ったら、どんな強敵にだって負けないもんねぇ!!」


 意気揚々と啖呵を切る猿渡と麻倉(あさくら)

 都鳥(とどり)は思いがけない味方の登場に嬉しさ半分で困惑している。


「みんな……! どうして僕がここに来ると分かったの……?!」


 都鳥自身は、楓原(かえではら)の車の中でこの場所が書かれたメモを見つけ、昨夜からずっと張り込んでいた。


 不思議そうにしている都鳥に御階がカラクリを明かす。


「このバッジ、発信機がついてたんですよ。すっ呆ける久留主(くるす)課長を問いただして班長の場所を割り出しました」


 SPAG編成時に久留主から渡されていた胸元の黄色いバッジは、警視庁の上層がSPAGの動きを把握するための発信機だったのだ。


「そういうことですか……。通りでしょっちゅう課長につかまるわけだ」


 一同に笑いがこみ上げた。

 だが、都鳥はすぐに表情を固くする。


「だけど……、ここは僕一人でなんとかする。三人は地上に戻って機動隊の援護を」


「またそれですか?! 俺たちは四人でSPAGなんだ! そういうわけにはいかないっすよ!!」

「みんな珠伽(みとぎ)班長のこと信じてるの! だから……、班長もあたしたちのこと信じてよ!」


 都鳥はその聞き覚えのあるセリフにハッとした。


「だそうですよ。都鳥班長、早く指示を出してください」


 都鳥は悩むことなく、自分の中ですんなりと答えを出した。


「……よし、SPAG編成以来の大仕事だ!!」


「おーーーーー!!!!」


 SPAGの掛け声が地下通路に響き渡る。

 そうした中、阪牧が冷めた様子で動き出した。


「……話は済んだかね。私に油を売っている暇はないのだ」


「阪牧さん、緋斗美(ひとみ)さんの仇、うたせてもらいますよ」

「言うようになったな都鳥くん。臨むところであるぞ」


 SPAGは都鳥の合図で戦闘態勢に入る。


「行くよみんな!! はぁぁぁ!!!」


 先ずは、都鳥が硬化させた右手で阪牧に殴りこむ。


「ぬぅ……! 巨炎(ジャイアントファイア)!!」


 都鳥のパンチを受け流した阪牧は両手に気を集め巨大な炎を放った。


「あたしにまかせて! ウインドバースト!!」

「はぁぁ!! 金焼(かなや)き!!」


 ビュゥゥゥゥ!! バァァァァァァ!!!!


 麻倉が強風を起こして阪牧の炎を吹き返すと、都鳥がその技に熱波動を合わせた。


「うぬ……!! 火槍(ファイアランス)!! ふん!!」


 強風にのった熱波動を後ずさりしながら受け止めた阪牧は、再び炎の槍を作って攻撃を仕掛ける。


 バキュゥン!! バキュゥン!!


「ぬぁ……!」


「後方からは僕が援護しますよ」


 御階の銃撃によって槍技を繰り出そうとしていた阪牧は動きが封じられた。

 すると阪牧は槍を捨て、両手にそれぞれ大きな火の玉を作り、SPAGの面々に向けて放つ。


「ぬおお!! 炎球(ファイアボール)!!」

「ジェットレインボー!! はぁぁぁぁ!!!」


 地下通路の天井近くまで飛び上がった麻倉は飛んでくる火の玉目がけて気弾を連射した。


 バン、シュゥゥゥゥ!! バン、シュゥゥゥゥ!! バン、シュゥゥゥゥ!!


 阪牧の火の玉は麻倉の強烈な気弾でことごとくかき消されていく。


「火のおっさん!! こっちだぜ!! おらよっと!!」


 今度は猿渡が阪牧の前に飛び出して挑発をはじめた。


「ぬ! ふん!! ふん!! ふん!!」


 阪牧は猿渡を狙って至近距離から火の玉を連発する。

 その火の玉を猿渡は持ち前の反射神経でひらりひらりとかわしていく。


「はぁぁぁ!! 金剛力(こんごうりき)!!」


 バッゴォォォォォォン!!!!


