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九話 相談者

 夏休みはあっという間に過ぎ去って新学期がはじまった。


 キーン コーン カーン コーン


「おいリカク! ちょっと顔貸して!」


 新学期早々、俺は田島(たじま)に呼び出され屋上へ向かった。

 そこには紅蘭(くらん)伊舞(いまい)の他にもう一人女子がいた。


「急に呼び出しちゃってごめんね……!」


 紅蘭が深刻な顔をしている。


「別に構わないけどどうかしたのか?」

「それが……」


 紅蘭に目を向けられた女子はうつむいたまま口を開いた。


「……すみません。こんな相談聞いてもらっちゃって……」


 そう言って落ち込む女子の肩を紅蘭がさする。


「この子は一年生の長内碧(おさないみどり)ちゃん。今年の生徒会役員で一緒になったんだ」


 紅蘭は今期の生徒会役員で会長に選出されている。


「碧ちゃん、もう一度お話し聞かせてもらっても良いかしら」

「はい……」


 顔をあげた長内はすがるような表情で話し始めた。


「実は先日……、母が突然倒れてしまったんです」

「……それは気の毒だな。病院には行ったの?」

「診てもらったのですが原因不明だそうで……」


「そっか。医者がそう言うんなら治るのを待つしか……」

「そういうわけにはいかないんです……」


 長内の声のトーンが重くなる。


「きっともう直、母は死にます」


「ど、どうしてだ……?」

「……理由は分かりません」

「はぁ……? なんだそれ」


菟上(うなかみ)くん、最後まで聞いてあげて」


 伊舞が真剣な面持ちで俺を諭した。


「この夏の間に私の親戚がたくさん亡くなりました。どれも原因不明の病や不慮の事故ばかりで何一つ理由が分かっていません」

「そうなのか。でもだからって、お前んちの母さんが死ぬとは限らないだろ」

「……そうですけど」


「リカク! そんな意地悪なこと言わないで!」

「そうだぜ! こんなに困ってるんだからさー!」

「困ってるときはみんなで助け合わないと……!」


 俺は同調圧力に屈した。


「わ、分かったよ……! で、俺たちにどうしろと?」


「そんなの決まってるじゃない! 私たちで原因を突き止めるのよ!」

「いや……、そうは言っても」


「リカク、それだけじゃないのよ! 碧ちゃん自身も……」

「そうなんです……。私、ここ数日で何度も事故に巻き込まれそうになってて」


 まだ今一ピンときていないが大変な事態ではあるようだ。


「うだうだ言ってても解決しないわ! 善は急げよ!」

「そうだね。みんなで力を合わせて長内さんを助けよう」

「よっしゃ!! 探偵団の結成だー!! みんないくぞ!!」

「探偵団って……」


「みなさん……、ありがとうございます……!」


 そんなこんなで俺たちの探偵団が発足し、本件の捜査がはじまった。





 その日の放課後。

 俺たちは状況をより詳しく知るため長内の自宅に訪れた。


「お邪魔します! 生徒会長の紅蘭と申します。こちらはクラスメートの――」


「……おい碧。こんな時に友達なんて連れてくるんじゃない」


 長内の父が俺たちを迎えたがなんだか不機嫌そうだ。


「ごめん。でもこの人たちがママを助けてくれるって」

「助けるって、ママは病気で寝込んでいるだけだぞ。何を大げさな」


 確かに、普通の感覚であれば仰々しい感じはする。


 俺たちはとりあえず長内の母親と面会させてもらうことにした。


「お、長内……。これは……」


 長内の母親が静養している寝室には、悪霊退散などと書かれた御札が所狭しと貼られていた。


「母の病気はきっと何かの呪いです。その呪いから母を守るためにこうして御札を貼っているんです」

「な、なるほど……」

「毎日塩をまいたり祈祷もしているのですが……、一向に母の病状はよくならないんです」


 長内のオカルトっぷりに紅蘭と田島は少し引き気味だった。

 伊舞は何故か顔中に汗をかいていて今にも体調を崩しそうだ。


「この子の行き過ぎた行動のせいで私もノイローゼ気味でね」


 長内の父がお盆にお茶を乗せて部屋に入ってきた。


「パパ……! そんなこと言ってたら本当にママが死んじゃうよ!!」


 そう憤る長内に父親がげんなりした表情を見せる。


 毎日この調子ならそりゃそうなるよな……。


「ゴホゴホ……。碧、お友達を連れて来てくれたのね」


 ベッドで寝ていた長内の母親が目を覚ました。


「うん。みんなでママのこと助けてあげるからね」

「この子ったら……。皆さん、わざわざごめんなさいね」


 長内の母親は咳をしながら無理に上半身を起こした。 


「い、いいんです、いいんです……! どうかゆっくりお休みなさっていてください……!」


 紅蘭が申し訳なさそうに言う。


「で、お二人は碧ちゃんの言ってることに心当たりあるんですかー?」


 この重苦しい空気を屁ともしない田島。


「うちのが死ぬって話だよね。この夏に立て続けに親族に不幸があったのは事実だけど正直なんとも……」

「そんな! ママが死んじゃっても良いって言うの?!」

「そういうわけじゃ……」


 父親は特に心当たりがなさそうだ。


「……ゴホゴホ。実は気になることがあるの……」

「ほんとですか?! 是非お聞かせください……!」


 ベッドに身体を戻した長内の母親がか細い声で話す。


「この夏に亡くなった親族というのは、全て私方の人間なの」

「そうなんですね……」

「それで……この子の他にまだ一人だけ、健在者がいるの」


 ゴンゴンゴン!! ゴンゴンゴンゴン!!! ガチャ!!


「入るぞおらぁ!!」


 長内の家に男が入ってきた。

 扉のたたき方や喋り方が非常に威圧的だ。


「……皆さん、驚かせてしまってすみません」


 長内とその両親が気まずい顔をしている。


「中に人がきてるんだ! 手短に頼むよ」


 長内の父親が玄関で男を迎えた。

 男はサングラスに金のネックレスをしたいかつい服装で典型的なオラオラ系だ。


「あぁぁ? なにを偉そうにほざきよる。んで金は用意できたんか?」

「ま、まだだ……」


 バキィィィィ!!


 男が玄関の扉を蹴っ飛ばした。


「ほんっとええ加減にせぇや!! こっちゃもう二週間も待ってんじゃ!!」

「すまない……! 来週までには必ず用意するから……! この通りだ!!」


 長内の父親が土下座して男に謝っている。


「用意できん時はきっちり落とし前つけるんじゃ!! なぁ!!!」


 そう言うと、男は長内の父親に唾を吐きかけて家を出て行った。

 俺たちはその状況を見てただただ唖然としていた。


「菟上くん……、見えた?」

「……え?」

「さっきの人、おかしかったでしょ」


 そう話す伊舞は尋常じゃない汗をかいていた。

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