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叶わない夢でも、ちょっと期待して……いや、ないか

一話は話の導入なので文字数多かったですが、今回は少ないです。

 ここ数百年、国同士の大きな戦争が起きていない世界『アルディア』。

 昔の物語に出てくるような魔王なんてものも存在せず、大きな脅威は存在しないいたって平和な世界だ。


 だが、脅威が全く存在しないわけではない。マモノと呼ばれるものの存在だ。


 マモノは動物とは異なる生物で世界各地に生息し、時に人々の家畜を襲い、生産物を壊し、人の命さえも奪う事がある。

 生態も種族によって千差万別で、共通する点は死後血晶石と呼ばれる、生前のマモノの力の残滓を残す石に変化することくらいしかない。

 各国でも兵隊がマモノを討伐しているが、長年戦争していないために規模は大きくなく、圧倒的に手が足りていない。


 その代わりに誕生したのが冒険者と呼ばれる存在だ。


 彼らの義務はただ一つ。マモノの討伐。たったこれだけである。

 一つといえば簡単に聞こえるが、マモノを相手にする以上危険が伴うし、命を落とすこともままある。また一定期間に定められた数のマモノを討伐できないと、怪我などの例外を除き冒険者の資格をはく奪されてしまう。決して楽な職業ではない。


 だが、リスクに見合った以上の権利が得られる。


 血晶石を冒険者ギルドで換金できることはもちろんのこと、世界各地に存在するダンジョンや遺跡に入る許可を得られ、お宝を探すことができる。冒険者用のクエストを受ければ血晶石とは別途に報酬を得られ、難易度が高ければ高いほど稼げる。

 もちろん、駆け出しの頃はろくに稼げない。才能があれば別だが、始めは報酬の低い弱いマモノしか倒せず、ダンジョンも低レベルのものしか入れない。


 だが、マモノの討伐を続けダンジョンを踏破し、数々の功績を上げれば富と名声は思いのままだ。成り上がることを夢見て冒険者になるものは数知れないほど存在している。


 俺もそんなガキのような夢を追い続けている、冒険者の一人だ。


 村を飛び出し、始めは一人でにっちもさっちも行かずに途方にくれていたが、リックに出会い、アミアやナーレ、ユミルが仲間に加わり、どうにか冒険者を続けられている。


 ぶっちゃけ俺はそれほど強くない。せいぜい仲間のために身体を張る事しかできない。リック達がいなけりゃ、今頃どうなっていたことか……。

 分をわきまえて一流の冒険者になりたいとは思わない。だが、命を賭ける以上、人並み以上の稼ぎを得て、可愛い嫁さんぐらいは欲しいなあとは思う。


 ……女の子との縁が全くなく、リックにだけ熱烈なアプローチを受けている現実からは目を逸らす。むしろ夢であってくれ。ハーレムなんて贅沢いわないから。ちょっと可愛い女の子といい雰囲気になるくらいでいいから。


