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6.消えた魔法少女はすぐ横にいる

 最初に攻撃を仕掛けたのは亜央だった。

 開始のブザーが鳴った時の場所から一歩も動かず、ばかでかい杖の持ち手の先端付近を両手をくっつけて握ると、ぐるんと時計回りに大きく円を描いた。すると、杖の先端の太陽の飾りが動いた軌跡を直径とした光る球体が出現した。その大きさ直径約3メートル。時折、何かエネルギー的なものがパシッパシッと放出されている。

 その様子を凛はただ唖然と眺めていた。


「いくよ凛!」


 亜央が杖を振り下ろすと、その光る球体は凛めがけて猛スピードで飛んできた。

 ぼーっとしてた凛は亜央の声にはっと我に返ったが、迫ってくる光る球体は砂埃を上げながらぐんぐん迫ってくる。目の前まで来た光る球体はもう壁にしか見えない。これはもう回避不能。そう感じた凛は右手に持ったG3と腕でクロスして防御するしかなかった。

 直撃する、と思った瞬間、凛の身体を囲うように薄い緑の幕みたいなものが発生して、光る球体はそれに衝突して消滅した。


「びっくりした~。これ、シールド?自動で防御してくれるんだ。ん?ブレスレットに何か表示が………」


 輝くシルバーの表面に黒い文字が並んでいた。

『シールド残り30%』


「これでシールドの残りがわかるようになってるんだあ。残り30%か、へえ………。って、さっきの攻撃で7割も削られたの!?もう1発当たったらシールドなくなるじゃない!」


 念のためブレスレットを指でこすって綺麗にしてもう一度見てみたが表示は一緒だった。


「どう?私の攻撃。なかなか強力でしょ?私、魔法の細かい制御苦手なのよ。だからイロージョナーを退治するのにどうしたらいいか考えた。それでね、確実に当てるために大きい魔法弾にすることにしたの。これなら絶対外さないってくらいのね。魔法弾だから建物に当たっても問題ないし。魔法力の消費は大きいけど30分くらいの戦闘じゃ尽きたりしない。魔法力が尽きるのは期待しないことね」


 亜央には余裕が見られた。そうじゃなければわざわざこんな自分の手の内をさらすようなことは言わない。自分のほうが魔法少女の経験が長いという理由か、はたまた自分は凛の姉(という設定)だからお姉さんぶってるからなのかはわからないが。


「それはどうも丁寧な解説ありがとう」


 それとは対照に凛は焦っていた。不注意で1発もらった上に残りのシールドの量を口に出してしまった。これで亜央にはあと1回直撃させればシールドがなくなってしまうことがわかってしまった。

 亜央の言ったことが真実かどうかはわからないが、確かに魔法力が尽きるのを期待してもどうしようもない。魔法力の絶対量は凛のほうが少ない。20回程度の連続変身で魔法力が尽きてぶっ倒れたことから考えるにおそらくそうだろう。魔法力の量は年齢に反比例しているのかもしれない。凛の魔法弾は一点集中で魔法力消費をなるべく抑えているが、それでも1000回は撃てない。予備のマガジンに込めた魔法力と合わせても300回が限界か。持久戦になったら凛に不利である。


(亜央は細かい制御が苦手って言ってた。それなら追尾させたり分裂させたりはできないかもしれない。それなら!)


 凛は身体を少し前傾にするようにして一歩踏み出すと、ドンという衝撃音とともに走りだした。その速さ、およそ秒速100メートル。初速から最高速だった為、亜央や観客からは凛が消えたようにしか見えなかった。この闘技場の戦闘エリアの直径が約100メートルだから、端から端まで1秒あれば移動することができる。

 あの巨大な魔法弾を避けて攻撃するために凛は貴重な魔法力の一部を自分の身体に充填させ、速く動けるように自身を強化した。そもそも変身している時はしてない状態よりも速く動けるが、それではあの魔法弾は避けきれなくなると読んだ。守りに入れば負けてしまう。そう思った凛は攻撃に特化して短期決戦に望んだ。


「やっほー、お姉ちゃん」


 消えたと思った凛が亜央の左すぐ横に現れた。その手にはG3が腰溜めで構えられている。スコープは覗いてない。亜央は振り向く時間すら惜しんで魔法弾を作り、見もせずに凛のいる方向に撃ち出した。撃ち出した瞬間シールドが発動して、短く3回はじける音が聞こえた。凛の魔法弾があたったようだ。ブレスレットにちらっと一瞬目を落とすと、『シールド残り79%』と表示されていた。魔法弾を撃ち出した方向に凛の姿はなかった。


