二話 鬼神
団地で猛威をふるう鬼神の数はおよそ十体。
約十万平方メートルの敷地に六棟が連なる大きな団地は見るも無残に破壊しつくされていた。
未明からはじまったという鬼神の暴動は半日経つ今もまだ止まりそうにない。
「この鬼神たち……、どっから沸いて出てきたんでしょうか?」
「さぁね。世間じゃ宇宙から来たエイリアンだって言われてるけど」
「地球を侵略しに来たってこと? ……それって胸熱じゃなぃぃ!!」
「馬鹿言ってないでやるよ。先ずはあいつだ」
「はぁい!」
都鳥と麻倉は鬼神に近づいて気を集中させた。
ガシャァァァン!! ガシャァァァァン!!
ブギャギャァァァァァ!! ブギャ?
団地を破壊していた鬼神が二人に気付いて手を止めた。
ブギャァァァァァァァァァァァ!!!! ドシィィン!! ドシィィン!!
鬼神が大きな足音を立てて二人に迫る。
「芽來、援護を頼んだ」
「任せといて! よっとぉぉ!!」
ビュゥゥ! スタァスタァスタァ!!
麻倉は空に飛び上がり空中に身体を浮遊させた。
ブギャァァァァァァ!!
鬼神が都鳥を大きな足で踏みつける。
「金壁!!」
ズシィィィィ……!!
都鳥は頭上に金色の壁を作り鬼神の攻撃をガードした。
「スパイラルストーム!!」
ビュゥゥゥゥゥゥッ!! バシシシシシィィィ!!
麻倉の両手から放たれた暴風が渦を巻いて鬼神に直撃した。
「はぁぁ!!」
都鳥の右腕が金色に硬化していく。
鬼神がよろけた隙に都鳥は飛び上がって鬼神の腹にパンチを打ち込んだ。
バドォォォォン!!! グギャァァァァァァァ……!!!
金色の右腕から繰り出されたパンチはもの凄い威力で大きな鬼神を遠くへと吹き飛ばした。
「次はあいつだ! こっちに引き付けてくれ!」
「分かりました!」
麻倉は宙に浮いたまま別の鬼神の近くにいって、その周辺を飛び回った。
「ほらほらぁ! こっちだよ!」
ギャギャ?! ブギャギャギャァァァ!!
そして、鬼神の攻撃をかわしながら都鳥の方に誘い出す。
「金焼き!! はぁぁ!」
都鳥は両腕を胸元でクロスさせ気合いを入れて振り払った。
すると金色の熱波動が鬼神めがけて放たれ、その胴体を焼き焦がした。
「あたしもやっちゃうよ!!」
「無茶しちゃ駄目だ! 一体ずつ確実に……」
都鳥の指示を聞かずに麻倉は別の鬼神の元へ飛んでいった。
「風の精霊あっつまれ!! ジェットレインボー!!!」
麻倉は鬼神の頭上からカラフルな気砲を五発放った。
バン!! バン!! バン!! バン!! バン!!
グギャァギャギャァァァ!!!
「へへ! 班長! やっつけたよぉ!」
ドシィィン! ドシィィン! ドシィィン! ドシィィン!
麻倉の攻撃に気付いた他の鬼神が一斉に二人に近づいてくる。
「だから一体ずつって言ったでしょ」
「ご、ごめんなさい!!」
「参ったな。囲まれてしまった」
ブギャァァァァァァァァァァァ! ブギャァァァァァァァァァァァ!
七体の鬼神が二人を囲んでけたたましく雄叫びをあげる。
「芽來は離れたところでサポートしてくれるか」
「珠伽班長、一人で大丈夫なんですか……?」
「僕は能力で持ちこたえられるが、芽來があいつらの攻撃を受けたら怪我では済まないよ」
麻倉は都鳥の指示に従って空高くへと飛び、鬼神の集団から離れた。
「金覆!!」
都鳥は全身を金で硬化させた。
その都鳥に七体の鬼神が襲い掛かる。
ズシィィィン!! バシィィィン!! ギシィィィ!!
