四話 天人族
天人族の能士組が次のミッションに動き出した。
一味は顔が割れないよう基本的にマスクを被って行動している。
お揃いのマントには月と人間がモチーフとなった気味の悪いバッジがつけられている。
「なんだって俺らが毎度鬼神の処理なんてしなきゃなんねぇんだ」
早速文句を垂れているのは楠柊吾。気性が荒くて喧嘩っぱやい十八歳。
その身で雷電を操ることのできる野雷の能士だ。
「つべこべいわないの! にぃやが困っちゃうでしょうが!」
蓬条真理。同じく十八歳。なかなか癖の強い性格の持ち主だ。
彼女が持つ生土の能力は大地から変幻自在にエネルギーを生み出すことができる。
「いいんですよ。面倒な役回りをさせてしまって申し訳ないね」
そうすまなそうに話すのは古宮昴。
天人族の幹部であり、能士組や他実働部隊の取りまとめ役でもある。
能士としては最強クラスの冥闇の能力を備え、界隈では最も恐れられている存在だ。
「ち、ちがうぞアニキ……! 俺はそういう意味で言ったんじゃ……。な、リカク!!」
誤魔化そうとする楠が隣にいるうさぎのマスクをつけた青年に話を振るが返事はない。
「ちっ、なんとか言えよ!!」
「うっせぇな。そんなの知るかよ」
この塩対応の青年は十七歳の菟上リカク。天人族に最近加入したばかりの新メンバーだ。
ただでさえ珍しい能士の中でも特に希少な神光の使い手である。
「ふふっ。今日はいつもよりハードですよ。三人ともくれぐれも死なないように」
「にぃやがうちらのこと心配してくれてる……! なんて優しいのかしら!」
「アニキはいつも心配しすぎだって! 鬼神処理以外になにかあるの?」
古宮は三人を集め、今回のミッションで一番肝になる部分を伝えた。
「先日ご一緒したSPAGの皆さんを三人で抹殺してください。特に能士の捜査官は必ず」
「オッケー!! そんなの楽勝だって! 腕が鳴るぜ!!」
「とかイキっといて、うちらの足引っ張る真似するんじゃないわよ」
「んだとこのババア!!」
「お前もSPAGともども殺したる」
喧嘩をはじめた楠と蓬条の横で菟上は黙って下を向いていた。
古宮はそんな菟上に近づいて意思を確認した。
「リカク、分かりましたか?」
「……あぁ」
*
正午前、SPAGが国会議事堂に到着した。
建物の内外は警察と機動隊によって厳戒態勢が敷かれている。
「SPAGの都鳥です。状況は」
都鳥に状況を聞かれた指揮官は楽観的にこう答えた。
「ああ、あなた方がSPAGですか。昨日はうちの隊員が及ばずご迷惑お掛けしました。今回は人員も装備も強化しておりますので問題ございません」
「ですが、万が一ということもありますので」
「機動隊が鬼神に敗北するとでも? 我が国が誇る最高の戦力を舐めないで下さい」
指揮官に凄まれた都鳥はしぶしぶと引き下がる。
「どうすんだ班長……。これじゃ連携なんてできないっすよ」
そう心配する猿渡。
麻倉も御階も困惑しながら都鳥を見る。
「仕方ない。SPAGは単独行動で鬼神を撃退する!」
都鳥はメンバーの士気を下げないよう威勢よく方針を変更した。
「よぉっし! がんばろ!」
張り切って準備体操をはじめる麻倉とは対照的に御階が不満をもらす。
「待ってくださいよ。班長と麻倉は能力がありますが、僕と猿渡はどう戦えと?」
「二人はこの銃を使ってください。課長にお願いして作ってもらいました」
都鳥はそう言うと、肩にかけていたショルダーバッグの中から二丁の銃を取り出して猿渡と御階に渡した。
その銃を受け取った猿渡は不思議そうに銃を眺めた。
「ん? 何の変哲もないリボルバーっすよ?」
「僕の能力で銃弾を硬化させてるんだ。これなら鬼神にも効くはず」
「おおっ! これがあれば俺らも金剛の能力で戦えるってわけっすね!」
その銃には都鳥の持つ金剛の能力によって硬化された銃弾が込められている。
金剛の能士である都鳥は、自らの身体だけでなく物体や液体、気までも強靭に硬化することができる。
「結局班長の能力頼みですか。なんだかしゃくに障りますが戦えるんならまぁ良いです」
御階は不満げにしながらも受け取った銃に目を細めていた。
「今日は犠牲者を出さないことが最優先だ。みんなよく聞いて――」
*
怪文書で予告されていた正午を迎え、国会議事堂が緊張に包まれる。
外にはマスコミが大挙し鬼神の出現を今か今かと待ちわびていた。
「全隊、警戒態勢をとれ!! 出現した鬼神は直ちに集中砲撃だ!!」
指揮官の指令を受け、国会議事堂内外に配備された数百人の機動隊が銃を構える。
政治家や関係者は室内で身の安全を確保されている。
「総理……、本当に鬼神が出現したら国民は大パニックですよ」
「ぎゃ、逆に考えろ。ここで鬼神を撃攘できれば我が政権の支持率はうなぎ上りだ」
「総理……」
倉橋と秘書官は祈るような思いで何事もなく時間が過ぎるのを待った。
そんな中、国会議事堂の近くに潜んでいた古宮が動き出した。
「さて、そろそろはじめますか。ダーキングステルス!!」
能力を発動させた古宮は全身を闇に包んでその姿を消した。
古宮はそのまま誰にも気付かれず、いとも簡単に機動隊員のバリケードを突破した。
「ぐあ……!!」
国会議事堂の入口まで侵入した古宮は、そこで陣を形成している機動隊員を次から次へと攻撃し、注射を打ち込んでいく。
「隊長!! 隊員が入口で何者かから攻撃を受けている模様です!!」
「な、なんだと!!」
部下からそう報告を受けた指揮官は急いで指揮統制車のモニターで状況を確認する。
「うがぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!」
「こ、これは……」
倒れた機動隊員が次々と巨大化している。
そして、見る見るうちに二、三十メートルもある大きな鬼神へとその姿を変貌させた。
「ぜ、全隊に告ぐ!! 鬼神発生!! 鬼神発生!! 直ちに国会議事堂前に集結せよ!!」




