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十九話 望み

「ククククク。……アディオス! 良い夢を」


 (あずま)は笑い崩れそうな顔を隠し、冷静を装って部屋を後にした。


 こいつ……、はじめからここで俺を殺す気だったんだ!


「ま、待て! 伊舞(いまい)を……」


 俺はそう言いかけたが口をつぐんだ。


 もう……俺にそんなことを言う資格なんてない。


「よーにいちゃん! どこ見てんだよ!」


 グジャァッ! ズシッ……!!


 男が鈍器で俺の腹を殴った。

 俺は鈍い音とともによろめいて後ろの壁に激突した。


「ぐはっ……!!」


 しゃがみ込んで血を吐き出す俺を見て他の男たちがケタケタ笑っている。

 俺は十名ほどの男たちに包囲され、完全に逃げ場がなくなっていた。


「くそー!!」


 俺はナイフを引き抜いて正面に構えた。

 だが、男たちもそれぞれ鈍器や刃物など武器を持っている。


「へへへへ!! 俺たちとやろうってのか?」


「うおぉぉぉぉ!!」


 俺はナイフを正面に向けたまま男たちに突っ込む。

 男たちは突然の特攻に驚いて俺を避けていく。


「おおっと……! あぶねぇな!!」


 …………ん?!


 バタンッ!!


 俺は誰かに足をかけられて転んだ。

 そして地面についた際に手からナイフを離してしまった。


 焦った俺は四つん這いになってナイフを探す。


 カチャ


「あははは! これを探しているんだろ?」

「くっ……」


 近くにいた男に先にナイフを拾われた。


「さぁどうする気だ?! にいちゃぁん!!」


 丸腰となった俺は男たちから凄みを利かされ後ずさりする。


 駄目だ……。もうおしまいだ……。


「よっしゃああ!! やっちまうぞ!!」


 その瞬間、すべてを諦めた。

 俺は無抵抗のまま男たちの暴行を受ける。


 グシャ!! ドスッ!! メシィ!! バキィ!! ガツッ!! ……!!


 くはっ……ゲホッ……ゲホッ……


 男たちは代わる代わる殴る蹴るを繰り返し、俺を完膚なきまで袋叩きにした。

 俺は顔の輪郭が変わるほど滅多打ちにされて痛みすら感じなくなっていた。


 全身血みどろになった俺を男たちはこれでもかとばかりにいたぶり続ける。





 ……もうこれでいい。これが俺の運命なんだ。

 どんなに抗ったところで、運命なんて変えられやしないんだ。


 …………


 …………


 …………




菟上(うなかみ)くんはさ、逃げられたんだね」


 俺は前に伊舞に言われた言葉を思い出した。




 そうだ。その通りだ。俺は自分の運命からずっと逃げ続けてきたんだ。

 自分は落ちこぼれだと言い聞かせ、過去から目をそらし、そこにあるべき運命(こたえ)を蔑ろにしてきた。




 だけどあの夜……、伊舞と会ってからは……、俺は逃げずに……自ら運命(こたえ)を選んできた!


 俺は……、伊舞との運命をここで終わらせたくない……!!




 それが俺の望み……!! 俺が本当に手にしたい運命こたえだ!!!




 ……来い……! ……来い!!


 頼む……!! もう一度だけ俺に選ばせてくれ……!!!




