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四話 ゲート

 俺と伊舞(いまい)田島(たじま)紅蘭(くらん)を探しに小山へ戻った。

 しかし、肝試しのスタート地点まで探しても二人の姿はなかった。


「田島ー! 紅蘭ー!!」

「二人ともどこにいるのー?!」


 不安に思った俺たちは再度山に入り声をあげての大捜索を開始した。


「やっぱりいないね……」

「どこかに消えてしまったみたいで気味が悪いな」


 念入りに辺りを見ながら山を登っていると、小山の山頂付近で伊舞が足を止めた。


「ねぇ見て! あそこ!」


 伊舞が指差した方向には三メートルくらいの間隔で大きな木が二本立ち並んでいた。

 その木と木は上部がロープのようなもので結ばれていて、千切れたひらひらした紙が数枚垂れ下がっていた。


「ん? 子供のいたずらかなんかだろ?」

「よく見て……! その前にいるでしょ!」


 俺は目を凝らして木の前方をジッと見てみたが何もいなかった。


「伊舞には何か見えるのか?」

「うん。菟上(うなかみ)くんにも見えるはずだよ。ちょっと手を貸して」


 伊舞はそう言うと、俺の手をとって親指を甘噛みした。

 俺はその感触にドキッとしつつ、身体の底から気が高まってくるのを感じた。


「ぅなぁかみきゅん……! みぃて……!」

「あれは……?!」


 改めて木の辺りを見直すとそこには変てこな鬼の格好をした子供が立っていた。

 さっきまでは確かに見えていなかったはずだ。


「急に噛んじゃってごめんね。でもあの子見えたでしょ?」

「ああ……。あの子は一体何なんだ? こんなとこで鬼のコスプレでもしてるのか?」


 不思議と伊舞が俺の親指から口を離した後もその姿は見えたままだった。


「違うよ。あの子は本物の鬼。きっとここで見張りをさせられているんだと思う」

「伊舞……。鬼というのはだな、人間が作った想像上の生き物だったり概念のことだったりをいうのであ……」

「うおう! うおう! うおう!」


 伊舞に説法をしようと俺が指を刺すと、その子は俺たちを威嚇し始めた。


「私たちが見えていること分かっちゃったみたいだね」

「はぁ……。めんどくさい子供だな。ちょっと待ってて」


 俺はその子にゆっくり近づいて話しかけた。


「君、こんな所でなにをしているの? カッコいい鬼の格好だね」

「…………」


 その子は威嚇するような顔をしたまま無言で俺を見ている。


 うーん……。どうしたものか。


「こんなところでこんな遅い時間まで遊んでいると、パパとママが心配するよ? 一緒に帰ろうか」


 俺はそう言って、その子の手を引いた。


「うおう!! うおうぅぅーー!!」

「ぐっ……!! やめろ!!」

「菟上くん……!!」


 その子は急に暴れだして俺に馬乗りになって攻撃し始めた。

 想像以上に力が強すぎて、俺はガードをするので精一杯だった。


「こら! おとなしくしなさい!」


 …………ん?


 伊舞がそう言ってその子の頭を押さえると、言うことを聞いて大人しくなった。


「よしよし。良い子ね」


 その子は伊舞に頭を撫でられて嬉しそうにしている。


「い、伊舞……。これって」

「子供だからって鬼は強暴だから気をつけないと」


 伊舞がしばらく頭を撫でていると、その子はすやすやと眠ってしまった。


「もう時間も遅いし、疲れていたのかもね」

「はぁ……。そんなものなのか……」


 俺もついでに頭を撫でて欲しくなった。


「もしかしてだけど……、二人はここに入っちゃったのかも」

「ここって?」

「この木と木の間、ゲートが開いてるからさ」

「ゲート?」


「あっ……、菟上くん分からないよね。ごめん」


 まったく理解できなかったが、伊舞の説明ではこうだ。


 ゲートというのは、この世とは別の世界をつなぐ出入り口のことで、エネルギーの高まる満月の夜や、異界の住民たちの都合で都度開かれるらしい。そして、この木と木の間にそのゲートが開かれていて、田島と紅蘭はここに入ってしまったのかもしれないとのこと。ちなみにこの子供は、このゲートを見張っている本物の鬼の子供なのだという。


「……なるほど」


 俺は頭を抱えながら無理やり話を飲み込んだ。


「もしホントに二人がゲートに入ってしまったのだとしたら……、もう戻ってこれなくなっちゃうよ」

「そうなのか。しかしゲートって言ってもな……、ただの空間にしか見えないぞ」


 俺は試しに木と木の間を通り抜けてみることにした。


「待って菟上くん! あっ……」


 シュイーン!!


「え……?」


 木と木の間に差し掛かった瞬間、俺の身体が何かに吸い寄せられ、突然視界が切り替わった。


「ここは……」


 俺の目の前に広がっていたのはまさに別世界。

 荒れた大地、精気のない木々や草原、むき出しの岩山、どろどろとした河川。

 空は真っ暗に閉ざされ、光源がないのにあたりはほの暗く照らされている。


「もう……、置いてかないでよ」


 少し遅れて、伊舞もゲートからここに移動してきた。


「悪い。それよりここ……」

「魔界ね……。子供の頃に一度連れて来られたことがあるだけだから詳しくは知らないけど、魔物が住んでいる怖いところ」


 まるでラノベ的展開だ……。ここまできたらあるがままを受け入れよう……。


 グゥゥルルルゥゥゥギィィィィゥゥゥゥ……!!


 どこからかおぞましい何ものかの鳴き声が聞こえてくる。


「こんなところに田島と紅蘭はきてしまったのか……」

「まだ分からないけど……、小山を探した感じだとその可能性が高いかも」


「すぐに引きかえしてくれば問題なかったのになんで……ってあれ……?」


 周りを見回したがゲートらしき空間はどこにも見当たらない。


「そうなの……。出入り口の場所が違うというのが異界間を移動する上で厄介なところ」

「マジか……。これじゃ俺たちも元の場所に戻れないじゃないか」


「来てしまったものはもう仕方ないし、とりあえず二人を探そう」

「そうだな……」


 俺たちは二人を探すため恐る恐る移動し始めた。

 二人の所在が分からなくなってからまだ一時間ちょっとしか経っていない。

 ここに来てしまったのだとしても、そう遠くには行っていないはずだ。


 方向感覚が麻痺してしまいそうだったので、とりあえずゲートから出てきた場所を中心に半径一キロ内を捜索してみることにした。

 しかし、ぐるっと一周しても二人の痕跡は見つからなかった。


 グゥゥルルギィィィゥ……!!


 心なしか鳴き声が近づいてきているように感じた。


 変なのに出くわす前に二人を見つけ出さないと……。

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