プロローグ
初めまして!この度はこの作品にお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
この作品は基本一人称視点での進行を予定してます。
お楽しみいただければ幸いです。
キーンコーンカーンコーン
教室に授業の終了のチャイムが鳴り響く。
僕にとってはこれからのつまらない一時間の開始を知らせてくれる嬉しくない存在だ。
壇上に立っている教師は「次までに復習しておくように」といつもの台詞で授業を終わらせ部屋から出ていった。
教材を机の中にしまっていた僕に影が差す。
顔を上げるとそこには見知った顔。
彼は口が裂けそうなほどに大きく笑った。
「よお、落ちこぼれ君。次は楽しい楽しいレベルアップの時間だぞ。早く着替えたらどうだ?」
よくも飽きずに毎回毎回やってくるなぁ。
彼に向かって僕はため息を吐く。
それがやはり気に入らなかったんだろう、僕ごと机を思い切り蹴飛ばした。
がしゃん、と大きく教室に響きながら僕は机と一緒に床に転がる。
その姿を見て彼はやはり満足げに
「と言ってもてめえみてえな特異能力でレベルアップが出来る訳ねえよな! 全く、可哀想で涙が出るぜ。分家とは言え彗月の名が廃るってもんだ。なあ、万年レベル1の落ちこぼれ君」
クハハッと笑っていた。
周りにいる生徒も助けることなんてなく失笑している。
彼は「んじゃ、次もおとなしく見学しとけよ」と最後にツバを吐いて自分の席に戻って行った。
身体中に鈍い痛みを感じながら机を元の位置に立てる。
そして次の授業の為に着替えを始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それじゃ、今日もお前たちに経験値を貯めてもらうぞ。あー、葉月は今日も見学しておいてくれ」
はいはい、分かってますよ。
僕は言われる前から木陰の方に移動しておいた。
教師はもはや存在すら忘れたように他の生徒に向けて今日の実習を説明している。
どうやら今日は捕らえてあるゴブリンの殺害といういつも通りのもののようだ。
このかなり広い運動場でそれぞれが能力、そして魔法を使ってゴブリンの血を地面に垂れさせていた。
何で僕の特異能力は弱いんだろう。
僕はみんなが楽しそうに経験値を得ている様子を見てため息をついた。
世界が大きく変わったのは今から数百年前、僕がまだ生まれてくる遥か昔のこと。
世界に一つの文明が生まれた。
魔法時代
これが今の僕たちが生きている時代の呼称。
世界でステータスと言われる存在が明らかになる。
それに伴い、現れたのは悪魔や吸血鬼、そして逆に天使なんかと言った異種族にゴブリンやオーク、他にも様々な魔物。
世界が大混乱に陥ったのは当然と言えるんだろう。
ステータス、それは個人の能力を推し量る最も簡単な目安となった。
そこに書かれているのは、名前、性別、状態、レベル、そして特異能力。
たったこれだけ、しかしこれが世界の基準となったのだ。
もっと正確に言うなら特異能力。
この一つだけで人生が決まると言ってもいい。
世界の混乱時に活躍した、そして今もなお活躍しているのは特異能力と魔法だから。
魔法、魔力についてはまた今度話すとしよう。
能力っていうのは人それぞれに備わっているチカラのことだ。
さっきから病弱そうな女の子が宙を待っているのやありえないほどの速度でゴブリンを斬り伏せているのも全てが特異能力で出されるチカラによるもの。
そして、それこそが僕を今苦しめている最も大きな原因でもある。
僕、葉月 真尋の特異能力は【倍増】、そして【鑑定】だ。
【倍増】は自身の能力を全て倍にするというもの。
一見、結構悪くはない能力に思えるかもしれない。
しかし、それは元の力が強かった時の場合だ。
例えば僕が元の力を1とした場合10のゴブリンは倒せるのか、それは逆立ちしても不可能だ。
魔力を纏った相手には魔力を纏った攻撃をぶつけなければ傷つけることもできない。
この世界の真理であるこの原理のせいで、僕は地球上最弱の魔物と言われるゴブリンを満足に傷つけることも出来なかった。
万年レベルアップが出来ないとあいつに言われたのも、僕の魔力が低くてゴブリンを倒すことができなかったからだ。
僕のもう1つの特異能力、【鑑定】はその名の通り生物以外の物質を鑑定する事ができる。
しかしこれも世の中に出回っている鑑定用の魔道具さえあれば事足りるため必要とされていない。
一人一つの特異能力というのが原則だが、僕は通称ダブルと呼ばれる二つ所持者。
そんな珍しい存在でありながら所持している特異能力の両方が戦闘には使えない欠陥品。
それが僕だ。
ここで僕は最初の疑問に戻ってくるのだ。
何と僕の特異能力は使えないんだろう、と。
