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十一話 フラグ

 俺たちは高瀬(たかせ)に揺すられているとみられる女が気になっていた。


「あの男行っちゃったわよ! この人に話を聞くべきだとも思うし……、どうしよう?!」

「二手に分かれようぜ! 俺たちは高瀬を追うから、咲重(さえ)ちゃんとみかこちゃんはここに残って!」

「分かった! 何かあったらすぐに電話ね!」


 俺たちはとっさの判断で、俺と田島(たじま)が高瀬の尾行を続け、紅蘭(くらん)伊舞(いまい)が女から事情を聞くことに決めた。

 高瀬と接触する可能性を考えるとこの決断は正しい。


 俺と田島は急いで喫茶店を出て高瀬の姿を探した。

 しかしどこにも見当たらない。


「ちぇっ!! 見失っちゃったぜ!!」

「仕方ない。喫茶店に戻ろう」 


 俺がそういうと田島が調子に乗り始めた。


「ダメダメ! ここで戻ったら超絶カッコ悪いじゃん!!」

「いや……、そんなこと言ってもさ」

「繁華街は二方向しかないんだから、俺とリカクがそれぞれ探せばすぐに見つかるって!」

「単独行動は危険だって」

「危ない時はすぐに電話で連絡取り合えば大丈夫」


 悪い予感しかしなかったが田島の勢いに押されてしまった。


「絶対に無茶するなよ! 高瀬を見つけたらすぐに知らせるようにな」

「分かってるよ! リカクこそ手柄を一人で横取りすんなよー!!」


 俺たちは別方向に分かれ繁華街に紛れた高瀬を探し始めた。


 時刻は二十一時ごろとなり、繁華街はネオンの眩しい夜の顔に変わってきている。

 飲み歩く人が増えてきたからか客引きやキャッチの声がやたらにうるさい。


 そんな中、三十分ほど探し回ったが結局高瀬は見つからずじまいだった。


 田島からも連絡がないし、喫茶店に戻ろう。


 ピロロロ……ピロロロ……ピロロロ……


 そう思った矢先に紅蘭から電話がかかってきた。


「あ、リカク? そっちはどう?」

「それが……、見失っちゃってさ」

「もー! しっかりしてよ! こっちは高瀬に関する色んな情報聞けたわよ」


 紅蘭が女から聞いた話をざっと伝えた。


 高瀬は個人でヤミ金融業を営むいわゆる半グレ。言葉巧みに投資の話を持ちかけて金を貸し、法外な高金利をむさぼっている。ヤクザとのつながりを盾に債務者への恫喝を繰り返し、返済が出来ない人間には人身売買や売春などを強制させるゴミのような男。そのおかげか、多くの人間から恨みを買っていて、この女も毎晩高瀬を呪っているのだという。


「ひどいな……。すぐに戻るから待ってて」

「ごめん! いま移動中なんだ……!」

「え? どこに?」

「それが……、この女の人、これから高瀬を殺しに行くとか言い出して……。どうにか止めようとしてるんだけど」

「分かった……! 俺も落ち合えるように移動するから大体の場所を教えてくれ」


 俺は紅蘭たちの元へ急いだ。


 ピロロロ……ピロロロ……ピロロロ……


 今度は田島からだ。


「へへへ……! 高瀬のアジトを突き止めたぜ!!」

「は?! 高瀬は見つかったのか?!」

「まぁな! 俺の手にかかればちょちょいのちょいだぜ!」

「この馬鹿!! 見つけたらすぐに電話するって約束だろ!」

「あー悪い悪い!!」


 こうなるんだろうなと思ってたけど、まったくとんだお調子者だ……。


「で、そこはどこなんだ?」

「えっと、二丁目五番地にある雑居ビルの五階!」

「紅蘭たちが事件に巻き込まれかねないから、田島も一度そこを離れて合流してくれ!」

「分かった……!! すぐに行くよ! って、えーっと、すみません……! たまたまこのビルに来ただけで別に怪しいものでは……」


 その後、田島からの声が聞こえなくなった。


「おい田島! どうした?! 何があった!?」


 ツー、ツー、ツー、ツー、ツー……


 マジか……。最悪の展開だ。


 仕方ないので先に田島から聞いた雑居ビルに向かうことにした。


「ここだな……」


 そのビルは五階建てで、一階が中華料理屋、二階から四階がマッサージ店となっていて、五階には表記が特に出ていなかった。

 俺はグッと深呼吸をしてそのいかにもな雑居ビルに入っていった。


 階段で五階にあがると事務所らしき入口があった。

 扉のドアノブはまわる。鍵はかかっていないようだ。


 躊躇している時間はなかったので俺は勢いに任せて室内に突入した。

 

「田島!! 大丈夫か?!」


 室内は真っ暗で人の気配はなかった。

 高瀬はもう事務所を出てしまったみたいだ。

 田島からの返事もない。


 俺は念のため、室内の明かりをつけた。


 …………?!


 田島がうつ伏せの状態で倒れていた。


「田島……! おい、うそ……、だろ!!」


 田島の顔を見ると、首を絞められた跡があった。


 …………死んでいる。


 田島の死を目の当たりにした俺は頭の中が真っ白になった。


 その場で五分ほど立ちすくみ、現実を受け入れることができなかった。


 ………… 


 このままだと紅蘭と伊舞も殺されてしまう…………!!


 我に返った俺はすぐに警察に通報しビルを後にした。


 ピロロロ……ピロロロ……ピロロロ……


 そのタイミングで紅蘭から電話がかかってきた。


「紅蘭か?! 二人とも無事か?!」

「何よいきなり大声で……!! びっくりするじゃない!」


 紅蘭の声に俺は少し安心して落ち着きを取り戻した。


「ごめん。心配だったんだ」

「もうリカクったら。そういえば賢介(けんすけ)は?」


「……あ、ああ。どうだろ。それより二人とも今どこにいるんだ?!」


 俺には田島のことを伝える勇気がなかった。


「カラオケダンダン近くの角を入ったところにある工事現場にいるわよ。女の人が高瀬を呼び出しちゃってさ」

「分かった……! 俺も行くからそれまでは絶対勝手なことをするなよ!!」

「何よ、随分乱暴な物言いね。心配されなくてもそうするわよ」


 俺は田島のことをどうにか胸にしまって工事現場へと走った。

 幸い、このビルからあまり離れていない場所だ。


 あった! カラオケダンダンだ!

 …………ん? あの男は。


 カラオケ店の近くを金のネックレスをぶら下げたいかつい男が歩いている。

 間違いない……、高瀬だ!!


「待てよ高瀬!! よくも田島を殺してくれたな……!!!」


 俺の怒りに満ちた言葉に高瀬はひょうひょうとした顔をして振り向く。


「ああぁ? 誰だおめー!!」


「このくそ野郎!!」


 俺は怒りに任せて高瀬の顔面目がけ殴りかかった。


 バシィィィ!!


「ぐはぁ……!!」


 俺のパンチをまともにくらった高瀬が地面に倒れこむ。

 マウントをとった俺はそのまま高瀬を殴り続けた。


「この野郎!! 田島を返せ!! この野郎!!」




 ビリビリビリビリ…………!!!


「う……!……なん……だ」


 俺の身体に突然電撃が走り意識が遠のいていく。

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