鬼神は次々と都鳥を踏みつけ、殴りつけた。
そして、そのうちの一体が都鳥を掴みあげた。
「ぐ……」
「ジェットレインボー! はぁぁぁ!!」
麻倉の援護射撃で周囲の鬼神は攻撃の手を緩めた。
そのタイミングで都鳥は全身を加熱させ鬼神の掌を焦がして脱出した。
そして硬化させたパンチを鬼神の顔面に打ち込んで倒した。
残る鬼神は六体。
「金剛宝相華!! おぉぉぉ!!!」
都鳥は両手に溜めた気を金色に硬化させ周囲の鬼神に向けて乱射した。
堅固な金の塊が鬼神に何発も直撃していく。
黄金の花が咲き乱れるような美しい光景に見えるが、えげつないほどの無差別攻撃だ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「さすが珠伽班長! やるよねぇ!!」
都鳥の攻撃を受けた鬼神は六体とも戦意不能になっていた。
「芽來……! 後ろだ!」
「え……?!」
鬼神が一体起き上がり麻倉に向けて腕を大きく振りかぶっている。
…………ブギャァァァァァァァァァァァ!
「ディストゥラクションボール!!」
ズゴゴゴゴォォォォ!!!! バジバジバジバジィィィ……!!
何者かが背後から鬼神を攻撃をした。
巨大な暗黒の気玉が鬼神の身体を引き千切りながら飲み込み、一瞬で跡形もなくなった。
「なんか思ってたより片付いてるじゃねぇか」
消えた鬼神の先には仮面とマントをつけた四人組が立っている。
「三人とも、倒れてる他の鬼神を処理してきてください」
「了解、にぃや!」
「ご苦労様です。あなた方が噂のSPAG捜査官のようですね」
リーダー格の男が都鳥たちに穏やかな口調で話しかけてきた。
「はい、都鳥と言います。そちらは?」
「あら、分かりませんか? 我々は天人族ですよ!」
「天人族……!」
その名前を聞いた都鳥は急に青ざめて汗をかきはじめた。
「珠伽班長……? 大丈夫ですか?」
「う、うん。大丈夫だよ」
都鳥は心配そうに駆け寄る麻倉に気丈に振るまった。
「先ほど皆様のお仕事ぶりを少し拝見しましたが、お二人とも能士のようで」
「あ、あたしは風伯の能士ですよ! 班長は」
「金剛の能士でしょう。それでいてお二人とも中々お強い。SPAGに配属されたのも頷けます」
男はどこか嬉しそうに話している。
「……天人族の皆さんが何故ここに? 鬼神の鎮圧は僕らに任されているのですが」
「都鳥さん、あなた班長の立場で何もご存知ないのですね。政府の隠匿っぷりがよく分かりました」
「隠匿? 鬼神の件、政府が絡んでいるとか?」
「ふふ。そこのお嬢さんは勘が鋭いようで。これ以上のことは勝手に推察しておいてください。では」
そう言って、団地内に倒れている鬼神の元へ行こうとする男を都鳥が引きとめた。
「あの。ここにいる鬼神をどうするつもりですか? 僕は捕獲するつもりでいましたが」
「それは困ります。そうされないように、我々は鬼神を消滅しに来たわけですから」
「そんな……! それじゃ鬼神の調査が進まないよ! 止めないと!」
都鳥はそう訴える麻倉を無言で抑え、男を再度引き止めた。
「……ま、待ってください!! あなた方、天人族は……」
「はい? なんですって?」
都鳥は口に出しかけた言葉を飲み込んで下を向いた。
「……いえ、なんでもないです」
十八区で猛威を振るっていた鬼神は、SPAGに鎮圧された後、天人族の手によって跡形もなく消え去った。




