それは、八月三十一日のこと
11/6、ユーヤの好きな子の名前を『理世ちゃん』から『ルル』に変えました。
「 暇だな。」
「いや、手伝ってよね。ユーヤのだよこれ。」
今日は八月三十一日。これだけで、わかるだろうか。一言で言うならこれである。
宿題終わんねー手伝ってー。
「いいだろ、お前の分は俺がやったんだぞ。」
「そうだけどね~。」
俺ことユーヤと弟のソーヤで、双子である。少しだけ俺の方が頭は良い。その代わり運動はからきしだ。まあ、二人とも飛び抜けているので、平均よりは、余裕で上なのだが。百人中20位以内にはいる。
毎年恒例の宿題を入れ換えてする。何でこうなったのかは謎だ。いつもはもう一人いたが、流石に高校生にもなって、忙しいのだろう。来ていない。三つ子ではない。
「よっしゃ! やっと、終わったよ。」
「遅かったな。」
「うるさいよ」
「あと、十八時間か……。」
今は正午だ。
「なにする? 」
「ねる。」
「は? ばっかじゃねえの? 」
毎日睡眠欲に負けるせいでぎりぎりの兄と違い、元気はつらつな弟だった。
「なあ、新発売のアリオしない? 」
「じゃあ、お前のクイージな。」
「緑の帽子の親父かよ。確かに弟だけどね。」
といいつつも、反対するつもりはないらしい。テレビをつけてゲーム機をセットする。
「スーパーアリオ4DR」
それがゲームの名だ。ドリームランナーの略称で、四人プレイ出来ることからこの名がついたらしい。
「なあ、何でワッパはさ、白昼堂々とグレープ姫をさらってくんだろうね。一人のところをさらえば楽なのにね。」
毎回恒例の姫がさらわれるシーンを見てソーヤが呟く。
「そりゃあ、それじゃあ探す範囲広すぎるんだろ。それにワッパ城に乗り込めない。」
「範囲広いって言っても、あいつら結局世界一周してんじゃない。」
「それは結果論だろ。それにワッパ城に乗り込めない。」
「そんなもんかな。」
「そんなもんだ。」
「あれ。今作はステージが三つしかないけど」
始まってすぐに、世界を見渡すシーンで、他の国、大陸がないどころか、グレープ城とワッパ城と謎の洞窟しかない。
「手抜きなのかな? 」
「そうじゃないぞ。ワッパ城にたくさんのステージがあるはずだ。」
驚かすつもりなのだろう。と言外に告げる。
「あれ、説明書には三ステージしかないって……。」
「手抜きだな。」
三秒でひっくり返した意見だった。
「……まあ。一つ目から、行きますか。」
その苦笑気味のソーヤの言葉と共にステージの中に入る。
一つ目はグレープ城だ。詳しくは説明しない。彼らの言葉で想像してくれれば良い。
「げっ。こいつら仲間じゃねえのかよ。毒キノコだぞこれ。」
「一からやり直しじゃん。めんどくさ。」
「一からじゃねえぞ。セーブポイントからだぞ。」
「よっしゃ。僕のターンだね。ってええ? 」
「「あ、グレープ姫がいるぞ。」」
「「偽物かよ!」」
「うりぼーが中から出てきた。」
「おい、うりぼーお前は僕を怒らせた。」
ユーヤは怒り心頭だ。そこら中にいる、うりぼーを踏み潰しまくっている。
「悪くないうりぼーだって。」
「皆殺し。」
「アイアイサー。」
それほどまでにユーヤは怒り狂っている。しかし、終わりは唐突だった。
「ああ、終わりか。」
「終わりだね。」
「次行くか。」
「そうだね。」
洞窟だ。
「かめたがいるぞ。」
「ホントだね。」
「よし、無限機アップだ。」
「はいはい。」
「くそ。失敗した。」
「なら、僕が。」
「俺と違って器用だな。」
「まあ、僕だからね。と、終わったよ。」
「じゃあ、クリアするか。」
唐突にソーヤがカウントダウンをする。
