十六話 楓原緋斗美(前編)
楓原の制止も虚しく、SATの隊員たちは自動拳銃を撃ち続けた。
しかし、能力で闇に紛れた古宮に銃弾が当たることはなかった。
バァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
古宮が両手を上げて頭上に大きな暗黒の気玉を作っていく。
「ディストゥラクションボール!!」
ズドドドドドドドォォォォォォォ!!!!
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
古宮が放った暗黒の気玉が二十名のSATをまとめて飲み込んでいく。
その威力でSATの強力な装備がズタズタに引き裂かれ、隊員たちがじわじわと押しつぶされてゆく。
「はははは! ざまぁありませんね!! おたくらの考えなんて見え透いてるんですよ」
潰滅していくSATを眺めながら古宮がせせら笑う。
「おい! どうした!! 応答しろ!!」
無線で呼びかける楓原の声に隊員から反応はない。
「くそ……、読まれていたのか」
唇を噛んで悔やむ楓原が大広間の入口にたどり着いた。
しかし、大広間を覆いつくす暗黒のエネルギーが室内への侵入を阻んでいる。
「冥闇の能士か」
楓原はそう言うと、すぐさま気合いを入れて能力を発動させた。
「はぁぁぁぁぁ!! 天津水影!!」
楓原は自身の気を水の蒸気に変えて周囲に充満させ、その密集したエネルギーを大広間に向けて解放した。それは古宮が作った闇の空間に粒子のように広がって、聖水の作用で暗黒のエネルギーを浄化させていく。それによって、SATを襲っていた暗黒の気玉もかき消され、大広間内には古宮の姿があらわになっていた。
「あら。副総監さんのお出ましですね。これは水濤の能力ですか? いやーびっくり」
楓原は古宮の質問を無視して瀕死の状態となったSATの隊員たちに声をかける。
「私の判断ミスだ、すまなかった」
「……ふ、副総監……謝らないで下さい。我々はあなたのためなら」
そう言いかけた五十嶺隊長に古宮が追い討ちをかける。
「黒波!!」
バァァァァァァン!!!!
古宮の放った黒い波動が五十嶺に直撃した。
「ぐ、ぐぁ……!」
「お話中すみません。殺し損ねてましたので」
古宮が楓原を挑発するようにへらへらと笑う。
「貴様……! 水龍剣!! おぉぉぉぉ!!!」
憤った楓原が怒涛の勢いで古宮に斬りかかる。
古宮も冥闇の能力で武器を生成して楓原を迎え撃つ。
「メアブレイド!!」
古宮の漆黒に染まる片刃の剣と楓原の鋭いウォーターサーベルが刃先を交える。
バキィィィン! バキィィィン! バキィィィン! バキィィィン!
剣技に長けた楓原が徐々に古宮を追い詰めていく。
そして、古宮との間合いを詰めて絶妙なタイミングで奥技を繰り出した。
「水龍昇!!」
ドン! バッッギィィィィィィン!!
楓原は腰を落として古宮の足元に踏み込み、垂直に高く飛び上がってサーベルを振り上げた。
龍が天に昇るような美しいシルエットで古宮の身体を斬り上げていく。
その技によって手にしていた剣をはじかれた古宮は流血する腕を押さえて苦笑いを浮かべる。
「ほぉ……! 随分の手練ですね……! ならば私もとっておきを」
そう言うと古宮は顔を歪ませながら全身に気を漲らせていく。
「エンペラーキリング!!」
古宮の全身から針のように鋭い暗黒のエネルギー波が何十発と放出され、楓原の頭から足の先まで滅多刺しにしていく。
グシャァシャァァシャァァシャァァシャァァシャァァシャァァァァ!!!
「く……!」
シュゥゥゥゥゥ…………
古宮の攻撃が止むと楓原はぐったりとしゃがみ込んだ。
その様子に古宮は驚きを隠せない。
「こりゃ参った! 身体を液状化させて逃れましたか! この技を受けたら普通は即死ですよ! 流石は副総監だ、はは!」
水を操る水濤の能士である楓原は、自らの身体を液状に変えることもできる。
先ほどの古宮の攻撃も、咄嗟に身体を液状化させて物理的なダメージを回避していた。
「反逆者どもめ……。貴様らは必ず殲滅させる」
楓原はすぐに立ち上がり攻撃態勢に入った。
「いつまで遊んでいるつもりかね、古宮くん。明日の準備もあるんだぞ」
「出てきたか、阪牧」
戦況を見かね姿を現した阪牧が古宮に苦言した。
「すみませんミスター。やはり高月さんが……」
「この裏切り者なら既に処刑しておる、ほれ」
阪牧が放り投げたのは全身を焼き焦がされた高月の亡骸。
「た、高月会長……!」
怒りに打ち震える楓原は鬼のような目つきで阪牧を睨んでギリッと右手の爪を立てた。
「おのれ……! 水龍牙爪!! はぁぁぁぁ!!」
ドルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!! ズバァァァ!! ビッシャァァァァ!!!
楓原の右手にかたどられた鋭利な水龍の爪が阪牧の胸を深くえぐっていく。
「ぐ、ぐ、ぐぎゃああああああああ!!!!!!!」
「ミスター!!!!」
楓原の強烈な攻撃をまともに受けた阪牧は大声をあげて水浸しになった床へと倒れこむ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
楓原は吐息を漏らしながら阪牧に近づいた。
すると、あっさりやられたかに見えた阪牧の目がギロッと開く。
「……なんてな。驚いたであろう」
そう言って阪牧は何事もなかったかのように起き上がった。
「馬鹿な! 仮にもお前は火結の能士……! 私の能力が克するはずだ! 効かないわけが……!」
驚愕する楓原に阪牧が能士の本質を説き始めた。
「ぬふふふふ。事のついでに教えてやろうかね。能士の能力というのはそもそも、限られた者だけに備わった、いわば遺伝的なものだ。扱うことのできる能力は個々によって違うが、どの能士も等しく神の持つ力を使うことができる。だとすれば、我々は神なる力を持っていた者の遺伝子を受け継いでいるわけだ。ではそうなると我々の祖先は……。そう、まさに神そのものなのである。つまり、我々には神族の血が流れているのだ。もうお分かりかね? この能力を突き詰めれば自ずと神になれるということを。神となった者を相手に、相克関係などと言った子供だましが通用するはずもあるまい。まぁ、百聞より一見であるな」
話を終えた阪牧は全身の気を抜いてうやうやしく頭を垂れた。
「ミスター……! まさかここであれを……?!」
次の瞬間、阪牧は雄叫びをあげて気を爆発させる。
「うぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!!
全身に炎をまとった阪牧は地響きを起こしながら極限まで状態を高めていく。




