六話 魔物戦
ピッシャァァァァァァァァァァ!!!
伊舞に指を噛んでもらうと、俺の頭に電撃のようなものが走り身体の底から力が沸き上がってきた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ゲヒャ?!
俺の叫びに襲い掛かってきた四匹の鬼が動きを止める。
そして不可解な面持ちで寄り集まってお互いの顔を見合わせた。
「おらぁぁぁぁ!!」
俺は一塊になった鬼に思いっきりパンチを繰り出す。
ズッゴォォォォォォォォォーーーーン!!! バシャァァァァ!!
ゲギャァァァァァァァァァァァァ…………!!!!!!
四匹の鬼はまとめて吹っ飛び、部屋の中の大きな鍋に直撃して熱湯をもろにかぶった。
ゲッヒャァァァ……!!!!!
続いて部屋に突入した俺たちは急いで紅蘭と田島の元に駆け寄った。
熱がってのたうち回る四匹の鬼は、捨て台詞のような鳴き声を発して部屋を飛び出していく。
「リカク……、みかこ……、助けに来てくれてありがとう……」
紅蘭はそう言うとすぐに意識を失った。緊張の糸が解けたのだろう。
俺たちは裸にされた紅蘭と田島の身体に破れた浴衣の切れ端を巻いた。
そして俺は田島、伊舞は紅蘭を背負って洞窟を引き返す。
「二人とも……間に合ってよかったね」
「ああ……。少しでも遅かったらあの鍋に放り込まれてた」
俺は背筋をゾッとさせながら伊舞に噛まれた指を見る。
「伊舞さ。さっきのあれ……、なんだと思う?」
「あれって菟上くんの能力のこと?」
「能力……っていうのかな。正直よくわかってなくて」
伊舞に指を噛ませたのも、ゲートの前にいた鬼を見れるようになったのは伊舞に噛まれて力が湧いたからだ。
「うそ……。菟上くん知らずにあの能力使ってたの……?」
「あ、ああ……。さっきのも一か八かだった」
「そこまで詳しくはないんだけど、菟上くんの能力は光の属性だと思うよ」
「光の属性?」
「うん。能士の中でも希少な神光の使い手ね」
異世界転生もののラノベでよく聞くような話だ。
「え、えっと……能士ってなんのこと? RPGゲームとかにある職業とかジョブ的な?」
「ふふふ。菟上くんったら」
伊舞はそう微笑んで、さっき噛んだ俺の指を握る。
「能士っていうのは、自然の力とか霊力とか魔力とかを自在に操る人たちのこと」
「魔法使い……みたいな?」
「う~ん、ちょっと違うかな。能士の血族にしか与えられない先天的なものだから」
「な、なるほど……」
父親が能力を使ってるのは見たことないが、昔ばあちゃんが光をまとって熊を撃退しているのを見たことがある。
その時は、光はたんなる見間違いでばあちゃんすげーってくらいにしか思っていなかった。
「ちなみにわたしは能士である神子の血族。この血を引いて生まれてきたことをどれだけ恨んだか……」
「伊舞……」
伊舞の顔が一気に暗くなった。
その能力のせいで伊舞は今までどれだけ苦しんできたのだろうか。俺には想像すらつかない。
「そういえばこっちに来たことあるって言ってたよな? その時はどうやって帰ったんだ?」
「小さい頃の話だからあんまり覚えていないんだけど……、連れてきてくれた人がゲートを見つけて帰ったと思う」
「そうか……。そしたら俺たちもゲートを探さないといけないな」
俺たちは無事に洞窟を抜けた。
…………?!!!
ゲヒャ!! ゲヒャ!! ゲヒャ!!
グギィィィィィィィィィ!!!!!
ガァァ! グアァァ!!
「お、おい……! こいつら……!」
「魔物がこんなに……」
くそ……! さっきの鬼どもが呼び集めやがったな……!!
洞窟の外で俺たちを待っていたのは魔物の群れ。
四匹の鬼のほかに、四、五メーターほどの大きな鬼、空で群をなす怪鳥、奇形の珍獣や人型の動物など、おびただしい数の魔物が俺たちの前でひしめいていた。
ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!
「う、菟上くん……! どうしよう……!」
「仕方ない……! 一度洞窟の中に戻ろう!」
「それも無理みたい……」
グチュゥゥゥ……、グチュゥゥゥ……、グチュゥゥゥ……
洞窟の奥からワームのような気持ちの悪い巨大な怪虫が這い出てくる。
「くっ……」
これで俺たちは八方塞がりとなってしまった。
「伊舞……指を噛んでくれ。俺がやつらを引き付けてる間に二人を連れて逃げるんだ」
「一人で犠牲になる気……? そんなのだめ……!!」
「このままじゃ全員食われちまう。助かるにはこれしかない……!」
「…………。 菟上くんが危なくなったらわたしも戦うからね……!」
ためらいながら伊舞は俺の指を噛んだ。
ピッシャァァァァァァァァァァ!!!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺の身体に光の渦がまかれていく。
バサァ!! バサァ!! バサァ!! バサァ!!
四匹の鬼の奇声を合図に魔物が次々と襲い掛かってきた。
メダマ……! ヨコセ!!
はじめに俺たちを追いかけてきた怪鳥が仲間を引き連れて急降下してくる。
俺は両手の拳をグッと握りしめた。その内側に光が集まる。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そして、もの凄いスピードで飛来する怪鳥に向けて手のひらを開いた。
パヒュゥゥゥゥ!! ズドォォォォォン!! ズドォォォォォォン!!
俺の手のひらを離れた光がさながら銃弾のような勢いで怪鳥に直撃する。
グガァァァァァァァ……!!!
俺は矢継ぎ早に光弾を放って飛来する怪鳥を次々と撃ち落とした。
「ふぅ……」
あらかた怪鳥を片づけることができたが光弾を使うことで体力をかなり消耗した。
グルォォォォォ!!!!! オオォォォォ!!
「菟上くん!! 危ない!!」
伊舞の声で大きな鬼が金棒を振り上げていることに気づいた。
ブゥゥゥゥゥゥン!!!!!
「くっ……!」
俺は意識を集中させ腕を交差させる形でガードした。
すると、光が楯のようになって腕の周りに浮かび上がった。
バァァァァァァン!!!!!!
鬼の金棒が俺に直撃した。
「ぐはっ……!!」
俺はその衝撃で五メートルほど吹っ飛んだが身体はなんともない。
さっきの光の楯で鬼の攻撃を防ぐことができたみたいだ。
「うおぉぉぉ!!」
俺はお返しとばかりに鬼に光弾を撃ち込んだ。
バァァァァァァァァァン!!
グオォォォォォ……!!
光弾をくらった鬼は大きな音を立てて尻もちをついた。
ゲヒャ……?! ゲヒャ……!!!!
四匹の下級鬼は突っ走ってくる俺にビビッて逃げ惑う。
「おぉぉらぁあああ!!!」
ズドォォォォォ!!!!
俺は腰をついた状態の鬼のどてっぱらに光弾を握ったまま拳を撃ち込んだ。
グオォ……ォォォ……!
その一撃を受けた鬼は口から血を噴き出して動かなくなった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺が雄たけびをあげて威嚇するとおびただしい数の魔物が動きを止めた。
「よし……今だ! 伊舞、にげろ!!」
俺はそう言って伊舞たちのほうを向いた。
…………?!




