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十七話 悪魔の薬

 パッパラー!! パッパパッパパー!!!!


 再びラッパ隊の演奏がはじまった。

 会場内はライトマッピングでカラフルに彩られていく。


(りょう)さま! どうぞステージへ!」


 会長の秘書らしき男が和邇江(わにえ)をステージへ呼び込んだ。


 ステージ中央に招かれた和邇江はどぎまぎした様子だ。

 これは関係者によるサプライズ演出なのだろう。


「それでは怜さま、しばし目を閉じていてください」


 男は怜が目を閉じたことを確認すると、アタッシュケースから注射器を数本取り出した。


 それを佐伯(さえき)と一緒に数匹のマウスの身体へ打ち込んでいく。


「怜さま!! ハッピーバースデー!!」


 注射を打たれたマウスが段々と巨大化していく。


 パッパラー!! パパパッパー!!!!


 ラッパと照明の効果で一種のエンターテイメントのようにも見えるが異常な光景だ。

 しかしながら会場のセレブたちはその演出を楽しんでいる。


 あれだけ小さかったマウスはものの数十秒で二メートルくらいの大きさになった。

 まるで人間のように両足で立っている。


「お待たせしました! 怜さま、目を開いてください!」


「き、きゃー!! なんですの?! なんですの?!」


「それ!」


 男が手を叩くと巨大化したマウスたちが和邇江の周辺を軽快に踊り始めた。


 タータッタッタータータッタッター パーッパパパー


 はじめは涙目だった和邇江もマウスの愉快なダンスに笑みをこぼしている。


 その一匹がステージ脇から大きなケーキを運んできた。

 マウスたちはケーキを囲んで食べたいけど食べれない的な寸劇をする。


 ワーッハッハッハ!!! ギャハハハハハ!!!


 セレブたちが下品な笑い声をあげる。


 ケーキはマウスたちが器用に切り分けて和邇江の元に渡った。


 パチパチパチパチパチパチ!!!!!


 和邇江がケーキを食べ終えると会場から祝福の拍手が送られる。


「怜さま、楽しんでもらえましたでしょうか?」

「おーっほっほっほっほ!! ま、まぁ愉快なことでございましたわね!!」


「それは良かった! この新薬は今後怜さまが御三家の役割を全うする上でもきっと助けになりますよ!」


 ことのついでに佐伯が高月グループの宣伝をはじめた。


「我が高月グループでは、最先端の技術を駆使して人類が長年夢見てきた新薬の開発に成功しました! 我々が生み出した特殊な成分が生物の細胞と大脳に直接働きかけることで、その姿かたちや思考回路を自在に作り変えることを可能にしました! まさに、天地万物を生み出した神の力のようなものです! この境地に至れたのも日ごろの皆様のご愛顧と、この会場にも多数いる天人族各位のご協力のおかげです。この新薬を社会貢献に応用し、さらなる革新を起こしてまいります! 今後ともどうか高月グループをご贔屓くださいませ!!」


 オオォォォォ!!!!! スゲェェェェェ!!!!!


 その話にセレブたちはこの食いつきようだ。


伊舞(いまい)……。あれって(あずま)が使ってた」


「……うん。そうだと思うよ」


 それは、誘拐された子供の血と伊舞の口噛みの力を利用して作られた悪魔の薬だ。


 東の件があったのにも関わらず開発を止めていなかったのか……。

 本当にろくでもない会社だ。


「ふざけるな!!」


 葛葉(くずのは)家の当主が突然怒鳴り声をあげた。


「こんな倫理に反した行いを神が許すはずがない!! 必ず天罰が下るぞ!!」


 その苦言に高月会長が反論する。


「葛葉さん、これからは神ではなく人が主体となって世の理を作っていくのですよ」


「なにを馬鹿馬鹿しい!!」


「な、な、なんざますの……?!」


 ウギ……、ウギギギギ…………


 巨大化したマウスたちがおかしな挙動をしている。じたばたともがいて苦しそうだ。


諸星(もろぼし)さん! 早く血清を!!」

「あ、ああ……!! ……あ?!」


 苦しさのあまり暴れだした一匹のマウスがアタッシュケースを踏み潰した。


 バキバキバキ!! バリィィィィン!!!!


 アタッシュケースは凄まじい力で踏まれ、中に入っていた注射器ごと粉々になった。


「しまった……!!」

「け、血清の予備は?!」

「持ってきていない……」


 ウギギウギャギャギャァァァ!!!


 マウスたちがステージ上を縦横無尽に暴れだした。


「きゃぁぁぁ!! あっちいけぇぇぇ!!」


 その一匹が和邇江に襲い掛かる。


「白の契約の下、聖なる力をこの身に現せ……」


 浄化の息吹(ホーリーブレス)!!


 ヒュゥゥゥゥゥパァァァァァァァァァァァ!!!


 斎藤が呪文のようなものを唱えると、白いオーラが和邇江を襲うマウスを包んで存在ごと掻き消した。


「お嬢様!! 早くこちらへ!!」


 斎藤は和邇江を連れて裏口から出て行った。


 ウギャギャギャギャギャァァァ!!!


 わああぁぁぁ!!! きゃああぁぁぁ!!!


 会場は大混乱だ。

 セレブたちが我先にと逃げ惑っている。


「言わんことじゃない。宗助(そうすけ)君、いくぞ!」

「オッケー!! そうこなくっちゃ!!」


 御三家の二人はステージ上に飛び上がり巨大なマウスたちと戦闘をはじめた。


 葛葉家の当主が手印を構える。


「はぁぁぁぁぁ!!! 滅波動(めっぱどう)!!!」


 ズパァァァァァァァァァァァァァ!!!!


 ウギャャャャャャ…………!!!


 手印から放たれた猛烈な波動が大きなマウスの身体を消滅させていく。


 一方の龍乃宮(たつのみや)は背中に背負っていた大きな剣を引き抜いた。


「おらぁぁぁ!! きりきり舞いぃぃぃ!!!」


 そして、類まれな運動力で身体ごと剣を回転させてマウスを切り刻んでいく。


 ズバッ、グシャッ、ズシャッ、グチャッ……!!!


「へっ!! どんなもんだい!!」


 残りのマウスもこの二人によって一瞬で片付けられた。


「す、すげぇ……」


 俺は二人の圧倒的な強さを固唾を呑んで見ていた。


「これに懲りたら、もう薬の開発を止めることだ」


 葛葉家の当主がステージ上から会長を見下す。


「ぐ……。今回はたまたまオペレーションが悪かっただけだ……! 見ておきたまえ!!」


 そう言い残した高月会長は下を向く秘書を連れて会場から出て行った。





「具合はどうだ?」

「うん。大分良くなったよ」


 俺たちは伊舞の体調が落ち着くまで隅の方でしばらく休んでいた。

 気付けば誕生日会の会場には俺たちしかいない。


「そっか、良かった」

「ありがとね。わたしたちも帰ろっか」

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