「5、4、3、2、0 タイムオーバー」
「一は? 」
「考えるな感じるんだ。」
「いや、ワケわからんぞ。」
「ああ、残機が一減ったな。」
「まあ、一番上とろうぜ。」
「そうだね。」
「もう一回だな。」
「うん。」
……中略
「よっしゃてっぺんだ! 」
「人の頭を踏んでのね。」
「いや、悪かったって。」
「良いよ。別に。」
(踏んだのお前の頭じゃないけどな。)
そう思うが口には出さないユーヤであった。
「おっしゃっ。次行くか。」
「それ、俺の台詞。」
「何事も諦めが肝心だよ。」
「お前が言うなよ。」
ワッパ城だ。こう聞いて何を連想しただろうか。人によりそれぞれあるだろうが、七割以上の人の予想の斜め上に行く改造が今行われた。
そう、そこには……
緑色の背丈十五センチに満たない草や、色とりどりの花や、ブドウが植えられていた。他にも幾つかの果物の木が植えられていたが、桃はなかった。ある人の名前だからだろうか。
閑話休題。
そう、ワッパ城はラスボスの城らしからぬ見た目だった。これを一瞬で行った職人に拍手を送りたい。今ごろきっと倒れているだろうから。
「なあ。グレープ姫が帰りたくないって。」
「良いんじゃないかな。」
シリーズ初のワッパの勝ちだ。しかし、アリオはそれを認めず、魔法使いのなんとかさんのせいにした。
「おい、アリオ、お前の方が悪人だぞ。」
「良いのかな? これ。」
「良いんじゃね? R15だし。」
「シリーズ初のR15だよね。きっと。」
「だな。まあ、ワッパには頑張ってほしいな。ワッパガンバ! 」
「負けちゃだめだよ! ワッパ。」
口ではそんなことを言いつつも的確な操作でワッパを倒す二人であった。
「終わったな。」
「終わったね。」
ワッパが倒されたことにより、物語は終わった。最後にアリオがグレープ姫のご機嫌とりをしていたのはなんだか笑いを誘う物であった。
「もう、十五時か。」
「早いね。」
「なら、ソーヤは好きな子はいるのか? 」
ソーヤが牛乳を吹いた。
「汚いな。おい。」
「そっちせいでしょ。」
何処からか現れた濡れ雑巾で、汚れた机をふく。気にしてはいけない。何をとは言わないが。
「いないよ。」
「そうか。」
「ユーヤはルルでしょ? 」
「ちげえよ。」
「嘘つき。ユーヤは嘘をつく時に、目を髪の毛で隠そうとするんだよ。」
「……。ちげぇよ。」
「まあ、何でも良いけどね。」
その後はお互いに顔を見たくなくて別行動だった。
俺はずっとボーッとしていた。ソーヤの言ったことも忘れていた。まあ、結構周知の事実だしな。今更否定したところで遅いしな。ソーヤは何処かに出掛けて行った。
ソーヤは日付が変わる前には寝るためにこの部屋に戻ってくるのだった。
「もう、あと、三十分だな……あれ?」
そして、それはあと、三十分で日付が変わる時間のことだ。ユーヤが急に不思議な物を見つけた、まるではとが豆鉄砲喰らったときのような顔をしていた。実際にはとが豆鉄砲を喰らったときの顔を見たことがないので本当かは知らないが。
「どしたの? 」
「なあ、これなんだっけ?」
「え? それは白紙の模造紙……あ。」
「なあ、模造紙って何に使うんだっけ。」
「自由研究じゃないかな。」
しかし、ここには白紙の模造紙があります。そこからわかることは?
かくして、八月三十一日の夜は明ける。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
本当は懲りずに他の作品に登場させるつもりでしたが、ここでの登場となったユーヤとソーヤ君の話です。
楽しんで頂けたなら幸いです。