 猿渡に気をとられた阪牧の隙をついて、都鳥が渾身の正拳突きを撃ち込んだ。


 バキュゥン!! バキュゥン!! バキュゥン!! バキュゥン!!


 さらに、御階が銃撃で追い討ちをかける。


「ぬはぁぁぁ……!!」


 二人から激しい攻撃を受けた阪牧は膝をついて動きを止めた。


「やったか?!」


「いや、まだみたいですよ」


 それも束の間に、ぬくっと立ち上がった阪牧。


「……まさか二日続けてやることになるとは思わなんだ」


 そう言うと全身から凄まじい気を放出させる。


「すごい気……!! こんなのはじめてだよ……!」


「ぬふ……、ぬふふふふふふふふふ!!!!」


 ドドドドドドドドドドドドドドド……!!!!


「き、昨日と同じ地鳴りだ……。阪牧さん、あなた何を……?!」


 阪牧は地響きを起こしながら極限まで気を高めた。

 そして、リミッターを外すかのように腹の底から気合いを爆発させた。


「ぬ……、ぬ……、ぬおおおおおぉぉぉぉぉ!!!! あぁぁぁぁぁ!!!!」


 ボワァァァァァァァァァァァァァ!!!!


 その瞬間、阪牧からけばけばしい青色の炎が燃え上がった。

 そして立ち込める火煙の中から阪牧のおどろしい声が聞こえてくる。


「これが真なる神の姿」


 火煙が収まるとそこには別人のような阪牧がいた。

 髪の色は白く、肉体はがっちりと強靭化され、透き通ったような全身からは目視できるほど色濃くオーラが溢れ、まるでこの世のものじゃないような様相をしている。


 阪牧は続けてこう言った。


神顕(かみあらわ)す能士だ」





 総理官邸前。


 ドドドドドドドドドドドドドドド……


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 激しい地鳴りが止むと、菟上(うなかみ)が雄叫びをあげて眩い光の中から姿を現した。


 菟上は髪が真っ白になり、少しがっちりとした身体は透けているかのように見える。

 別人のような姿の菟上は身体中からキラキラとまぶしいオーラを放ち、ゆっくりと状態を起こした。


「は、はは……! はーっはっはっはっは!!! 神顕す能士だ……!! こいつはたまげました!!」


 その光景を目の当たりにした古宮(こみや)は驚嘆のあまり引きつり笑いを浮かべる。

 近くにいる(くすのき)蓬条(ほうじょう)もあっ気にとられて目を丸くしている。


「た、確か神顕す能士って、ミスターの別名だったよな……?」

「違うわよ……! 神顕す能士が他にいなかっただけ!!」


 菟上は古宮を鋭く睨みつけて冷徹にこう言い放った。


「古宮。死んで償え」


「おぉぉ怖い。まるで別人ですね」


「ア、アニキ……。リカクのやつ、一体どうしちまったんだ?!」


 現状を把握できていない楠と蓬条に古宮が興奮気味に説明をする。


「そういえば二人はミスターの覚醒状態を見たことありませんでしたね! 我々能士は能力を極めると覚醒できるんです! その神がかり的な力も去ることながら、姿までもがまるで神のように見えるので、遠い昔から神顕す能士って言われてるんですよ!」


「そ、それじゃリカクはいま覚醒してやがんのか……!!」

「そうですー! これって滅茶苦茶凄いことなんですよ!! いやーたまらん!!」


 古宮たちに激震が走る中、菟上が凄然と近づいてくる。


「く、来るわよ……!! え?! 飛んだ?!」


 空高く浮かび上がった菟上は三人を目がけて高速で飛来する。


「ちっ、リカクの野郎! 裏切る気だな!! サンダーボルト」


 ズゴォォォォォォバチィィィィィィィ!!!


 楠は菟上に強烈な雷を落としたが菟上はこともなげに飛行を続ける。


威光(いこう)罰輝(ばっき)


 菟上は飛行スピードをぐんぐん上げ、光の速さで楠に突撃した。


 ビュゥゥゥゥ!!! ズバァァァァァァァァン!!


