十八話 能士対決
和邇江家を後にした俺と伊舞は駅まで歩くことにした。
少し距離はあるが、体調が良くない伊舞は夜風を浴びたいみたいだ。
肌寒いので伊舞にコートをかけてやる。
「ごめんね……。心配かけちゃって」
「仕方ないよ。あの薬のことはトラウマになっていると思うし……」
卑劣な東の手によって伊舞は新薬開発の片棒を担がされていた。
あれ以来、気丈に振舞ってはいるが心に傷を負っていることは間違いない。
「ううん。これは私自身の問題。一生向き合っていかなきゃいけないことだからさ」
「そうか……」
今夜は久しぶりに伊舞と二人きりになれた。
楽しい時間を過ごせていただけに、薬のハプニングさえなければ……と恨めしい気持ちになる。
少し前に感じていた距離感も多少は払拭出来たと思う。
「菟上くん、前よりも頼もしくなったよね」
「そうかな? 伊舞のことを守れるようにとは心がけてるけど」
「ふふふ。ありがとう。頼りにしてるよ」
「伊舞みかこさん、少し宜しいでしょうか」
…………!!
突如として仮面をつけたマントの集団が俺たちの前に立ちはだかった。
俺は伊舞を背後に隠して睨みをつける。
「我々は天人族のものです。この度は折り入ってお願いごとに参りました」
黒いマスクをつけた男が集団を代表して話しはじめた。
天人族……?!
カクリヨ会の儀式や東の誘拐事件を裏で参謀していた得体の知れない連中のことか……!
「近づくな!! お前らが犯罪を扇動をしていることは分かってるからな!!」
「そちらの彼氏は……、菟上リカクさんですね。うちの東が大変お世話になりました」
そうか……! 東も天人族の一員だったんだ!
あの時の伊舞の件、こいつらも関わってやがるな!!
「おかげで施設を一つ潰してしまいました。東には死んで償わせるつもりだったですが部下に食われたとのことで」
男はそう言って東の死に様を笑い飛ばした。ほんと血も涙もないやつらだ。
「和邇江さんのパーティーで高月さんが新薬をお披露目するというので来てみたら、偶然伊舞さんを見かけましてね」
「そうかい。あんなもんのためによくここまでできたもんだ」
「ご覧になられた通り、新薬はまだ未完成。正直、あそこまで不出来だとは思っていませんでした。がっかりですよ」
あれで未完成なのか……。完成したらそれこそ世紀末状態だな。
「それでまた伊舞の能力が必要になったってわけか」
「するどい、その通りです。良きタイミングで伊舞さんをお見かけしたのでこれはと」
黒いマスクの男はマントを広げてゆっくりと俺たちに手を差し伸べてきた。
「さぁ、天人族にお力をお貸しください」
「はぁ? すんなり協力するとでも思って言ってるのか?」
「いいえ。手洗い真似をしたくなかったので念のために」
俺たちは仮面の集団に取り囲まれた。
「菟上くん……」
「俺が守る。心配するな」
俺は怯える伊舞の頭を撫でてから戦闘態勢をとった。
バサァ!! カチャ!!
マントを広げた仮面の集団が俺たちに銃口を向ける。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺は身体の底から気を沸きあげて能力を発動させた。
「おーっ!! リカクさんは能士でありましたか!! それなら東がああなったのも頷けます」
バババババババババババッ!!!!
仮面の集団が一斉に銃を乱射した。
パラパラパラパラパラパラパラパラ…………
「ほーっぉ! 効きませんか」
俺は光の盾を俺と伊舞の全身にまとわせ銃弾をはじき返した。
「麻酔銃とはいえ、この距離で防がれてしまうとは。もうやりようがないですね」
「はぁぁぁぁぁ!!!」
俺は光を拳に集め、集団の一帯に広がるよう水平に大きく振り払った。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!
波長の長い真一文字の光線が仮面の集団に直撃していく。
バタッ……、バタッ……、バタッ……
仮面をつけたやつらが次々と倒れていく中、黒いマスクの男だけは平然としていた。
「ははは。侮ってしまっていたようですね。ではこちらも本気でいかせてもらいますよ」
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………!!!
男の身体から黒い煙気があがっていく。
こいつ……、まさか能士なのか?!
「ほらいきますよ!! 黒波!!」
ドォォォォォォォォォォッバァァァン!!!!
「ぐおおぉぉぉぉぉ!!!」
「う、菟上くん……!!」
俺は男の放った黒い波動を真正面から受けた。
光の盾は消えてなくなっている。凄まじい威力だ。
「私は冥闇の能士。あなたとは正反対の能力になりますね」
め、冥闇の能士……?
はじめて別の能士と相対する俺は戦い方にあぐねいた。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
一先ず肉弾戦に打って出る。
光を両手に握りしめてパンチを乱打した。
ブゥン! ブゥン! ブゥン! ブゥン!
くそ……! かすりもしない!!
「残念ですが……あなたとは年季が違いますから!」
グバシィィィ!!
男は漆黒に染まった拳で俺を殴り飛ばした。
「……ぐ……はっ……」
くそ……! 負けてたまるか!!
闇より光の方が強いに決まってる!!
「はあああぁぁぁぁぁぁ…………!!!」
ボォォォォォォォン!!!
俺は全身の気を一手に集め大きな光弾を放った。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……ズドォォォォォォン!!
よし……!! 当たった!! これなら……。
…………え?
男は変わらずピンピンとしている。
全力の光弾をお見舞いしたはずなのに……。
「効きませんよ? 能士ならこれくらいはやってもらわないと……おぉぉぉぉぉぉ!!!」
男は両手を頭の上にあげて暗黒の気を丸めていく。
「ディストゥラクションボール!!」
バァァァァァァァァァァァズドォォォォォォン!!!!
「ぐあああああああ!!!」
男の放り投げた暗黒の気玉が俺に直撃した。
バタンッ……!!
「菟上くん!! もう良いよ!! わたし行くからさ!!」
「…………行かせてたまるか!! 俺は絶対に伊舞を守る!!」
俺は気力を振り絞ってふらふらと立ち上がった。
「ほーっぉ! まだやりますか」
「う……う、うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺の絶叫に男はほくそ笑んだ。
「ふふふ。リカクさんの健闘に免じて今日のところは引き下がってあげましょう」
そう言うと、男は仲間を引き連れて帰っていく。
「ハァ……、ハァ……。お、お前は……?」
「あ、私ですか? 古宮ですー! 古宮昴! では改めて!」