何度こんな自問自答を繰り返したのか分からない。
まあ、こんな生活も明日で暫くはお別れだ。
明日は僕が待ちに待った終業式。
そして明後日からはこんな楽しくない生活から離れられる、夏休みがスタートする。
宿題なんかもあるだろうがそれを入れても十分過ぎる休憩の期間だった。
あぁ、早く今日と明日が終わらないかな。
そう考えながらクラスのみんなを呆然と見ていると、教師に向かって一人の男性が走ってきた。
僕が殆ど他人の名前を覚えていない中で珍しく名前を覚えている数少ない一人。
僕のクラスの担任の滝谷先生だった。
この人は珍しく僕を一人の生徒として普通に接してくれるため、覚えていたのだ。
何だか嫌な予感がする……
今の授業の教師に一言二言話して僕の方にやってきた。
滝谷先生は走ってきたようで息を切らし手のひらで膝を支えている。
「どうしたんですか、滝谷先生」
僕はなかなか話し出さないことに疑問を感じながら滝谷先生にそう尋ねた。
滝谷先生はゆっくりと顔を上げながら
「……真尋くん。心を乱さないで聞いてほしい」
「先生?」
普段とは違う焦った表情が僕を困らせる。
そして更に数秒迷うそぶりを見せ、先生は僕に告げた。
「君のお父さんがお亡くなりになられたそうだ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
父さんの死を知らされてから三日が経った。
あの日、僕はすぐに父さんがいた病院に向かった。
看護師に連れられて転がるように病室に駆け込む。
そこで待っていたのは、いつもと変わらないやんわりとした笑顔だった。
多分僕はその後泣いたんだと思う。
その時の数時間の記憶が全くないんだ。
ただ、気がついたら数時間が経っていたから病院の人も気を利かせて一人にしてくれたんだと思う。
僕が落ち着いた頃、担当医の人が僕に死因を教えてきた。
父さんはここ数年身体が悪かったが、今日の昼頃、状態が急変したらしく、魔法社会の恩恵を受けた医学でも助ける事は出来なかったらしい。
申し訳ございませんでした、と僕に深く頭を下げてくる担当医の人を僕は冷めた目で見ていた。
そしてその後、息子に渡してくれと頼まれたと父さんの遺書と遺品が僕の手の上に乗せられた。
その日から二日、父さんの葬式も火葬も終わった。
当然終業式なんかにも出ていない。
元々出る価値もなかったから。
「……父さんはなんでこんな物をわざわざ遺品として渡したんだろう」
家の部屋にいる僕は人差し指に紐付きの鍵をぶら下げてそれをよく見る。
錆びて鍵の一部分は薄く緑色に変色している程、年季が入った今の時代珍しい銅型のもの。
隣に置いてある遺書を手にとってもう一度よく見る。
この二日だけで数十回は読んだ、最期の言葉。
『この鍵はお前の為になるはずだ。幼いお前を残したまま旅立つ俺を許してくれ』
たった二行。
震えた文字で最後はインクも霞んでいる。
それでも父さんが気力を振り絞って書いてくれた僕へのメッセージが心の抜けた僕を動かした。
鍵を片手に僕は階段を降りていく。
うちは町外れの小さい一軒家だが、僕が立ち入ったことのない場所が一箇所だけある。
父さんがたまに入っていた、地下室だ。
多分この鍵はそこにつながる扉のものだと思う。
以前一回父さんがいない時に地下への階段を降りた時に僕の行く手を阻んだ木造の扉。
その目の前に僕は今立っていた。
ドキドキと心臓が音を立てているのがわかる。
左手を扉に押しあてながら右手に掴んだ鍵を扉の取っ手についている鍵穴に差し込んだ。
がちゃ、と抵抗なく鍵は奥まで差し込まれた。
そぉっと慎重に鍵を右に回すと今度は大きく、がちゃりと音が響いた。
これで扉は開いた。
あとは僕が開くだけだ。
ドアノブを下におろし、前に押す。
ギィ、と木造扉特有の音が不気味に鳴りながら扉は開かれていく。
……なにこれ?
扉を開ききった僕の前にはまた今度は上に階段が続いていた。
上の方から光は見えているから多分外につながっているんだろうと思う。
どこか外に繋がる場所なんてあったかな
階段を上るにつれて眩い光が広がって来る。
薄暗い地下でその光は強く、僕は目を細めて腕で目を半分隠しながら地上まで登りきった。
「……え?」
声を出したことすら気付かずに、足は地上に降り立つ。
視界がひらけた僕の目の前にあるのは、僕の家ではありえない、青々とした木々だった。
プロローグでした。
こんな学校やだわ〜
次回の投稿は明日の10時を予定してます。
書きだめ無いまま投稿始めたから、大変ですが頑張ります!
モチベ向上のためにもブックマークや評価なんか下さい!
あ、あと投稿ペースや文字数なんか詳しくは活動報告を書かせてもらいますのでそちらも是非是非ご覧下さい。
コメントなんかもらえると血吐きます(嬉しくて)