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十二話 バッドエンド

「うへへへ、相変わらず恨まれてますなぁ」


 俺の背後から別の男の声がする。


「このガキ……、舐め腐りやがって! ペッ!!」


 高瀬(たかせ)は唾を吐きながら起き上がり、地面に突っ伏した俺の腹を何度も蹴り上げた。


「まぁ難儀なもんで、この商売やってりゃ仕方のないもんですや」


「あんた、近くにいたんだからもっと早くそいつをぶち込んでくんねぇと……」

「くへへ……、電気がビリビリと暖まるまで時間がかかるってもんでぇ」


 スタンガンか……。ホントに一瞬で動けなくなるものなんだな……。


 俺はそのまま意識を失った。






「お兄さん! 大丈夫ですか?! お兄さん!!」


 …………ん? いたたたた……。


 通行人に起こされた俺はスタンガンで火傷を負った患部に手を当てた。


「だ、大丈夫です……。ご心配おかけしました」


 俺は…………。えーっと…………俺は。


 そうだ!! ……俺は!! 


 くそ!!! あれからどれだけ経った……?!


 状況を思い出した俺は半ばパニック状態になりながらスマホで時刻を確認する。


 二、二十三時四十分……?!


 そんな……!! あれから二時間以上も経ってるじゃないか……!! 


 こ、これは……。


 俺のスマホに物凄い数の着信が残っていた。

 全て紅蘭(くらん)からだ。


 最後の着信は一時間半ほど前。

 その着信に留守番電話でメッセージが録音されていた。


 俺は息を飲んでメッセージを再生した。


「リ、リカク……!! どうして出てくれないの?! みかこが……!! 高瀬を殺そうとした女の人が逆に殺されそうになって……、それを助けに……!! 警察呼んだって今からじゃもう間に合わないよ……!! 怖いよ……!! でもみかこを助けないと……!! リカク……助けてよ!!」


 そこでメッセージは終了した。

 紅蘭からの悲痛なSOSだった。


 …………何やってんだよ俺はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 時はすでに遅し。だが工事現場まで一目散に走った。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 その工事現場は商業施設のようなものを建設中のようで、外から見えないように全面が灰色のカバーシートで覆われていた。


 俺はその先にバッドエンドが待っていることを知りながら、入口のカバーシートをめくり中へと入った。


「……うぐ……俺の……俺のせいだ……ひぐ……」


 その無残な光景に己の無力さを責めることしか出来なかった。


「伊舞……、紅蘭……、田島……、ごめん……、みんなごめんよ……」


 半狂乱となった俺は奇声をあげながら自分の頭を鉄筋に何度も打ちつけた。


 そして酷たらしく変わり果てた伊舞と紅蘭の横で血の涙を流して跪いた。


 俺は……! 俺は……!!


 どうして同じような過ちを繰り返してしまうんだ……!!!!


 そしてどうしてこんなに無力なんだ……!!!!


 俺はみんなを守りたい……!! 守るんだ!! 守らせてくれ!!!!


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 …………?!


 う……!! 眩しい……!!


 これは……、白昼夢……?!


 いつぶりだろうか。俺の視界に幻像郡が広がっていく。


 俺はその中から一つの幻像を選んで光に身を任せた。


 サァァァーー


 その光は俺を吸い込んで幻像に映された世界へと連れていく。






 俺と田島(たじま)は急いで喫茶店を出て高瀬の姿を探した。

 しかしどこにも見当たらない。


「ちぇっ!! 見失っちゃったぜ!!」

「仕方ない。喫茶店に戻ろう」 


 俺がそういうと、田島が調子に乗り始めた。


「ダメダメ! ここで戻ったら超絶カッコ悪いじゃん!!」

「いや……、そんなこと言ってもさ」

「繁華街は二方向しかないんだから、俺とリカクがそれぞれ探せばすぐに見つかるって!」

「単独行動は危険だって」

「危ない時はすぐに電話で連絡取り合えば大丈夫」


「ダメだ!! 調子に乗るのも大概にしろ!!」

「はいはい、分かりましたよー」


 俺のきつい叱責に田島はふてくされながらもしぶしぶ折れた。

 時刻は二十一時ごろ。俺たちは喫茶店に戻った。


「あれ? 二人とも高瀬を追ってたんじゃ」

「それが見失っちゃってさー」

「しかたないよ。みんな一緒の方が心強いしさ」


 紅蘭と伊舞は高瀬に揺すられていた女から話を聞いていた。

 俺たちもそのテーブルに座って話しに混ざる。


「ちょうど今、高瀬に関する色んな情報聞かせてもらってたのよ」


 高瀬は個人でヤミ金融業を営み、設け話で金を貸してはヤクザとのつながりをちらつかせ法外な金利をせしめるゴミクズだ。債務者への無理強いは日常茶飯事。この女は高瀬から売春を強要され殺したいほど憎んでいるのだという。


「ひどいな……。こんなやつ呪われて当然だ……」


「あの野郎……。ぶっ殺してやる……!」


 女はそう言うとおぞましい顔つきで高瀬に電話をかけた。


「私です。追加で金を用意できたので渡したいのだけど、この後会えますか?」


 高瀬から了承を得たようで女は続けて場所と時間を指定した。


「……ちょっと!! どうするつもりですか?!」

「あなたたちと話していたら高瀬を殺したくなってきたの。止めないでね」

「そんなの駄目ですよ!! あなたも高瀬と同類になってしまいますよ!!」

「良いの。この際、あの男と心中する覚悟だから」


 紅蘭が必死に説得するも女の覚悟がぶれることはなかった。


「もう良い? 私、いかないと」


 そう言うと、女は淡々と店を出て行った。

 俺たちはその後をつけていく。


「あの女の人、毎晩高瀬を呪ってるんだって」

「そうなのか……。それじゃ、そのせいで長内たちも」

「長内さんのところの呪いは強烈だから、他にも高瀬を呪っている人が沢山いるんだと思うよ」


 伊舞が冷静に呪いについて分析した。

 その観点で見るならば、この呪いは不特定多数の高瀬への恨み辛みによって複合的に生じたものとなる。


 そんな厄介な呪いを解くことなんて出来るのものなのか……。

 

 女が高瀬を呼び出した場所は、喫茶店から歩いて一〇分ほどのカラオケ店の近くにある工事現場だった。

 そこでは商業施設のようなものを建設中のようで、外から見えないように全面が灰色のカバーシートで覆われていた。


 工事現場に着くと、女は高瀬に再度連絡を入れてから入口のカバーシートをめくり、中へと入っていった。


 中に入るといざという時に逃げ場がなくなってしまうので、俺たちは高瀬が来るのを外で待つことにした。

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