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二話 バカンス

 俺たちはローカル線を乗り継いで新幹線が止まる駅に移動した。

 そして和邇江(わにえ)が手配した新幹線のグリーン車に乗り込む。

 和邇江とは現地に落ち合うことになっているため今は五人だ。


「リカクの席はここね!」


 仕切りたがりの紅蘭(くらん)が座席の割り振りをはじめた。


 グリーン車は横並びが四列で真ん中の通路を挟んで座席が二席ずつ設けられている。

 俺の席は紅蘭の隣になったのだが、ここでちょっとしたいさかいが起きる。


「……あのさ、わたし、菟上(うなかみ)くんの隣がいいな」


 伊舞(いまい)が紅蘭の席割りに異議を申し立てたのだ。


「リカクはこんなだから私がついてあげてなきゃ駄目なの!」

「そんなことないよ……! 菟上くんはしっかりしてるもの」

「リカクはダメンズの鏡みたいなやつなのよ! 長い付き合いだから分かるの!」

「……わたしだって菟上くんのこと分かってるよ」

「みかこがリカクの何を知ってるっていうの!!」


 突如勃発した紅蘭と伊舞の喧嘩を前に俺と田島(たじま)はキョトンとしていた。

 その横でひむかは我関せずという顔をして適当に席についた。


「というか、みかこはなんでリカクの隣に座りたいのよ?」

「……そ、それは……」


 伊舞が顔を赤らめて言葉に詰まった。


「気まぐれで言ってるんだったら別にどこだって良いわよね」

「駄目……! だってわたし……、菟上くんのこと……」


「二人とも、これからって時になに喧嘩してんのよー! リカクの隣には俺が座るから!」


 さらに二人に火がつきそうなところで田島のファインプレーが飛び出した。

 田島が俺の隣に強引に座ると、紅蘭と伊舞は熱が冷めぬまま隣同士で座った。


「何か悪いな……。おかげで助かったよ」

「まぁ気にすんなって。女のバトルほど怖いものはないからな」






 新幹線は三時間ほどで下車駅に到着した。

 その間にほとぼりが冷めたのか紅蘭と伊舞は普通に会話をしながら降りていった。


 俺たちはバスでさらに二時間ほど移動して目的地にたどり着く。

 そこは涼しげなせせらぎ音が響く美しい緑に囲まれた渓谷だ。

 

 そこから二キロほど小径を歩いたところに荘厳な佇まいの別荘があり、和邇江と斎藤(さいとう)が俺たちを出迎えた。


「お待ちしておりました。無事にご到着されて何よりです」

「あなたたち、わたくしの思い出の一ページを飾れることを誇りに思うのですわよ!」


 俺たちは斎藤から滞在中の説明を聞きながら別荘に入った。


「おー!! すげぇ豪華じゃん!!」


 テンションの上がった田島が広々とした別荘の中を走り回る。

 別荘はコンドミニアムで片田舎の自然とは似つかわしくない豪華な内装となっていた。


「ちょっと賢介! あんまり調子に乗って和邇江さんに迷惑かけるんじゃないわよ!」

「いえいえ、皆様好きにお楽しみいただいて結構です」


 斎藤はそう言うと、それぞれに個室の寝室を案内した。


 その後、俺たちは夕食を済ませてみんなで近くにある温泉街に向かった。

 この辺りは有数の温泉地だそうで徒歩圏内にいくつもの温泉施設が点在していた。


「おっ! あっちに露天風呂があるぜ!」

「雰囲気あっていいわね! あそこにしましょ!」


 俺たちは田島が見つけた古びた露天風呂に入ることになった。


「すっげぇぇぇ!!!」


 露天風呂に入った田島は開口一番に絶叫した。

 他に客がいなかったから良いものの、本当にデリカシーのないやつだ。


「ちっ、うっせぇなぁ」

「いいじゃんか! ひむかももっとはしゃげよ!」


「あれ? 田島くんたちの声かな?」


 露天風呂の壁の向こう側から伊舞の声が聞こえた。


「……おい。もしかして隣、女湯じゃね……?」


 田島がニヤつき始めた。


「おーい! みんなそこにいるのー?」

「いるわよ! 和邇江さんはすぐにのぼせて先にあがっちゃった」

「おーそっかー! 咲重(さえ)ちゃんもみかこちゃんものぼせないようにねー!」


 それから田島はどうにか女湯を覗けないかと壁を入念に調べていたが鉄壁だったようで断念した。

 そして湯に戻ってしょうもないスケベ話をはじめた。


「なぁなぁ! みかこちゃんも大きいけど咲重ちゃんの胸でっかいよな! それでいて二人とも華奢で可愛くて男心くすぐるよな!」

「おい……、聞こえるぞ。止めとけって……」


「肉食系の咲重ちゃんと、おしとやかなみかこちゃん。う~ん、どっちも捨てがたい! リカクはどっちがタイプよ?」

「お、俺は……」


「あのー、全部聞こえてるわよ」

「な、なはははは……!」


 まったく……、言わんこっちゃない。


 田島はお湯の中に顔を鎮めて口から泡をブクブクさせていた。






 カタ、カタ、カタ……


 露天風呂から出た俺たち男子が温泉街を散策していると、浴衣姿の伊舞と紅蘭が下駄の音を立てて歩いてきた。


「良い湯だったね!」

「やべ……! 二人とも可愛すぎるっしょ!!」


 田島が湯上りで色っぽくなった伊舞と紅蘭の姿に見とれている。

 すると紅蘭が浴衣の袖を広げて俺に近づいてきた。


「リカク~、この浴衣似合うかしら?」

「そ、そうだな……。まぁまぁ似合ってると思うよ」

「さっすがリカク、分かってるわね」


 あんまり褒めたつもりはなかったが紅蘭はまんざらでもない表情だ。


「あのさ……、わたしも似合ってるかな?」


 今度は伊舞が恥ずかしそうに尋ねてきた。


「あぁ、伊舞もなかなか似合ってるよ」

「ほんと……?! 良かったぁ!」


「……じゃあ私とみかこだったらどっちの方が似合ってる?」

「はぁ……?」


 紅蘭が子供じみた質問をしてきた。

 浴衣は入浴施設にあったものだから正直どっちも大差はない。


「みかこも気になるでしょ?!」

「う……うん」

「あのなぁお前ら……」


「皆様、お揃いでしたらこちらへ」


 絶好のタイミングで斎藤が声をかけてきた。

 和邇江はその横でアイスを嬉しそうに食べている。


 斎藤は風呂上りの俺たちを少し離れたところにある小山に連れて行った。


「こんなところでなにするんよー! ちょっと怖いじゃんか」


「ふっふっふ……! わたくし、肝試しなるものをしてみたいのでございますわ!」


 俺たちはそんな和邇江の気まぐれで肝試しをすることになった。


 先ずは二人一組に分かれるため、くじ引きでペアを決めた。


「わたくしのお相手は……、あなたでございますわね」

「菟上だ。呼びつけたんだから名前くらい覚えておけよ」


 くじ引きの結果、俺は和邇江とペアに、他は田島・紅蘭ペア、ひむか・伊舞ペアに決まった。

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