七話 起死回生
「ごめん……。捕まっちゃった……」
三人は洞窟の前でワームのような巨大な怪虫の触手につかまれていた。
「大丈夫か?! いま助けるからな!!」
俺は深呼吸して意識を集中させ、拳をグッと握りしめた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そして光弾を怪虫に向けて放った。
…………
…………ん?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
不発だ。
「ど……、どういうことだ!! 出ろ!! 出ろ!! はぁぁ!」
それから何度やっても光弾が出ることはなかった。
「くそ……!!」
グチュゥゥゥ……!!
「きゃぁ!!」
口を大きく開けた怪虫が触手を動かして三人を空中で振り回す。
「い、伊舞……!!」
ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!
その様子を見て笑い出した四匹の鬼。そして有象無象の魔物が俺に襲い掛かる。
「集中しろ……、集中しろ……!!」
俺は何度も深呼吸をして意識を集中させたが光をまとうことができない。
グチュゥゥゥ…… グチュゥゥゥ……
「きゃああぁぁぁ!!」
「伊舞……!!!」
怪虫が触手を動かして伊舞たちを口元へ運びはじめた。
「くっそぉぉぉぉ!! 出ろぉぉぉぉ!!!」
怪虫に向かって手のひらを向けるがやはり光弾は出ない。
ビュュュュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
と、突風……?
俺は強烈な風にあおられて膝をついた。
ドゥルルルルルルルルルルルルルルルゥ!!
グチャァァァァァァァァ! ビチャビチャビチャ!
その突風は竜巻となって細長い怪虫に激突し、その体を真横からズタズタに引き裂いた。
「あれれ? 君たちこんなとこでなにしてんの?」
「な……ひむか?! ……って飛んでる?!」
そこにはジャージ姿で空中に浮かぶひむかの姿があった。
怪虫はそのまま息絶えて伊舞たちが触手から解放された。
「ひむかくん、ありがとう……!」
「う、うるないなぁ。助けたつもりなんてないからな」
ひむかは伊舞のお礼に顔を赤らめてそっぽを向いた。
さっきの竜巻はひむかが起こしたものみたいだ。
ゲヒャァャァャァ!!! グギィィ!! キョアァァ!! ガギァァ! グアァァ!!
間近に迫る魔物の群れ。
洞窟に逃げこもうにも怪虫の図体が邪魔で入れない。
「くそ……どうしたらいい……!!」
「うっひょぉ!! なんかたのしそうじゃん!!」
ひむかはそういうと、空中で両腕を高く上げ魔物の群れに向けて振り下ろした。
「そぉぉれ!!」
ビュゥゥゥゥゥゥ!!!!!! ズドォォォォン!!!!
ひむかの起こした強烈な風が地面にぶつかり、すさまじい爆風となって魔物を巻き上げた。
グチャグチャグチャチャグチャチャチャグチャッグチャグチャッ!!!
縦横無尽に吹きすさぶ風が真空の刃となり魔物を次々と切り刻む。
そして細切れに裂かれた魔物の肉片が気流とともに暗黒の空に飛んでいく。
風が収まるころには、あれだけいた魔物の姿がどこにもなく荒れた大地が広がっていた。
「ひ、ひむか……お前は一体……」
「まぁ秘密だよねぇ。君に言ったってしょうがないことだしさぁ」
ああ……そうですか。
「ていうかさぁ、おたくらなんで魔界にいるわけ?」
俺たちが事情を話すとひむかは腹を抱えて笑い転げた。
「あはははは、まぬけだなぁ!! でもちゃんとした肝試しができてよかったじゃん!!」
「あんまり笑ってやるなよ……。死ぬ思いしたんだから」
「まぁ僕もちょうど戻るとこだったしゲートに連れてってやるよ」
「ひむかくんって案外優しいんだね」
「だ、だからそんなんじゃねぇって言ってんだろ!」
俺たちはひむかに連れられてゲートから魔界を出た。
そこは俺たちが肝試しをした山の中だった。
「もう気安く魔界に遊びにいくのはやめときなよー。ほんじゃ」
ひむかはそう言ってスタスタと山をおりていった。
俺たちも紅蘭と田島を背負って和邇江の別荘へと向かう。
「ごめん……」
「ん? なんのこと?」
「俺がふがいないばかりにみんなを守れなかった……」
「菟上くんは背負いこみすぎだよ。もっとわたしのこと頼って良いんだからね」
別荘に戻ると斎藤が俺たちを待っていた。
「お帰りなさいませ。お二人が見つかったようで安心しました。ただ衣服がお乱れで……」
「うん……、ちょっと色々あったんだ」
「…………そのようですね」
斎藤は事態を察したかの様子で二人の着替えを用意した。
「今晩はもう遅いですし皆様もお休みください」
*
翌日、すっかり寝過ごした俺は昼過ぎにみんなの待つリビングに顔を出した。
「おはようリカク! あなたいつまで寝てるのよ!」
「ホントな! 肝試し張り切りすぎっしょー!」
紅蘭と田島がケロッとした顔でソファーに座っている。
「お、お前ら……なんともないのか?」
「……まぁね。賢介のお調子者っぷりにはあきれたけど」
「ホント昨夜はごめんねー……! 咲重ちゃん許して!!」
田島が紅蘭に土下座をして謝っている。
ゲートに入ってしまったのはやっぱり田島が原因か。
「でも二人とも助かってよかった。もう二度と魔界はごめんだよな」
「はぁ? 何言ってんの。 また変な夢でも見た?」
「菟上くん……! こっちきて!」
「あの二人、昨夜のこと夢だと思ってるみたいだから、山で転んで気を失ってたってことにしてあるんだ」
「そうだったのか。悪いな」
それを信じられるのはこいつらの神経がゴリラ並みだからだろう。
「夢と言えば俺さ、咲重ちゃんと同じ夢みたんだよねー!」
「そうね。ひどい夢だったけど」
「俺的には咲重ちゃんとワクワクドキドキできたから全然あり!」
田島がにやけながら紅蘭を見る。
「賢介……、ぶん殴られたい?」
「ちっすー」
ひむかがけだるそうに寝室から出てきた。
こいつも能士なのだろうか?
昨夜の人知を超えた能力もさることながら魔界にいた理由も謎だ。
俺はそんなひむかにどことなく警戒感を覚えていた。
ガチャ
「オーッホッホッホッホ!! ごめんあそばせて!」
続いて和邇江が斎藤を引き連れて別荘に入ってきた。
和邇江は俺たちとは別でどこかのホテルに泊っている。
「あなたたち、昨夜の肝試し最高でしたわね!!」
こいつ……、よくそんなこと言えたものだ……。
斎藤が全員揃っていることを確認してテーブルに昼食を並べ始めた。
「早速ですが食事がお済になり次第、川水浴に向かいますのでご準備お願いします」
「おっしゃー!! リカク! 喜べ! 水着回だ!」




