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十六話 運命

 満月の夜だった。


 子供の俺を乗せた黒塗りの車が荒っぽく走り出す。

 俺は男たちから目隠しをされ、ただただ恐怖に怯えた。


「こんなガキに惨い仕打ちだよな。ほんと悪趣味な連中だよ」

「まぁ、それが俺たちの食い扶持になってんだ。ありがてぇ話だろ」


 車は三十分ほど走って停車した。

 俺は目隠しをされたまま車内から出され、どこかへと歩かされる。


 ほどなくして室内へ入ると、ざわざわと大勢の人の気配がしてきた。


「えー、ご一同のみなさま! お待たせしました!」


 パチパチパチパチパチパチ……!


「これより天人族のプレゼンツでは記念すべき第一回目となる世鎮式(せちんしき)を開始します!」


 状況を見ることができない俺はもの恐ろしさのあまり硬直する。

 しばらくは呪文のような声や誰かが踊っているような音が聞こえ、粛々と何かが行われていた。


「では最後に、皆様お待ちかねの幣帛の儀でございます! 第一回目に相応しく、菟上(うなかみ)一族の神童を捧げ奉ります!」


 おおーーー!おおーーーー!!


 そのアナウンスに大歓声が沸き起こった。

 俺はそこはかとない不気味さ感じて慄然たらざるをえなかった。


「それでは市子(いちこ)様、お願いします」


 誰かが俺の方に近寄ってきた。


「みかこ、よく見てるのよ」


「いたっ……!!」


 右手首に激痛が走る。

 物凄い力で何かに挟まれ引きちぎられそうだ。


「おかあさま。あの子、痛がってるよ? かわいそうだから止めてあげて」


 少しすると、その何かが右手首から離れた。


「もう少し大きくなったら、あなたも同じ事をできるようにならないといけないのよ」

「え……? そうなの……? わたし、そんなのいやだよ……!」


 パシン……!


 平手打ちのような音が鳴った。


「何を言ってるの?! あなたは高潔な神子の一族に生まれたのよ! 早く自覚しなさい!」

「……ひぐ……ひぐ……、おかあさま……いたいよ……」


「いつまで泣いてるの。行くわよ」


 俺は誰かに手を引かれて、また歩かされる。





「ねぇ、僕はこれからどうなるの?」


「きみはこれから神様になるのよ」

「神様に……?」


「そうよ。だから安心してちょうだいね」


 俺を引き連れた一行は十分ほど歩いたところでストップした。


「クク。最後くらい、その目で見させてやろうか」


 同行していた男によって俺の目隠しが外された。

 満月の灯りがまぶしくて目がくらむ。


「ここは……どこ……?」


 俺は山中の平らな岩の上に立たされていた。

 背後には注連縄が巻かれた巨大な別の岩がある。


 そして百人あまりの見物人が俺のことを好奇の目で凝視している。


「さぁ! 神に降りてきてもらいましょう!! 皆様、ご低頭!」


 場が静まった後、白装束の女が俺に近づき右腕を掴みあげた。

 そして(まじな)いのようなものを唱えると、女は見る見るうちに変貌していく。


「恨むなら貴様の運命を恨むんだな」


 進行役をしていた男がそうボソッと言ってほくそ笑む。


「これが僕の運命……?」


「グギュゥゥゥゥ……!! グギュゥ!!」


 原型をなくした女は怪獣映画を彷彿とさせるような見たことのない巨大な化け物になっていた。

 車くらいの大きさなら何でも丸のみできそうな口からよだれを垂らして俺のことを見ている。


「僕はここで死ぬの……? どうして……? ずっと良い子にしてたはずだよ……?」


 化け物となった女はその大きな口で俺を咥えて空中でブンブン振り回す。


「いやだ……!! 僕は死にたくない……!!」


 化け物は顎をあげて俺を口内へ流し込んだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 バャァァァァァァン!!


 化け物の口の中でフレアのような爆発が起こる。

 俺は空中に投げ出され地面へと落下した。


 化け物は苦しみながら消滅し元の女の姿に戻っていった。


「い、一体何が起きたんだ……?!」

「おい見ろ……! 供犠台から子供が降りてくるぞ……!」


 呆気にとられていた見物人たちが、こぞって騒ぎはじめる。


「降りてくるな! この汚らわしい生贄が!!」


「……いたい……! やめてよ……!」


 誰かが俺に石を投げつけた。 

 その後につづいて何個も石が飛んでくる。


「く、食われろ!!」

「そうだ! 食われちまえ!!」

「おまえが食われれば俺たちは安泰なんだ!!」

「食ーわれろ! 食ーわれろ!」


 大人たちの無慈悲な大合唱がはじまった。


「……みんな……なんでそんなこと言うの? 僕が駄目な子だから……?」




「さ、さっきのはなんだったの……?」


 白装束の女が弱々しく起き上がる。


「ふぅん。市子さん、失敗は許されませんよ?」

「……分かってますよ」


 男からそう警告された女は茫然自失している俺に近づいてきた。


「もう一度儀礼をするにも血が足りないわ……」


 そして女は俺の左手を掴み手首に思いっきり噛み付いた。

 大量の血が噴出して女の顔が真っ赤になる。


「みかこ! 手伝いなさい!! あなたは右手首を噛むのよ!!」


「……いやだ……! ……わたし……こんなことしたくない!!」

「この子は!! またそんなこと言って!! これはあなたの運命なのよ!!」

「いや……! こんなのわたしの運命じゃない……!!」


 女の子は耳を押さえて女の要求を拒絶している。


「いい加減にしなさい!!」


 バチッ……!


 俺は女の子に平手打ちをしようとした女の手を掴んだ。


「やめなよおばさん。その子、嫌がってるよ」

「……な! この子……、なんなの?!」


「みんなして運命……運命って……。おかしいよ……」


 俺の身体が光の渦に巻かれていく。


「そんなのはいらない!! 運命なんて、全部なくなってしまえーー!!」


 ピシャァァァァン!! ズゴゴゴゴゴ!! バッシャァァァァァァァ!!


 俺は全身から稲妻のような強烈な閃光を放出した。


 刹那に光の刃が全てを貫いていく。


 次第にそれは無数の光となって夜空に消えていった。


「はぁ、はぁ……」


 見回すと、その場にいた人間は全員倒れて動かなくなっていた。


「こんな運命なんて……、消えてなくなってしまえ……」


 俺はその後、朦朧としながら自力で山を降りていたが、ほどなく力尽きた。





「リカク……! リカク……!!」


 …………ん?


 この声は……?


 目を覚ますと、紅蘭(くらん)が心配そうな顔をして俺を呼んでいた。


「リカク?! 大丈夫なの?!」

「紅蘭か……。どうした?」

「どうしたじゃないわよ……! リカク、急に倒れて動かなくなるんだもの……」



 そこは学校の屋上だった。





「……泣いてるの?」





 どうしてだろうか、俺は涙が止まらなかった。

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