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七話 死闘の果て

「……んぐ……ぐ……!! ぐあああ!!」


 岩石に串刺しになっていた麻倉(あさくら)

 蓬条(ほうじょう)の重力から開放され、空中に浮き上がるようにして自力で岩石から身体を引き抜いた。


 腹部には大きな穴が開いていて尋常じゃない量の出血をしている。


「くはっ……」


 麻倉は血を吐き出しながら蓬条を追ってよろよろと飛ぶ。


珠伽(みとぎ)班長……、あたし負けないよ。終わったらみんなでピザ食べるんだ」





「……けっ! リカクの野郎、余計な真似しやがって。しかたねぇ、あいつでも殺すか」


 国会議事堂の壁から脱した(くすのき)は、この状況にオロオロしている猿渡(さわたり)に目を向けた。

 猿渡は銃を構えて楠を威嚇する。


「く、くるならこい!」


「お前は能士じゃないんだよな! そんな使えないやつがいる時点でSPAGなんざお察しだわ!!」


「うるさい! 俺はSPAGの一員であることに誇りをもってんだ!!」


 猿渡はそう言って楠に発砲した。


 バキュゥン! ビリリィィィ……!!


 だが、楠の身体を取り巻いている雷電が銃弾を弾き落とした。


「へっへ! 当たんないぜ。まぁ当たったとこで知れてるがな」

「くそ……!!」

 

 バキュゥン! バキュゥン! バキュゥゥン!


 猿渡はめげずに繰り返し銃弾を撃ち込むが同じ結果だ。


「だから当たんないって言ってんだろ! ほらよっと!!」


 ビリィィィィィィィ!!


「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 猿渡は楠が指先から放った電撃を真正面から受けた。

 全身に強力な電気が走り気絶寸前となっている。


「これじゃ喧嘩にもなりゃしねぇな。さっさと始末しちまおう」


「……俺だってSPAGの一員だ! やすやすと負けてたまるかよ!」


「はぁぁ!! 魁偉雷火(かいいらいか)!!」


 楠が猿渡に向けて巨大な稲妻を放った。


 ズドォォォォバチバチィィィィィ……!!


「……く!!」


 猿渡は身体をうまく転回させて間一髪のところで稲妻をかわした。


「ちっ、外したか……!」


 いら立つ楠は猿渡に電撃を乱発させた。

 猿渡はその攻撃をことごとくかわして楠に近づいていく。

 そして渾身の回し蹴りを楠の顔面にくらわせた。


「おりゃぁぁ!!」


 バチィィィィ!!


「げはぁ……!! な……!!」


 猿渡はダウンした楠の身体にのしかかりマウントを取って殴打した。

 楠の身体から電撃が流れてくるが猿渡は堪えて攻撃を続ける。


「がは……! こ……このや、野郎……! ぐ……!!」


「はぁ、はぁ、SPAG舐めんなよ!!」


「てめぇ!!!! いい加減にしろぉぉぉぉ!!!!!」


 ドバァァァァァァァァァァァァン!!!!!!


 楠の怒りが頂点に達し、全身に帯びていた電気が一気に爆発した。

 猿渡は凄烈な爆発を受け吹き飛ばされて起き上がれないほどのダメージを負った。


 楠は怒りをむき出しにした表情で猿渡をにらみつける。


「能無しのくせに好き勝手やりやがって!! さっさと死ねや!! はぁぁぁぁ!!」


 ドドドドと音を立てながら猿渡周辺の地面が割れていく。


「サンダーボルケ……」


 バキュゥン!!!


「ぐは…………」


 楠は技を繰り出す直前に銃で撃たれて倒れた。

 発砲したのは帰ったはずの御階(みはし)だ。


「み、御階さん……! どうして?!」


「一人で酒を飲んでてもつまらないんでね」





「いた……!! はぁぁぁ……、ジェットレインボー……!!」


 蓬条を見付けた麻倉が気力を振り絞って気砲を撃ちこんだ。


「きゃ!! ……あ、あのアマ!! 生きてやがったのか!!」

「くは……。珠伽班長のところには行かせないよ……。くあ……」


「馬鹿ね。大人しく死んでおけば良いものを。そんな身体で何が出来るっていうのよ」


 吐血を続ける麻倉を見て蓬条が哀れんだ。

 弱々しく宙に浮かぶ麻倉は寂しげな口調で蓬条に語り始める。


「あたし……、家族も友達もいないんだ。みなしごの能士ってことで国の養成施設で育てられたの……」


「だ、だから何だって言うのよ。急に変な話するの止めてちょうだい!」


 麻倉はこう続ける。


「でもSPAGに配属されて……、みんなと暮らすようになってから、なんだか幸せなの……。みんなで助け合って、たまにバカやって、笑顔が絶えなくて、これが家族なのかなって。強くて頼りになって、いつだってあたしたちのことを思ってる珠伽班長、正義感に溢れてて誰よりも優しい魁惟(かい)くん、天邪鬼だけど本当はみんなのことを気にかけてる由伎遥(ゆきはる)さん。あたし、みんなのことが大好き……。だから、この幸せを壊したくない……。もっとみんなとずっと……」


「そんなのうちの知ったことじゃないっての! もううんざりだわ! はぁぁ、砂塵(さじん)ガン!!」


 長ったらしい自分語りを聞かされてることに嫌気がさした蓬条は麻倉の話をさえぎってとどめの攻撃を放つ。


 バババババババババババババババババ!!!


 周囲の砂や瓦礫が麻倉に向かってマシンガンのごとく飛んでいく。


「く……、風の精霊達……! くは……、お願い……力を貸して!! ダ……、ダウンバースト……!!」


 麻倉は全ての気力を振り絞って両腕を思いっきり振り下ろした。

 すると、そこに突如として巨大な下降気流が発生した。


 ブゴォォォォォゴゴゴゴゴォォォォォ……!!!!


 蓬条が放った砂や瓦礫が次々と気流に飲まれていく。

 その破壊的な気流は勢力強めて地面に激突し四方に烈風を起こした。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ……!! 」


 蓬条は逃れる術もなく気流に巻き込まれ全身をズタズタにされた。

 そのまま彼方へと吹き飛ばされ、気流が収まる頃にはピクリとも動かなくなっていた。


「うぐ……、う……、はぁ……、はぁ……」


 すでに空を飛ぶ気力すら残っていなかった麻倉は力尽きて地面に落下した。


「珠伽班長……、魁惟くん、由伎遥さん。みんなで美味しいピザたべようね……」





 菟上(うなかみ)が倒れこんでいる都鳥(とどり)に近づいていく。


「先に言っておくけど、あなた達には何の敵意もないし、正直このミッションだってどうだっていい」


 都鳥は菟上の前置きを聞いて少し驚いた。


「な、ならどうして君はこんなこと……」


 その質問に菟上は感情を交えずこう答えた。


「大切なものを守るためだ。きっと仕事なんてそんなもの。割り切ってるよ」


「……そっか。君にとってはそれが正義なんだね」


 都鳥の言葉に菟上が動揺を見せる。


「あ、あなただって好き好んで手を汚してるわけじゃないだろ!」


「僕は――」

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