「テンタリス、そんなに悶えてどうしたんだい?」


 苦悩する俺の気持ちも知らず、リックが心配そうに声を掛けてきた。心配している気持ちは本当なんだろうが、さりげなく俺をケツを一撫でするのはやめてください。


 その女顔の通り性別が女なら万事解決どころか、人生薔薇色だったんだが……。

 ああ、今でもある意味薔薇色だったな。ははっ、笑えねえ……。


「気にすることはない、リック。テンタリスのいつもの発作だ」


「誰が発作だ発作。わかっていってるだろう、お前」


「なんのことやら」


 そういって意味あり気にナーレがにやりと笑った。


「査定を待ってる間くらい、大人しくできないの?」


 アミアが俺だけを睨んできた。気持ちはわからんでもないが、俺はむしろ被害者だ。可愛い嫉妬で本気で俺を疎んじているわけじゃないだけ、まだましだが……。


 現在、俺たちは冒険者ギルドでフォレストウルフ及びフォレストクイーンの、討伐の報告に来ていた。血晶石は提出済みで、アミアのいうとおり査定待ちの最中だ。


「発作? 大丈夫、テンタリス? ユミル、テンタリスのこと看てくれない?」


「あ、あの、リックさん。申し訳ないのですが、テンタリスさんは病気ではなく、その、アレといいますか……私では力になれない類のものでして――」


 リックに手を握られながら迫られ、ユミルがしどろもどろに答えている。いい加減にしろよイケメン。その態度が数々の女性を泣かせてるんだっての。


 うちの三人娘が哀れに思えてくる。特にアミアやナーレは積極的にアピールもしているのだが、リックはあくまで仲間同士の友情としかとらえておらず、俺に絡んでばかりいる。


 いつか俺が仲間の女に刺されるぞと、口の悪い他の冒険者達がいってくるが、そんなことは絶対にしないとわかりきっているほど、根は良い子ばかりなのが逆に泣けてくる。

 あのナーレですら、俺のことをからかいはすれど、悪意を向けてきたことはない。いいかげんハーレムでもなんでもいいから、こいつら幸せにしてやれよ。


「あのさ、テンタリス。体調が悪いんだったら、今夜付きっきりで看病しようか?」


 あくまで仲間としての善意ですよといった感じでリックが提案してくる。


 でもな、リック。普通の仲間は肉食獣のような目で見てこないし、鼻息も荒くしない。


「いや、別に体調はすこぶる良い。だから看病いらない夜につきっきりとかノーサンキュー」


 貞操の危機に、早口で全力で断る。すると、リックがしょんぼりした顔で「そっか……」と残念そうに呟いた。


「あ、あのねリック。もしアンタが病気になった時は、アタシが看病してあげよっか?」


 おっ? アミアの奴、攻めてきたな。頑張れ。頑張ってリックを落として俺に心の安寧をもたらしてくれ。


「えっ? 悪いよそんなの」


「い、いいのいいの。アンタが好きだからやりたいだけだし」


 い、いった! ストレートにいった! これにはさしものリーダーも――。


「ありがとう。僕もアミアが好きだよ。それじゃあもしもの時はお願いしようかな。アミアが逆に病気になったら、僕が看病してあげるね」


「…………あ、ありがとう」


 ……駄目でした。あからさまに異性的な意味ではなく、友情的な意味の好きとしか捉えてない。気丈にも笑顔で礼をいっているが、目に涙が溜まっている。いたたまれねえ……。


「う、うああああああん!」


 我慢の限界が来たのか、アミアは泣きながら走り去ってしまった。


「えっ? アミア?」


「あーあ……やっちまったな、おい」


「ア、アミアさん! ど、どうしましょう?」


「はあ……。恋敵ではあるが、ああも何度も好意を口にして、袖にされているのを見ていたら哀れなものだな。仕方ない、私が追うから後は頼む。合流場所はいつもの食堂だ」


 そう言い残すと、ナーレはアミアを追って駆け出そうとする。


「あの、だったら私も――」


「いや、いい。ユミルは二人の監視を頼もう。テンタリスもその方が安心だろう?」


 俺を見てウインクをすると、今度こそ冒険者ギルドから出て行った。

 ナーレがいうと含みがあるように思えるが、うん。厚意はありがたく受け取らせて頂きます。


「アミア、どうしたんだろう……」


「ちょっとぐらい気付いてやれよ、この色男」


 軽くリックの肩をこつく。だが、リックは訳もわからず首を傾げるだけだ。腹が立ったので今度は少しだけ強めに背中を叩いた。


「きょ、今日はなんだか積極的だね、テンタリス」


 何を勘違いしたのか、顔を赤らめ妙なことをいってきやがった。

 パッと見美少女に見えなくもないので、そんな反応されると少しドキッと……しねえよ! しねえからな! 俺はいたってノーマルだ!


「リックさん、本気で何が悪かったのか、わかってらっしゃらないのですか?」


 普段は温和なユミルも、さすがに声に険を混ぜながらリックを咎める。


「えっと、その……ごめん。僕には何がなんだかわからないや」


 本気で理由がわからないリックは、申し訳なさそうな顔で謝ることしかできなかった。

 そうだよな。鈍感男が咎めらたくらいでわかるんわけねえよな……。


「……テンタリスさん」


「おう、どうした」


「ちょっと説教してきますので、ここはお任せしてよろしいでしょうか」


「任された。むしろ時間を気にせずガツンと頼む」


「え? なに、説教って。僕何か悪い事したの?」


「貴方は悪い事はしていません。ですが、無知は時に罪になります」


「悪い事してないんだったら、説教の必要って……いたたたた! ユミル、痛いよ!」


 ユミルにがしりと手を掴まれたリックが、俺に助けを求めるように、瞳を潤ませ見つめてくる。そんなリックを俺は――。


「いってこい」


 満面の笑顔で見送った。


「えええっ! ここは颯爽といつもみたいに助けてくれるんじゃ……!」


「マモノ相手だったらいつでも助けてやる。けど、今回は話は別だ」


「さあ。テンタリスさんもああいっていますし、参りましょう、リックさん」


 エルフの細腕とは思えない腕力で、リックが引きずられていく。まだ何か俺に助けを求めているが、聞く耳を持たずにぞんざいに手を振って見送った。


「あれで少しは女に興味を持てばいいけどな……」


 叶わない夢だとはわかっていても、期待せずにはいられなかった。


……この小説、需要あるのだろうか。

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