「ぐおぉぉぉぉぉ……」


「お、大人しくしなさい……!! グラビティフォース!!」


 蓬条が能力を発動させて菟上に強力な重力をかけた。

 しかし、菟上は空中に浮遊したまま平然としている。


「う、うそ、効かない……!! なんで?!」

「威光・煌波(こうば)


 バッドォォォォォォォォォォォォン!!!


 いかめしく輝く強烈な波動が蓬条の身体を貫いた。


「ぎゃああああ!! う、うぐ……」


 瞬く間に虫の息状態となった二人を古宮はニンマリしながら眺めている。


「二人ともあっという間にやられてしまいましたか。神顕す能士だもの、そりゃかないませんよね! はは!」


「お前の番だ。殺す」


「ひゃー! おっかないですね! ディストゥラクションボール!!」


 古宮が巨大な暗黒の気玉を菟上に放った。


「威光・耀霊(ようれい)


 菟上はそれに赫奕とする光の大霊をぶつける。


 バチィィィ! ズババババババババババ!!

 

「うごごごごおおおおおお……!!!!」


 暗黒の気玉を一瞬で飲み込んだ光の大霊が古宮を押し潰していく。





「諸共、死に晒せ」


 覚醒した阪牧がSPAGに迫る。


「み、みんな……! 用心するんだ……!!」


 阪牧から底知れぬ脅威を感じた都鳥は三人に強く注意を促した。


覇炎(はえん)烈火(れっか)!!」


 ボオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!


金壁(きんぺき)!!」


 都鳥が四人の前に大きな金の壁を作って阪牧が繰り出した炎を防ぐ。


 ボオオオオオオ……ドロォォォォォォ……ボォォォォォォォォ!!!!


 しかし、先ほどとは比べ物にならないほど威を増した阪牧の猛炎が都鳥の金の壁を溶かして四人を巻き込んだ。


「うぐぁぁ……!! み……、みんな大丈夫か……?!」


 炎にまみれたSPAGの面々は必死に衣服にうつった火を消している。

 そんな中、阪牧は間髪を入れずに攻撃を仕掛ける。


「覇炎・火砲(かほう)!!」


 ボオオオォォォォォォォン!!!!!


 阪牧が合わせた両手から砲撃のように火の塊が放たれ、浮遊している麻倉に飛んでいく。


「きゃああああ!!!!」


 火砲の直撃を受けた麻倉は炎にまかれながら床に落下した。


「め、芽來(めくる)……!!」


「覇炎・火斬(かざん)!!」


 阪牧は続いて猿渡と御階を狙った。

 握り締めた右手に青白い炎が切っ先鋭く立ち上がり、それを二人に向けて振りぬく。


 ボワアアッッッッ、ギシャャャン!! ギシャャャン!!


 凄まじい炎の斬撃が二人の身体を炎々と斬り裂く。


「ぐぁぁ……!!!」

「うぐぁ……!!!」


魁惟(かい)……!! 御階さん……!!」


「死ね」


 殺気を漂わせる阪牧が都鳥に人間味のない目を合わせて近づいていく。


「くそ……!! はぁぁぁ!! 金覆(きんぷく)!! 金剛力!!」


 全身を硬化した都鳥は近づく阪牧に大きく硬化させた右手で正拳突きを放った。

 それと同時に阪牧は全身にまとっていた炎を都鳥に解き放つ。


「覇炎・滅火(めっか)!!」


 ボオオオボワアアアアァァァァァァァ!!!!!


 都鳥は正拳突きの構えのまま灼熱の炎にのみこまれた。


「ぐはああああ……!!」


 阪牧の炎はまたしても都鳥の硬化を破り、都鳥を焼き払っていく。


「諸共、灰になれ」


 阪牧が止めを刺しにかかる中、都鳥は気力を振り絞ってボロボロの身体を起こす。


「……ま、まて……、これ以上……、みんなに……手出しはさせない……!」

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