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三話 騒動後

 今回の鬼神の騒動を受け、官邸内に動揺が走る。


「どういうことだ……! 何故こうも鬼神の発生が相次ぐ?! 説明しろ!!」


 仏頂面の倉橋(くらはし)総理が秘書官に当り散らした。


「そ、総理……、落ち着いてください……! きっと何かの手違いで……」

「手違いであの薬が数十人に使われたとでも? そんなわけあるか!」


「まぁまぁ。高月(たかつき)会長を呼んでいるので話を伺いましょう。お連れしてくれ」


 間に割って入った官房長官の円屋(まるや)がそう言って秘書官に指示を出す。


「総理、お騒がせしてしまいましたな」


 総理執務室に七十代くらいの高齢の男が入ってきた。

 高月グループの会長・高月彬夫(たかつきあきお)。高月グループとはいわずと知れた世界的な製薬会社だ。


「なにを呑気に……。おたくの管理体制は一体どうなってるんだ!」

「薬が持ち出された理由は社内で調査中です。ただ、わが社だけに責任を押し付けられるのはどうかと」

「……分かっている。だからこうして秘密裏に政府内でも対策を進めてるんだ」


「それで、薬の開発状況は?」

「ほぼ完成しましたが実用するには血清が足りていませんね」

「……局の体制を強化する。性急に頼むぞ」


 そう言って、倉橋はもどかしそうに爪を噛む。


「とにかくこれ以上、世間を物情騒然とさせるわけにはいかん。一刻も早く鬼神発生の原因を突き止めてくれ」





 鬼神鎮圧の任務を終えたSPAGは、その夜に拠点で反省会を行った。


「みんな、今日はお疲れ様。初任務だったけど良くやってくれたね」


 都鳥(とどり)は開口一番に部下を労った。SPAGの面々は突然の大仕事に疲れきっている様子だ。


「えへへ! 珠伽(みとぎ)班長のおかげですよぉ!」


 得意げな麻倉(あさくら)が都鳥の肩をポンポン叩く。


「そんなことないよ。芽來(めくる)はしっかりサポートしてくれたし、魁惟(かい)御階(みはし)さんの救護活動もばっちりだった」

「照れるっすよ! とはいえ、犠牲者が結構出ちゃったんだけど……」


 猿渡(さわたり)は鬼神の暴動による犠牲者を悼み、浮かない表情を見せる。


「痛ましいことだけど、その犠牲を最小限に食い止めるのが僕らに与えられた使命だ」

「……そうですかね? 鬼神対策として都合よく使われてるだけで大義なんてないと思いますよ」


 SPAGのあり方に懐疑的な見方を示す御階に猿渡がくってかかる。


「機動隊があの有様なんだから仕方ないだろ! 俺たちがやらなきゃ他に誰がやるってんだ!」

「へっ、どうせ使い捨てだ。特に僕みたいな出世コースから外された人間はな」


 御階がそうぼやくと、猿渡はまたはじまったとばかりに呆れながら自分の席に座った。


「もぉぉ! みんなピリピリしすぎだよ! ピザ焼けたから食べよぉ!!」


 麻倉はキッチンからお手製のピザを持ってきて、ジュースとお酒の缶と一緒に机に並べ始めた。


「お、おい! まだ仕事中……」

「良いじゃないですか。初任務を無事に終えたことですし、今夜は打ち上げにしましょう」


 都鳥は注意しようとする御階を止めて麻倉を手伝う。


「おっ、流石班長!! 分かってるっすね!!」

「ふん……、まったく」 


「じゃあみんな、これから大変な任務も多いと思うけど、力を合わせてがんばろうね! 乾杯!!」


 それからSPAGのメンバーは、夜通しで打ち上げを楽しんだ。





 時を同じくして、マントをつけた男二人が高級料理店で会食をしていた。


「ミスター。鬼神の件、まだ続けるおつもりでしょうか?」

「ああ、まだだ。もっと政府にボロを出させろ。彼らの無能さを世間に知らしめるのだ」

「かしこまりました。では仕掛けをもう一段階あげるとしましょう」


「むふふ。人々が人類の無力さに絶望した時こそ、我々が救いの神となれるのだ」


 ミスターと呼ばれる男はワイングラスを片手に悦に浸っている。


「いよいよ天人族の時代がやってきますね。長年功徳を積んできた甲斐があるってものです」


「君たちや神徒たちが、わたくしのお達しに奮励してきてくれたからこそだ。グラッチェ!」


 二人は高そうな赤ワインをグラスに注ぎなおして乾杯した。


「時に古宮(こみや)くん。SPAGなる公安の特殊部隊についてどう思うかね」


 古宮はその質問にニンマリしながら答えた。


「ふふふふっ。そこそこの能士がいましたのでいささか邪魔になるかも知れませんよ」


「そうか。ならば今のうちに消しておけ」

「承知いたしました」





 翌日。朝一番で久留主(くるす)がSPAGの拠点にやってきた。


「おはよう……、っておいお前ら!!」


 SPAGのメンバーは打ち上げ後、そのまま執務室で眠りこけていた。

 机の上は散らかっていて、酒の空き瓶があちこちに転がっている。

 その状況に久留主は渋面を作った。


「ふぁぁあ! あっ課長! おはようございます!」


 麻倉は目を覚ましたが他の面々は眠りこけたままだ。


「こいつらをたたき起こせ!」


 そう言われ麻倉が起こしてまわるが、三人とも酔いが覚めない様子だ。

 特に酒好きの御階は深酒をしたらしく床に胡坐をかいて暫くボーっとしていた。


「馬鹿者!! お前らは加減というものを知らんのか!!」

「す、すみません……!」


 久留主に大目玉をくらった都鳥は二日酔いで痛む頭を何度も下げて謝る。


「SPAGは緊急時にすぐ出動できる体制をとっておく必要があるんだぞ!」

「僕の責任です……。以後十分に気をつけます」


「課長、まさかこれから出動ってわけじゃないっすよね……?」


 猿渡が久留主に尋ねた。


「これを見てくれ」


 久留主はそう言うと、かばんから一枚の紙を取り出して都鳥に渡した。


 その紙にはこう書かれている。


 本日正午、国会議事堂ニ鬼神アラワル


「これって……」

「鬼神出没を予告した怪文書だ。これがマスコミ各社に送られている」


 SPAGの酔いどれ組は一気にしらふに戻った。


「あんな場所で鬼神に暴れられたら大変なことになっちゃうよ……!」


「ごふ……、もちろん国会は休みになるんですよね?」


 御階がげっぷを押さえながら聞いた。


「それが、この程度の怪文書では取り合わないらしく、強行するとのことだ」

「マジか……!! 鬼神のやばさ分かってないのかよ! 下手したら死ぬぞ……!」


「現場には警察と機動隊を総動員させる。諸君らは鬼神の撃退に専念してくれ!」


「分かりました。みんな、顔を洗ってきて! 急いで準備するよ!」

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