「この速さ、ちょっと厄介ね。私はこんなことできない」


 亜央の30メートルほど前に凛はいて、その銃口は隙なく亜央に向けられていた。トリガーには指が掛かっており、凛がほんの少し力を入れるだけで魔法弾が発射されるだろう。


「降参する?今降参したらもれなく私の匂いが染みついたラッコのぬいぐるみをあげちゃうぞ?」


 そのラッコのぬいぐるみは凛が小学生のときに行った水族館で買ってもらったもので中学校を卒業するまでは抱いて寝ていた。高校に上がってからはさすがに抱いて寝ることはなかったが、疲れた時や悲しいことがあった時なんかにギュッと抱きしめると不思議と落ちついた。20年近く経てばいろんなところが解れてもうボロボロになっている。それでも捨てるに捨てられず、クローゼットの奥にしまってある。それが今役に立とうとしている。亜央なら食いつくかもしれない。


「凛の匂いつきぬいぐるみ………。そ、そんなものに私が釣られるとでも思ってるの!?」

「今迷ったよね?」

「うっ」


 亜央の目が泳ぎまくって50メートルプールを何回も往復している。このままいけば世界新記録も出そうなくらいだ。その動揺を凛は見逃さなかった。


「チャンス!」


 先程と同じように地面を蹴り猛ダッシュで亜央との距離を一気に詰めて、今度はそこから飛び上がり上空から魔法弾の連射を見舞った。今度はバースト射撃ではなく、亜央が反応するまで撃ち続ける勢いだ。キキキキンッと亜央のシールドに当たり着実にシールドを削っていく。10発撃ち込んだところで亜央が魔法弾を凛に撃ってきたので、凛は再び距離をとった。


「どうしたのかな~?手も足も出ない感じ?ほれほれ、私はここだぞー」

(注)一乃宮凛は本作の主人公です。しかもいい大人です。


「凛にはお仕置きが必要みたいね………」


 挑発するような凛の言動に何かのスイッチが入ったらしい亜央は昏い表情で壁際まで後退した。その動きは緩慢で、しかも凛に背中を向けていて撃ってこいと言わんばかりだった。しかし凛は撃たなかった。自分が優位に立っていると確信していたからである。凛はこの時撃つべきだった。だがそれは後になって思ったことだ。

 亜央は壁を背にして凛を見据えた。


「死角をなるべく減らそうってことか。果たしてそれで私の動きについてこれる?」

「死角を減らしたいっていうのは当たり。でもね、別に凛の動きに付き合う必要はないのよ。なぜなら」


 亜央は足を肩幅に開き杖の中央付近を両手で握って持ち上げ、頭上でバトンのようにくるくると回し始めた。空気を切る音だけが闘技場戦闘エリアに響いている。そして一周回るごとに魔法弾が生まれ、亜央の周囲を埋め尽くしていった。その数30個。もう凛から亜央の姿は見えない。


「全方位を撃ち抜けばいいだけなんだから!!」

「な、なにーっ!?」


 確かにこれは超速移動でも躱せない。あれは速すぎて小刻みに動くことができないのだ。かといって普通の状態でもこんなのは絶対に躱せない。ならもう方法は一つ、あの魔法弾を壊すしかない。おそらく亜央もこれは最後の賭けだろう。魔法力の消費が尋常じゃないはずだ。これを凌ぎさえすれば勝利は目の前だ。

 凛は一番近い魔法弾に的を定めてありったけの魔法弾を撃ち込んだ。魔法力が尽きる前に予備マガジンに交換し魔法力をチャージしてまた撃ち続ける。それでもまだ魔法弾は壊れない。どれだけの魔法力密度をもっているのだろうか。亜央はそれをわかっていてまだ撃ってこないのかもしれない。これは鉄壁のシールドでもあるのだ。


「まずい、このままだとこっちが先に魔法力が尽きちゃう。はっ!まさかそれが作戦!?」


 でもそれがわかったところで凛は攻撃の手を止めることができない。止めたら撃たれてそれまでだ。魔法弾を壊せる可能性に賭けて撃ち続けるしかない。


「くぅ、お願い1個でもいい!破壊できれば!」


 願いが通じたのか、撃ち続けていた魔法弾がパンッと弾けて光の粒子になって霧散した。その向こうに亜央の姿が見えた。そしてその口がこう動いた。


「私の勝ちよ、凛」


 最後の「ん」と同時に亜央の魔法弾が一斉に発射された。前も左も右も上も亜央の後ろ以外全方位に向けて。こうなるともう球体という認識ではなくなる。光の奔流が押し寄せてくるようにしか見えない。

