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03 幸せの間

「ロイ、お帰りなさい」

美大生であるロイは、昼間は大学へ行っていた。

マリアはその間、買い物をしたり洗濯をしたりする。

それは彼女の様で、今までそんな事はしたことが無かった。

それは人形へ戻るまでの間、ドマの命が尽きるまでのつかの間だとわかっているから。

そして、それはロイにとってもマリアにとっても幸せだった。

近所のマリアが人形だと知らない人々もマリアを人間として接するのも大きい。

「マリアちゃん、いらっしゃい。果物はいかが?」

「おぉ、マリアちゃん。安くするから何か買わないかい?」

周りの認識は、ロイの彼女だった。

ロイとマリアが幸せそうに町を歩くのもその影響だっただろう。

薄霧の立ち込める早朝、マリアは目が覚めた。

マリアはドマがどうなったのか気になり、商店街入り口まで行った。

だが、恐くて商店街に入りはしなかった。

マリアはその後、橋の上に立っていた。

そこは思い出の橋でもある。

こんな霧の日に来る事は無かったが、風そよぐ日などにはドマが外に出る事を許可してくれたのだ。

マリアは大切にされていた。

ただ、やはり人形だという事で気を遣っていたのだ。

「マリア!」

散々走り回ったのだろう。

ロイは息を切らしていた。

「居なくなったから心配したよ」

「ロイ…」

「マリア?」

「何でもない。ロイ、帰りましょう」

マリアは微笑むと言った。

霧で見えにくかったが、それは無理している様にも見えた。

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