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二十話 さよなら (前編)

 年が明け、めでたい正月がやってきた。

 伊舞(いまい)は親戚の神社で巫女の仕事を手伝っているのだという。


 俺は初詣がてらに伊舞の巫女姿を拝みに行った。

 しかし境内は参拝者でごった返していて伊舞を見つけるのは困難だった。


 どおぉぉぉん!! どおぉぉぉん!! どおぉぉぉん!!


 諦めて帰ろうとした時、神社の神楽殿でなにかの演奏がはじまった。

 すると、巫女姿の伊舞が大きな鈴を持って現れた。


 そして厳かな雅楽のリズムに合わせて天女の如く優雅に舞う。


 参拝者の誰もがその美しい舞に見とれていた。

 なんだか得意げな気持ちになった。


 舞を終えた伊舞は俺のことに気付いてニコリと笑う。


 俺はそんな伊舞にメールを送った。


「お疲れ様。仕事終わるの待ってるね……っと」


 もう一端の彼氏気取りだ。というか彼氏だ。

 ちょっとストーカーっぽいけど、これくらいは普通のはずだ。


 俺はそう言い聞かせ、ドキドキしながら伊舞の終業を待った。


「ごめんね……! 遅くなっちゃった」


 日が暮れた頃、伊舞が神社から出てきた。


「来るなら言っておいてくれたら良かったのに」

「悪い……。やっぱり迷惑だったよな」


 そう肩をすぼめる俺に伊舞は優しく微笑みかけた。


「そんなことないよ。嬉しかった」


 俺たちは近くのファミレスで夕飯を食べることにした。


菟上(うなかみ)くんって結構食べるイメージある」

「そうかな? こう見えて俺、割と好き嫌い激しいよ」

「じゃあわたし、美味しいご飯が作れるように頑張らなきゃだ」

「いやいや、伊舞はもう料理上手だから心配ないって」


 ばあちゃんちで食べた伊舞の手料理はお世辞抜きに美味しかった。

 きっと良いお嫁さんになるんだろうな、なんて妄想が膨らむ。


「今度遊びにいこうか。夢の国ランドとかどう?」

「あっうん! そこ行ってみたかったの! 楽しみだ!」


 嬉しそうにする伊舞に俺はこんなお願いをしてみた。


「な、なぁ。伊舞のことさ、名前で呼んでもいい?」

「うん、良いよ。じゃあわたしもリカクくんって呼んでいい?」


「くん……はいらないかな」


「リカク」

「みかこ」


「ふふふ」

「ははははは」


 夕飯を食べながらカップルらしく痴話を楽しんだ俺たち。

 その帰り際が名残惜しくて店の前で立ち止まる。


「……家まで送ってく」

「そんな、別に大丈夫だよ」


「いや、心配だからさ」

「ありがとう、じゃあお願いするね」


 静かな夜道を二人で歩きはじめた。


 しばらくして俺たちはまた立ち止まる。

 そして互いの目をまじまじと見つめあった。


 俺は伊舞の手を取ってゆっくり口元を近づけていく。



「あんたねぇ! 良いとこで水差しちゃかわいそうでしょ!」

「はぁ?! 変に気つかってんじゃねぇよ! 乙女気取りのババアが!」

「なんだとてめぇ!!! 死にてぇのかこらぁ!!!」


 …………?!


 俺たちはその騒ぎ声に気付き慌てて離れた。

 目を向けた先では男女がやかましく揉めている。


 ……ん? あの格好って。


 男は熊、女はうさぎの仮面つけ、二人とも趣味の悪いマントを羽織っている。

 俺は伊舞を背にして二人を警戒した。


「お前が菟上リカクってやつだな!」

「あ、あぁ……。なんか用か」


「正月早々いちゃつきやがって!! ふざけんじゃねぇ! こっちはこんなマスクをつけてだな……」

「それはあんたが勝手にひがんでるだけでしょうが! そうじゃないでしょ!」


 俺たちはその珍妙なやり取りを前にただ凝然と立っていた。


「しっかし古宮(こみや)のアニキが気に入ったっていうからどんなやつかと思ったら、こんな女垂らしのやわ男とはな」

「この子、神光(しんこう)の能士らしいわよ。にいやが久しぶりにガチで能力使ったって言ってた」


 古宮……?! ってことはやっぱりこいつらも天人族(てんじんぞく)……! だとしたら目的は伊舞か……?


「まぁいい。ちょっと面貸せや」

「……伊舞は帰すからな」

「構わないわ。うちら、あなたに用事があって来てるから」


 目的は謎だが、伊舞に危害を加えるつもりはなさそうなので少し安心した。


 俺は傍らで心配そうにしている伊舞に笑顔を見せて、こう約束した。


「俺なら大丈夫だ。必ず戻るから」


「……リカク。待ってるからね」

「うん。みかこ、またな」


 俺は伊舞と別れ、マスクの二人についていった。





 パキ……、パキ……、パキ……


「さぁてと、おっぱじめようか!!」


 俺は空き地でマスクの男から決闘を挑まれた。


「待てよ。先に目的を教えてくれ。ていうかそもそもお前ら何もんだよ」


 そう言うと女が男を大声でどやした。


「そうよねぇ。おいボケナス! そういうのはちゃんと説明してからにしろ!!」


「っだとこのババア! そう言うならお前が説明しろや!」

「……その前にあんたを殺したるわ!!!」


 またはじまった……。ホントなんだこいつら。


「察しはついてると思うけど、うちら天人族の一味よ。さっきはデート中にごめんなさいね」


「俺らは悪くねぇぞ!! これ見よがしにラブラブしやがって……! 千パーセントお前が悪い!!」

「もうあんたは黙ってなさい!!」


 男は完全にあれだが、女の方とは少しは話が出来そうな感じだ。


「天人族ってことは伊舞が目当てなはずじゃないのか?」


「ああ、それはそれね。今日のうちらの仕事は菟上くんのリクルート」

「リクルート?」

「そう。早速だけど単刀直入に聞くわね」



「うちら天人族の仲間になってくれない?」


 …………は?


 …………は、はあぁ?!


 俺はその想定外の打診に思わず腰を抜かしそうになった。


「な、何言ってんだ……! そんなこと出来るわけないだろ!」


「でしょうね……。でもその代わりと言ってはなんだけど」

「なんだよ」


「菟上くんが天人族に入ってくれたら、伊舞みかこさんにはもう二度と手を出さないって約束するわ。これならどう?」


 その提案を受け、俺の心が一瞬揺らいだ。


 けど……。


「……出来ない。俺は伊舞に必ず戻ると約束したんだ」


 俺が拒むとまた男がしゃしゃりでてきた。


「へっ! こうなると思ったぜ!! ま、そう言ってられんのも今のうちだがな!!」


 そう威圧する男からどことなく緊張感が漂ってくる。

 能士が気を集中させた時に生じる特有の空気だ。


「ま、まさかお前らも能士なのか!!」


「今頃気付いたか! 俺は野雷(のづち)の能士、楠柊吾(くすのきしゅうご)ってんだ! ちなみにこのババアは……」


 女が楠を豪快に蹴っ飛ばした。


「うちは蓬条真理(ほうじょうまり)生土(うぶすな)の能士よ。よろしく!」

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