 凛はその中にあって一点を見ていた。先程破壊した球体の場所からスコープ越しに亜央の勝ち誇った顔を見据えた。もう躱せないもののことを考えてもしょうがない。呼吸を整える、心臓の鼓動すら抑える。G3で撃てるのはあと1回だけ。後はハンドガンしかない。凛はトリガーに掛けた指にほんのわずかの力を込めて魔法弾を撃ち出した。銃口から飛び出した魔法弾は光の軌跡を残してまっすぐ亜央に吸い込まれていく。

 光の奔流に飲み込まれた凛のシールドが砕け散った。ブレスレットを見なくてももうシールド残量が0%なのはわかる。亜央は――


「ダメ!足りない!」


 凛の魔法弾がシールドに当たって防がれていた。亜央のシールドはまだ顕在。凛のシールドはすでにない。もうかすっただけでも凛の負けだ。こうなれば亜央に撃たれる前に接近して魔法弾を撃ちこむしかない。凛は全力で走りだした。超速移動を使う魔力もない今、亜央までの距離が永遠に感じられる。自分はこんなに遅かっただろうかと歯ぎしりする。せめて確実に当てられる距離、10メートルまでは近づきたい。

 すると亜央は自分の目の前に魔法弾を1個作り出した。これでは離れて攻撃はできない。


(こうなったら超近距離で全弾叩き込むしかない!)


 今凛から亜央の姿が見えないように、亜央からも凛の姿がみえない。凛が左右もしくは上のどこから攻撃してくるかわからないはずだ。凛は亜央の右から攻撃することに決めた。いつあの魔法弾を撃ってくるかわからないのが恐ろしいが、亜央に姿を見られないようにできるだけ接近してから方向転換することにした。

 まだ撃ってこない。亜央までの距離はあと7メートル。ここから魔法弾を中心として亜央の右手に回り込み、亜央に向けてハンドガンを構えた。


「えっ!?いない!?」


 亜央の姿がそこになかった。凛は亜央に接近してる間も周囲に視線を配っていた。亜央が上も右も左も移動してないのは確認済み。後ろは壁で移動できない。つまり絶対ここにいるはずなのだ。それなのにいない。凛が亜央の姿を探して周りを見渡しているとハンドガンを持った腕をガッと掴まれた。


「つーかーまーえーたー」

「ひっ!」


 凛の腕を掴んだ手は亜央の魔法弾から伸びていた。そして続けて顔、脚、胴体と出てきて、亜央がそこにいた。


「何でそんなとこにっ!?魔法弾でしょそれ!?」


 思った以上に亜央の力が強くて手を振りほどけない。


「これはただの光の玉よ。触れてもダメージはないわ」


 亜央はそう言って腕を光の玉に入れて見せた。凛が魔法弾だと思っていたのは実は光を発するだけの玉だった。


「だ、騙された……」

「騙されたとは人聞きの悪い。戦術と言ってよ、せ・ん・じゅ・つ」


 実際、その戦術は大変効果があった。亜央が撃った全方位魔法弾で凛を倒すとはいかないまでもシールドの破壊はできると確信していた。凛の魔法力の残量はわからなかったがそれは凛もおなじこと、亜央の魔法力の残量がわからないから再び全方位魔法弾を撃たれることを恐れて、シールドを失った凛は接近して速攻で決着をつけるしかないはず。そこでフェイクの魔法弾を作り出せば破壊することを諦めて回り込んでくる。凛が近づいてくる間に光の玉の中に隠れれば亜央を見失うというわけだ。


「さて、近接攻撃でも決着がつくってことだったよね?お尻ペンペンにしようかな」

「や、やめれ……」


 29歳にもなってこんな大観衆の前(動物だけど)でお尻ペンペンは地獄だ。凛の今後の人生に重大な影響を及ぼす可能性がある。

 亜央は凛にお尻ペンペンをするべく左手で凛の両手首を握って抑え、左足で凛の足を踏んで動きを封じた。


「そんなこと……させてたまるか!近接攻撃ならこっちだって!」


 手を掴まれて足も自由に動かせない。そんな状態でどうするのか?


