プロローグ
その日、目が覚めて最初に感じたのは、全身を巡る激しい痛みだった。
「グガガガアァガ、ウググゥグウ」
なんだこの痛みは、全身が痺れと痛みで身動きもとれない、ただこの痛みは
身に覚えがある、腕の血管が圧迫されたまま寝て起きた時、血の巡ってない腕に
血液がなだれこんだ時の痛みだ、その痛みが全身を巡ってるから洒落にならない
苦痛を感じる、このままじゃ死ぬ!!死にそうな痛みだ。
「ウググゥガァァァイダダァウ、し、死ぬぅぅぅぐぐぐぅ」
「死ぬ?それは真逆じゃのう、お前さんは生き返っとる最中じゃ」
老人の声が聞こえる、なんだ何て言った?光がまぶしい太陽?なんで野外にいる、
昨日の夜はネットで動画見て、小説読んで普通にベットで寝たはずだ、
野外に出た記憶はない、そもそも俺は十年以上、家の外にすら出たことがない、
真性の引きこもりだぞ?それが何故、野外で全身の苦痛に苦しんでいるんだ?
まったく状況が理解できない。
「ウググぐるじぃい、いったいなにがどぅうなってるぅぅぅ」
「苦しそうじゃのう、しょうがない痛み止めじゃ飲むが良い」
老人が丸薬を取り出して、無理やり口のなかに入れてくる。
「痛み止めは冒険者の必需品じゃて、即効性のある高級品じゃよ」
苦味の走る丸薬をなんとか飲み下すと、確かに痛みが引いていく、
即効性がありすぎて、少し気持ち悪いくらいだ。
冷静になっても状況が理解できないな、ここはどこでどうしてこんな野外に
倒れていたんだ、それに痛みが引いても全身に違和感があるな、
まるで手足の長さが変わって、筋肉の付き方も変わったような服装もおかしい
普通のパジャマ姿だったはずが、まるで中世の旅人のような、
格好に変わってしまっている。
「混乱しとるようじゃのう、どこまで覚えておるのかお前さんは
サキュバスに、魂と経験値を吸い殺されたんじゃよ」
サキュバス!? 今度は頭痛が!!これはこの体の持ち主の記憶か?そうだ俺の名前は
アズベルド・ラカリュス16歳の狩人だ、だが日本人としての記憶も間違いなくある
どちらの記憶も自分自身の記憶だと感じる、二つの人格が混ざりあってしまったか
それとも元々近しい人格だったのか、記憶が二つあることに違和感を感じない。
「いったいなにがどうなってこの状況に?俺はどうしてしまったんだ?」
「お前さんは港町リゼレーンに向かう、乗り合い馬車に乗っておったんじゃが
そこを三体のサキュバスに襲われてのう、一番顔がよくて若いお前さんが生け贄に
置き去りにされてしもうたんじゃ、馬車に乗り合わせた者共も罪悪感があってのう
一流プリーストのワシを蘇生のために送り出した訳じゃ」
「俺は死ぬのが前提の生け贄にされた訳ですか、確かに覚えてます」
そうだ俺は三体のサキュバスに襲われて、強烈な快楽の中とっかえひっかえ
弄ばれて、意識を失ったんだ、気絶しても快感で起こされてを、
何度も繰り返す快楽地獄の中で、思考と自我が消耗していく感じを覚えてる
助けも無く、あのまま死んでしまったのか。
「サキュバス共もお前さんのことを気に入ったらしくてのう、立派な墓に埋められ
ておったわい、おかげで鮮度の良いうちに蘇生が間に合って不幸中の幸いじゃよ」
「俺が死んで蘇生したのはわかりました、ただ記憶が二つあって混乱してるのは、
どうしてでしょう、元の自分とは違う記憶が自分の記憶として存在するんです」
「ふむ、お前さんは魂まで吸い殺されて、魂が欠損しておったのじゃ
普通の蘇生では魂までは癒せん、そこで適合する別人の魂を呼び寄せ、
魂の欠損を補ったのじゃ、これはワシも覚えたばかりの秘技で、
召魂蘇生というお前さんが初めての成功例じゃ」
これは異世界召喚いや、異世界憑依ってことか、小説でよく読む状況に
自分がなるとはだが困るぞ、インターネット無しの生活なんて、考えられんし
日本人の俺は死んでない死んだ覚えがない、ゲームも小説も楽しみにしてた、
日本の娯楽が幾らでも残ってる
「それなら呼び寄せられた別人の体はどうなるんですか?元の体に戻りたいのだが」
「魂を召喚された側は死ぬ事になるのう、じゃが心配はない身動きのとれん瀕死の
人間の魂が召喚されとる筈じゃ瀕死の体から若く健康な体に移れて良かった筈じゃ」
「いや健康だったし、勝手に呼び出されては困るんだが?元の体に戻して欲しい」
「召喚条件は長い間、寝たきり生活を送っていた者で期間が長いほど選ばれやすい
一年や二年寝たきりでは、選ばれん長い期間動かずに生活してた者が召喚されるぞ
一度召喚されたら元に戻すことはできんのう、元の生活は諦めて生きるのじゃ」
ヤバいそれだと条件を満たしてる、ずっとベットの上で生活してたしフロとトイレ
ぐらいしか移動してない、日本じゃ死んだのかもっと移動するべきだった後悔だ
中世だし現代知識チートしてみたいけどインターネットなしじゃろくな知識がない
もっと学んでおくべきだった、パソコンに頼りすぎていた後悔してる後悔だ。