僕の魔力には鍵が掛かっていたらしい
「もう、ルドルは口が軽すぎるよ。特殊能力なんて滅多に人に教えることなんてないのに」
「でも姉ちゃん。オレ達奴隷なんだし、オレの魔眼で兄ちゃんが悪い人じゃないってのも分かるからいいんじゃねえか?」
「確かにそこは同意するけど……仕方ないですね。マヒロお兄さま、私の特異能力についてもお教えしておきます。それで私達2人が何故森を彷徨っていたのかも分かると思いますので」
「了解」
「私には【直感】という特異能力があります。これはマヒロお兄さまの【倍増】と同じで魔力の使用はありません。常時、漠然とですがどうした方が良い、この選択は間違いだというのが分かるんです。勿論、それ全てが当たるわけではないですが、それなりに私は自分の【直感】を信じています」
「ああ、もしかしてその直感で森を進んできてたのかな?」
初めて会った時、僕を見て一瞬驚いていたから多分そうだと思う。
「ええ、正直あの時は諦めていました。私達に頼るものなんてそれこそこの【直感】しかないわけですから。しかもあの時の直感はこれまで感じたことがないほどに強いものでした。もしかしたら意識が朦朧としていた為起こった勘違いかもしれませんが、それで私達がマヒロお兄さまと出会えたのは事実です」
「そうなんだ。それにしても、なんで君たちはこんな事になったの?サーシャのレベルは知らないけど、ルドルのレベルは僕の世界でも平均以上に高い数字のはずだよね。そんな君でも倒せない魔物って一体?」
ルドルの話を聞いてそれが疑問だった。
序列上位を見たらキリがないけど、一応世界の平均レベルは15行くかいかないか程度だったはずだ。
そもそもレベルが上がりにくいと言うのもあるが、他にも地球でレベルをあげるのにはかなり苦労がいる。
それは魔物の出現量が少ないからだ。
魔物はある程度悪質な魔素がある場所、魔力溜まりから出現する。
しかし、その出現量は人と比べてあまりに少ない。
だからこそ学校ではレベルアップできる機会を用意してるんだし、逆に言えば学校を卒業してからのレベルアップは一気に難しくなる。
「ああ、あんなやつ絶対無理だって。オレ達は逃がされた様なものだったんだし」
「逃がされた?」
「その魔物にだよ。一瞬で護衛の数人と馬車が何台も焼かれたんだ。たまたま先頭からのブレスだったから一番後ろに座ってたオレ達は助かったって訳」
「ブレス?それでもルドルは怪我をさせられたんでしょう?」
「あいつにとってあんなのお遊びだろうね。爪が姉ちゃんの方に向かってたからそれを防いでこうなったってだけ。それも兄ちゃんが治してくれたから助かったよ」
それよりも、とルドルは僕の方をジッと見る。
「どうしたの?」
「ルドル?」
僕とサーシャは僕の方を見て動かないルドルに首を傾げた。
ルドルは僕らの声に気づかない様で、暫くうんうんと唸っていたけれどようやく納得がいったのか顔を上げた。
「やっぱり変だよ」
「ルドル、マヒロお兄さまに何かあったの?」
「うん、これはおかしいと思う」
サーシャが心配そうに聞いてくるのに頷いて僕の方を向く。
「兄ちゃん、なんでそんな魔力持っといてゴブリンが倒せねえの?」
「え?」
その言葉が全く理解できずに聞き返す。
「だから、兄ちゃんのいた地球って世界だっけ?ゴブリンが倒せなくて困ってたって話だよな。でも、兄ちゃんの魔力でゴブリンを倒せないどころか傷がつけれないなんてそれこそあり得ないんだよ」
「どういう事?」
「簡単に言っちゃえば兄ちゃんの体内にある魔力量はレベル1にして見たらかなり破格。オレのレベル5の時と同じくらいはあると思うぜ。オレがレベル3の頃にはゴブリンは倒せていたからかなり余裕を持って倒せるレベルのはずなんだけどな」
「え……?」
僕の魔力が多い?
言われたことに僕は全く理解ができなかった。
僕がもしそんな魔力を持ってたならこれほど苦労することはなかったはずだ。
「ちょっと試しに見てみたいからさ、兄ちゃんの全力で身体に魔力を纏ってみてくれね?」
「分かったよ」
僕は少し緊張しながら、ルドル達の前で出せる限りの魔力を身に纏った。
その様子を見ていたルドルは、纏い終わった後も僕の奥をジッと見つめている。
「どうかな?」
「……今纏ってる魔力は全体の1割程度だな。勿論常に魔力を全力で纏ってたら魔力切れなんて最悪の事態になる可能性もあるから普通は6割程度を纏うだろ?それでも兄ちゃんの場合十分ゴブリンなら倒せるはず。地球のゴブリンが強過ぎるって訳じゃないよね?」
「それは分からないけど……じゃあ僕が今全力で纏ってる魔力は実は一部で、他にもまだ身体の中には魔力があるってこと?」
「そういう事になるな。もう少しその状態でいて。少し探って見てみるからさ」
僕の聞いた事に答えてくれると、再び黙ってしまう。
僕は魔力を纏ったまま視線をサーシャに向けた。
サーシャは黙ったままだったけど、僕に気づいて話しかけてくれる。
「安心してください、魔力についての調べ物ならルドルの魔眼で一発です」
「それなら良いんだけど」
「喜んでいただいて大丈夫だと思いますよ。少なくともルドルが嘘を言っているとは思えないので」
「そっか」
適当に雑談をしているとルドルはようやく「ふぅ」と額を拭いながら視線を僕から外した。
僕は少しドキドキしながら聞いてみる。
「どうだった?」
「オレの魔眼で見たところ、兄ちゃんの魔力は間違いなく多いと思う。ただ、魔力に鍵が掛かってた。兄ちゃんの魔力とは別物で、そいつが兄ちゃんの魔力の容器にフタをしてるって感じだな」
「……それはどうにかなるのかな?」
「少なくともオレには鍵をとくのは無理だな。その鍵になってる魔力の質はえらく高かったから、解くにしてもかなりの魔力の持ち主じゃないと無理だと思う。というか兄ちゃんどうしてこんな鍵かかってるんだ?」
それはこっちが聞きたい。
僕らは暫く無言で考えていたが、結局何も得るものはなく、そろそろ就寝時間だったので二人をベッドに連れて行き自分もベッドに倒れる。
この日、僕に一つの謎が増えた。
もうすぐ初戦闘です。
(あとがき短くてごめんなさい)
次回の更新は明日の十時です(^^)
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