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一話 夏休み

 俺は菟上(うなかみ)リカク。至って平凡な高校二年生だ。

 待ちわびていた夏休みを向かえ、悠々自適に毎日を過ごしている。


 ピロロロロ ピロロロロ ピロロロロ ピロロロロ……


 そんなある日、部屋にこもって流行のライトノベルを読み耽っていると久しぶりにスマホが鳴った。


「あ、リカクー? ちょっと今から駅前の喫茶店に来れる?」


 紅蘭(くらん)からだ。こいつは俺の幼馴染。

 学年の優等生で面倒見も良い所が支持されてか、一学期の最終日に行われた生徒会選挙では役員に選ばれていた。


「すまんな。いま立て込んでるんだ」

「嘘言いなさい! どうせ毎日自堕落(じだらく)な生活してるんでしょ。妃奈(ひな)ちゃんから聞いてるわよ」


 自堕落……。まぁ否めない。

 しかし、この紅蘭のきつい物言いにはいつもモヤっとさせられる。

 ちなみに妃奈とは俺の五歳の妹のこと。

 近所に住む紅蘭はよくうちに顔を出すので、その時に妃奈が告げ口をしたのだろう。


「妃奈のやつ……。で、何の用だよ」

「それは来てからのお楽しみ!」


 俺はしぶしぶエアコンの効いた快適な部屋とおさらばして駅前の喫茶店に向かった。


「お! 来たか! こっちだぜ!」


 汗をにじませて喫茶店に到着すると、クラスメートの田島(たじま)が俺を呼んだ。


「もぉ! 遅かったわね! みんなあなたのこと待ってたのよ!」

「菟上リカク様ですね? お待ちしておりました。どうぞお座り下さい」


 そこには紅蘭と田島の他に同じクラスの和邇江怜(わにえりょう)と知らない黒服の男がいた。


「急に呼び出すからだろ。これは一体何の集まりだ?」

「あと何人かくるから話はその後でね」


 俺は一先ず席に座ってアイスコーヒーを注文した。


 チリリン


 それからほどなくして喫茶店のドアが開いた。


「おっすー」

「あー、来た来た!」


 誰かと思えば、この春にうちのクラスにきた謎の多い転校生だ。

 名前は確か冥枉津日向(めいまがつひむか)。苗字が難読過ぎるため俺たちはひむかと呼んでいる。


「よう。お前も人付き合いとかするんだな」


 俺も人のこと言えたがらじゃないが、ひむかが他人と話しているところをほとんど見たことがなかったから驚いた。


「いや、おまえらには全然興味ないよ。ただの退屈しのぎだよね」


 まったく身も蓋もないやろうだ。


 チリリン


 また誰かが喫茶店に入ってきた。


「みんな、お待たせしちゃってごめんね」

「いいのよ。みかこ、来てくれてありがとう」


 最後に来たのは、こちらもクラスメートの伊舞(いまい)みかこだ。

 伊舞も優等生で容姿も端麗なので学校のヒロイン的存在となっている。

 紅蘭とは成績を競ってバチバチしていることが多いが今日は仲良さげだ


 急いできたのか、汗ばんだ様子の伊舞は俺の方をチラッと見て向かいの席に座った。


「全員お揃いのようですので、私からご説明をさせて頂きます」

「あなたたち! よーく聞いておくのでございますわよ!」


 この日本語が怪しい和邇江は実家が超お金持ちのお嬢様だ。

 なんでも、訳ありで跡取りの両親がいなくなってしまったとかで、一人娘の和邇江が若くして当主の座についたとか。

 こんな調子で振舞ってるからクラスでは陰で顰蹙(ひんしゅく)を買っている。


「私は怜さまの執事をしておりますアルフォンス斎藤(さいとう)と申します。いつもお嬢さまが大変お世話になっています」


 西洋人っぽい顔をした黒服の男は和邇江の執事で斎藤というらしい。さすが良いとこのお嬢様だ。


「この度はお嬢さまきってのご希望で皆様と夏のご旅行をさせて頂きたく思っております」

「おーっほっほっほっほ! 名付けて、和邇江家のご令嬢が下々のクラスメートと華やかな夏の思い出を作ってごらんあそばせる!!」


 ……どこのラノベのタイトルだよ。今時おーっほっほっほっほって……。


「それはそうと、なんでこのメンツなんだ? 俺なんて別に和邇江とは仲良くもないしさ」


「今回は怜さまが、自分よりは劣っているがそれなりに優秀な女子と、優秀じゃないけれど一風変わった男子をご選抜されました」


 金持ちの道楽は理解できたもんじゃない。


 斎藤が続けて細かな旅行の計画を説明した。

 この旅行は二泊三日で、東北の避暑地にある和邇江家の別荘で夏を満喫する計画との事。

 費用は全て和邇江側が負担してくれるらしい。


 ガシャン!


「おー!! なんか楽しそうじゃん!! あ……」


 話に興奮して立ち上がった田島がうっかり俺のアイスコーヒーのグラスを倒した。


「おい田島……」

「わりぃ……!!」


 こぼれたアイスコーヒーは俺のズボンに派手にぶちまけられた。


「大丈夫?! ビチャビチャないの……。賢介(けんすけ)はホント落ち着きないわよね」


 それを見た紅蘭がハンカチで俺のズボンを拭きはじめる。

 世話好き過ぎて鬱陶しいこともあるけれど、こういう時はつい甘えてしまう。


「おっ……おぉ。ありがとう」


 …………ん?


 向かいから強烈な目線を感じた。


 伊舞が恐ろしい顔をしてこっちを見ている。


「……紅蘭、もう大丈夫だ。そ、そういえば伊舞注文まだだったよな! 俺も頼みなおさないと……」


 俺はそう言って紅蘭の手をそっと払い店員を呼んだ。


「異論はないようですね。それでは皆様全員ご参加ということでお願い致します」

「あなたたち! 狸馬(たぬきうま)の心で感謝するのでございますのよ! おーほっほっほ!」

「お嬢様、それをいうなら狗馬(くば)の心です」


 斎藤が和邇江に的確な突っ込みを入れた。

 もはや学校ではその作ったようなキャラに誰も突っ込まなくなっているから新鮮な感じだ。


「で、いつ行くのよ! 俺は今からでも良いぜ!」

「各々準備があると思いますので一週間後に致しましょう」


 はやる田島をよそに斎藤が淡々と諸事項を話した。


「オッケー。んじゃ帰るわ」


 あらかた内容が伝えられるとひむかはすぐに店を出て行った。

 俺たちも席を立ち店の出口へと向かう。


 その途中、伊舞がもじもじしながら俺に声をかけてきた。


「ねぇ、菟上くん」

「ん? どうした?」


「旅行楽しみだね」

「そうだな。みんなで遊びに出かけるのも初めてだし」


 他のみんなは先に店から出て行ったため伊舞と二人きりになった。


「……あのさ、二人でお話しするの少し久しぶりだね」

「そういえばそうだな。色々とあったけど、また伊舞の元気な姿が見れて嬉しい」

「ありがとう……。わたしも菟上くんに会えて嬉しい。あれからいつも菟上くんのこと……」


「何してるのリカク! 帰るわよ!」





 一週間後、現地集合の和邇江をのぞく俺たち五人は地元の駅に集合した。

第二部スタートです!宜しくお願いします!

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