「ていっ!」


 凛渾身の頭突きだった。しかしそれは思った以上の効果があった。亜央のシールドがパキンという音とともに砕け散ったのだ。余程凛の頭が固かったとシールドが判断したようだ。これには亜央も驚いた。驚いて思わず手を離してしまった。


「痛ったあああっ!でもあと一撃!」


 痛む頭を押さえながら片手でハンドガンを構えて亜央に照準を定めた。この距離なら外さない、そう確信して凛は魔法弾を発射した。しかし、さっきまで狙いをつけていた亜央がふっと掻き消えた。その瞬間、凛が見ている景色の天地が逆さになった。


「へっ?」

「黒絵流柔術鳳仙花」


 背中に衝撃を受けてやっと自分は投げられたのだと凛は理解した。背中から落ちたのにあまり苦しくないのは亜央が加減してくれたからだ。


「そこまで!勝者、黒絵亜央!」


 司会進行のワンダーによる勝者宣言が行われると、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。そして一部からは賭けに外れた嘆きの叫びも聞こえてきた。


「私、負けたんだ………」


 茫然としたまま言葉を発する凛。

 これで身長を伸ばすという願いが叶わなくなった。一度は諦め、それからふとした偶然により手が届きそうになったのに、また諦めなければならなくなった。想像していた以上にこれは堪えた。

 仰向けに寝転がったまま見ていた闘技場の天井がグニャリと歪んだ。


「凛、大丈夫だった?」


 亜央が凛を気遣うように隣に屈んだ。

 凛は上半身だけ起こして亜央に顔を見られないように少し位置をずらした。


「いやー負けちゃったよ。絶対勝ったと思ったのにあんな隠し玉があったなんてね」

「叔父がやってる柔術の道場に通ってるの」


 亜央も凛のほうは見ないで受け答えをしている。


「それでか。私も何か格闘技を習おうかなあ、ダイエットにもなりそうだし」

「うん、いいかもね」

「………いい試合、だったよね」

「うん」


 負けてしまったが、凛の人生でこれほど熱くなったのはFPSゲーム以来だった。悔しいことは悔しいがそれ以上に爽快感で満たされていた。そして燃え尽きていた。


(身長を伸ばすのは諦めるか。魔法の契約書まで交わしたし。こうなるともう魔法少女をやる意味も無くなっちゃうな。亜央やカッピーには悪いけど。………………。ん、まてよ?契約書には「負けた場合、身長を伸ばすという願いを放棄する」としか書かれてなかったはず。ということは………皆の身長を私と同じにすればいいじゃない!そうすれば皆平等になる!これは悪いことじゃない、むしろ良いことよ!天啓とはまさにこういうことを言うのね!)


「く、くくっ、くははは!」

「凛?」


 突然笑い出した凛に亜央が訝しげな顔をした。


「あーごめんごめん、なんでもないよ。さ、皆に挨拶しよ!」


 そう言って凛は立ち上がり、亜央に手を差し伸べた。先程の落ち込んだ様子から急に明るくなった凛を不審に思いながらも、その手をとって一緒に観客の歓声に応えた。再び観客から拍手が巻き起こり、しばらくその余韻に浸った後、2人は控室に戻っていった。





 闘技場で2人が戦う様子を見ていた影が1つあった。観客が観戦席に入る階段のすぐ横、試合を楽しむならもっと別のいい席があるにもかかわらず隠れるようにそんなところに立っていた。他の観客のように熱狂するでもなく、観察するようにただ静かに2人の魔法少女の試合を注目していた。


「あの2人……」


 決着がつくとその言葉だけを残し、闘技場から姿を消した。

オーディオコメンタリー風なあとがき


凛「この作品唯一のバトルパートと言っても過言ではない第6話です!」

亜「唯一なの?魔法少女ものなのに?」

凛「読者も地の文が多いと読むのがめんどうなんじゃないかなーっていう作者の心遣い」

亜「書かなきゃいいのに」

凛「そこらへんは大人の事情ってやつよ」

亜「どんな事情なんだか」

凛「でも意外とスピード感あって良かったんじゃない?珍しく頑張った感が出てるし」

亜「それはこの作品を読んだ人が評価するべきであって、私たちが言うと身内贔屓になっちゃうよ?」

凛「作者とは身内でも何でもないんだけどなあ。ともあれ、バトルも無事終わって最後に謎の人物の影がチラっと見えたね」

亜「そうね。描写が一切ないから男か女かもわからない」

凛「その人物が今後どういう風に絡んでくるのかも楽しみの一つだね」

亜「案外忘れてそのままなんてことも」

凛「怖えー!伏線回収しないままとか怖えー!」

亜「それも含めて今後ともよろしくね」

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