三日月『2』
青森の市内から上京した玲奈と出会ったのは配達先の事務所だった。伝票にサインをしたとき名字が同じだったからだ。
『北岡さんて言うんですね、俺も北岡です。』
『そうなんですか、珍しい名前ですよね、でも高校では結構いましたよ。実家は青森の田舎なんですが…』
『青森なんですね、俺の祖父が確か青森の出って言うのは聞いていたんですけど…向こうでは普通にいるんですね』
三回目の配達に行った時に安くて美味しいハンバーグの店を知らないかと聞かれ、仕事柄配達地域にあるほとんどの店に配達があるので詳しかったのと、玲奈の部屋からその店まで歩けば五分で行く事ができ迎えに行く手間も送る手間もなさそうだったので一緒に行く事にした。
『ハンバーグ好きじゃないでしょ、おじいちゃんだっけ?青森出身って言うのも嘘でしょ』
1Kの部屋は三階にあり折り畳んだ布団は白かったが、テーブルも冷蔵庫もカーテンも黒く統一されていた。
洞窟みたいだなと思った。
『ハンバーグは好きだよ、嫌いな人っているの?』
『私。玉葱のシャキシャキ感がするのが嫌いなの』
その洞窟の中では白い布団があまりにも目立ち、有ってはならないモノに近い印象を受けた。
『じいちゃんが青森出身なのも本当だよ、確か村の名前になっているはずだしね、まぁ本当なのを証明しろって言われてもそれは出来ないわ…死んじゃてるしさ』
白い布団の中でただ手を繋いで目を閉じた。時々強く握る指先が玲奈が起きている事を教えている。俺もすぐに眠れる訳もなくそれでも目を閉じ続けていると
『男の人はみんな嘘付きだって教わったから…ごめんね。』
と言った後、寝たふりは嘘になるかな?
と呟いた。
どうだろう、とだけ俺は答えた。