「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」






「伊舞!! こっちだ!! おい!!」


 俺は鏡越しに手を振るが伊舞に気付く様子はない。


「ギャハハハ! これはマジックミラーだ! あちらさんからは見えてねぇ」

「くそ……! この悪趣味な野郎が!!」


 俺は腰に隠していたナイフを抜いた。

 そして部屋を出ようと扉を開けると、そこには数人の男が立っていた。

 俺は押さえ込もうとしてくる男たちをナイフで切りつけ隣の部屋に飛び込んだ。


 伊舞は子供たちの前で申し訳なさそうに何かを話している。


「伊舞!! 助けに来たぞ!!」


 伊舞はうつろな目をして俺の方を向く。


「……菟上……くん?」


「もう大丈夫だ! 一緒に帰ろう……!」


 俺はそう言って、伊舞の元に近づいていく。


「来ないで!!」


 俺は伊舞の目を真っ直ぐ見つめた。


「結局わたしは……、運命から逃げることなんて出来ないの」


「そんなことない! きっと変えられるはずだ!」


「誰もがあなたみたいに抗あらがうことはできないの……!」


「俺は約束した! お前の運命を変えてやるって!」

「菟上くんには無理だったでしょ!!」


「違う……! 俺が抗っている運命は……、俺と伊舞、……俺たちの運命だ!!」


「……菟上くん」


 伊舞は泣き崩れた。




「お、お前ら。こいつを始末しろ!」


 東がそう言うと、ぞろぞろと十名ほどの男たちが部屋に詰め掛けた。

 妃奈(ひな)をさらったピエロの連中だ。


「この間の借りは返させてもらうぜぇ!」

「気が済むまで嬲って殺してやる!」


 俺は殺気立った男たちに周囲を取り囲まれた。


「伊舞! 子供たちを安全な場所へ!!」

「……う、うん!! でも菟上くんは?!」

「俺は大丈夫だ! 心配するな!」


 その言葉を聞いた伊舞は涙を拭いて子供たちを移動させる。


 気付けば俺は十名ほどの男たちに包囲され、完全に逃げ場がなくなっていた。


 俺はナイフを引き抜いて正面に構えた。

 男たちもそれぞれ鈍器や刃物など武器を持っている。


「へへへへ!! 俺たちとやろうってのか?」


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 俺はナイフを正面に向けたまま、一番近くにいた男に突っ込んだ。

 その男は俺の突然の特攻に反射できず腹にナイフが刺さった。


 それを見た他の男たちは驚いて散り散りになった。

 俺はその隙間をかいくぐって部屋の外の廊下に抜け出した。


「こ……、このやろー……!! 逃がさねぇぞ!!」


 俺を追って男たちもぞろぞろと廊下に出てくる。


「お、おい……! なんだこいつ……!!」


 男たちが俺を見て戦慄している。

 俺の身体を中心に暗い廊下が燦々と照らされていた。


「どうした! かかってきなよ!」


「ガキが……! 舐めやがって!!」


 男たちが一斉に攻撃を仕掛けてくるが、狭い廊下での戦闘は必然的に一対一となる。

 俺は冷静になって相手の攻撃を一人ずつ待ち受けた。


「おらー!!」


 はじめに攻撃してきた男は鈍器で殴りかかってきた。


 ベシ……! ズバァァン!!


 俺は男の鈍器を片手でガードして鉄拳一発で相手を吹き飛ばした。


「な……! ……うらぁー!!」


 次の男は鋭利な長い刃物で俺を切り付けてきた。


 バキ! ドォォォォン!!


 男の刃物は俺に当たったがもろくも砕け散った。

 そして男は俺の正券突きを顔面にくらって廊下の端まで飛んでいった。


 三人目、四人目、五人目……。


 男たちが一人ずつ俺に打ちのめされていく。


 そして最後の一人。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 バゴォォォォン!!


 爆裂のような俺の一突きが男の身体にえぐいほど突き刺さる。




 タッ……、タッ……、タッ……、タッ……


 俺は廊下に転がる男たちの身体を足蹴にしながら部屋に戻った。


 その光景を目の当たりにしていた東が縮み上がっている。


「東!! お前だけは許さないからな!!」


「き、貴様ぁぁ……!! おい!! やつを連れて来い!!」


 東の指示を受けた秘書がどこかから巨漢の男を連れてくる。

 腕は縛られ束縛されている様子だ。


 …………?!


 わ、和田(わだ)だ!!

 こいつ……、あの事件で警察に捕まったはずじゃ……!


「まだ試作段階だが仕方あるまい……!」


 東はそう言うと、胸ポケットから注射器を取り出した。


「や、やめろ……! それだけはやめてくれ……!!」


 必死に抵抗する和田の腕に東が注射を打った。

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