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幼なじみが深刻な病を発症しました

作者: 月之天使

※この作品は、筆者が高校に入り文芸部に入部して、初めて書いた作品です。文芸部の部誌に掲載済み。いわゆる処女作。ぶっちゃけ、文章の構成はめちゃくちゃ、ストーリー展開もごちゃごちゃ、まだ書いてから数ヶ月しか経ってないんですけど今見ると結構ひどい出来です。どうか温かい目で読んでくださると助かります♪

 彼が約一年半前、高校一年の入学式に教室に入ってくるのを見た時、僕は心臓が止まるかというほど驚いた。彼は深刻な病にかかっていたのである。それは、彼の見た目や着衣からも明らかであったし、僕の隣の席に座って話しかけてきたその口調から、症状が相当進行していることを感じさせた。中学の時にはたしかに普通だったはずだし、変調を感じさせるような言動もなかった。

 たった数週間のうちに何が起こったのだろうか、何が彼をあそこまで変えてしまったのだろうかと僕はとても思い悩んだ。しかし、明確な答えは出ず、彼に聞いても有耶無耶にされるだけであった。

それ以来彼は、周囲の冷たい目線にも素知らぬふりを続け、約一年半たった今も、彼の様子は変わる様子を見せない。

 そう、彼を狂わせた深刻な病とは・・・

 中二病

である。



ここで簡単に彼と僕の関係を説明しておきたいと思う。

中二病の彼は、美濃部直哉くんといい、僕の幼稚園時代からの幼なじみである。僕とはとても仲が良く、高校に入ってからもよく一緒に遊ぶことがある。ちなみに、結構イケメンであり、頭もいい。

僕は青木宏。イケメンとは程遠い立ち位置にいる、平凡な男子高校生である。



 10月に入ると朝の登校の時にはだいぶ涼しくなり、夏のように汗をかかなくて済むので爽快である。そんな爽快な気分の中、学校について朝の準備をしていると…

 後ろから忍び寄る黒い影。香水の香り、風になびく黒いマント。彼の登場だ。

「やあ、宏くん。今宵の月も美しい、いい夜だね。」

「おはよう、直哉。それと、とりあえず突っ込んどくけど今は夜じゃないし月も出てないよ。」

 これが、いつもどおりの彼の挨拶だ。一年半前から、ずっとこの調子なのだ。

 そして、彼の病は、当然ながら言葉遣いだけにはとどまらない。驚くべきは、彼の服装である。

 黒のマント、今は見えないものの着替えなどの時には必ずと言っていいほど着用しているのが見える腕の包帯、そして右目の眼帯、などなど。なかなか痛い。


「そうだ、直哉。ちょっといいか?」

 休み時間、トイレにいく直哉に声をかける。

「なんだ?宏、我が従者よ。」

「俺はいつからお前の従者になったんだよ…」

「暗黒の勢力が力を増し始めている。もしも直接戦闘になれば、我が腕の力があれど傷を負うことは免れられぬかもしれぬ。そんなとき、我が従者のちからが必要だ。」

「ああ、わかった、わかった。そんなことより、聞いてくれ、直哉。お前の病気を治す方法がわかったんだ!」

「病?我は病などにかかっておらん。は、もしや、貴様、我が身を付け狙う闇の組織のスパイか?」

「本当なんだよ、直哉。中二病の治療に詳しい精神科の先生がいるんだ。僕の親戚なんだよ。」

「わが親友、宏よ… 君には失望したよ。こんなにも仲が良かった君が、まさか闇の組織のスパイだったなんて…。くそ、闇の組織め… 予想以上に、我が身を付け狙う不埒な輩は多いのだな。」

「ちょっと、自分で作った設定を本気にしないで!君のためを思って言ってるんだ。モテたいんだろう、直哉。」

 直哉の眼の色が変わる。普段学校ではいつもこの様子だが、たまに二人で遊んだりするときには本音を出すときもあったりする。そんなとき、直哉はいつも言っていた。女の子にモテたい、と。しかし、高校生になってからずっとあのキャラなのだ。当然、女の子が寄り付くはずがない。というか、男でさえ寄り付かない。気の毒なのだが、当の本人はキャラを変える気がない、というか変えられないんだそうな。実際、直哉が人前でこのキャラ設定を崩したことは、僕の記憶にあるかぎり一度もない。

「ま、待て。その先生は本当に、我が身を絶え間ない闇の組織との抗争から救い出してくれるのか?」

「実績はあるみたい。いままでに、数多くの中二病患者をカウンセリングによって普通にしたみたいだよ。その人達の多くが、その後の学校生活を普通にエンジョイしているらしいよ。」

「そうか…  しかし、我一人だけでは我の行く末を決められぬ… もう一人の人格にも許諾を取らねばならぬ。しばし待て、我が友人よ。」

「分かった、いくらでも待つよ。」

 まったく、面倒くさい設定である。



 二日後。放課後、学校からの帰り道のことである。今日は、僕も直哉も補習があって、だいぶ時間が遅くなってしまい、もう日が暮れて暗くなってしまっていた。

「我が従者、宏よ。本当に、その精神科の先生は闇の組織のスパイではないのだな?」

「もちろん。ごく普通の人だよ。」

「そうか…  では、その先生の治療を受けたい。我の別人格も、了承してくれた。」

 お、直哉、やる気になったみたいだ。

「そうか。じゃあ、次の日曜日にでもどうかな?その先生、ちょうど休みで、うちに遊びに来るんだ。」

「それは良いな。よろしく、お願いする。」

「了解。」

 しばらく無言のまま、肩を並べて歩く。そうしていると、ふと少女の叫び声のようなものが聞こえてきた。

「なんだ、今の…  ちょっとまずそうじゃないか?」

「そうだな。闇の組織のエージェントが民間人を襲っているのかもしれぬ。」

 まあ、あながち間違いではないかもしれない。最近は痴漢とかも多いらしいし。

 とにかく、声のした方に走って行く。しかし、そこで見たものは、僕の想像をはるかに超えたものだった。

「おい、あれ… 直哉の同類じゃないのか?」

 そこに居たのは、目に眼帯をして、手に折り畳み傘のようなものを持った黒髪の少女だった。

 少女はこちらが見ていることに気づいていないらしく、片膝をついた姿勢からさっ、と立ち上がると、大声で「爆ぜろリアル、弾けろシナプス、vanishment this world!」

 改めて見ると、ものすごく痛い。そして、ここでこのネタを使って大丈夫なのか?

「おい、直哉… あれは…。」

「ああ。同志だろうな。」

 その時、話し声が聞こえたのかもしれない、少女がこちらに気づいたようだ。その少女は、声をかけるまもなく、素早く姿を消してしまった。

「直哉、あの立派な黒髪… なんか見覚えないか?」

 少女が姿を消した後、少し経ってから僕が口を開く。

「ああ、見覚えがある。だけど、思い出せないな。誰なんだろう?」

 結局、家に帰るまであの少女が誰なのかという話をしていたが、思い出すことはできなかった。


 日曜日、朝十時。朝食を食べ終わってテレビを見ていると、インターホンのなる音がする。ドアを開けると、見慣れた黒いマントがはためいていた。

「おはよう、直哉。昼ごろでいいって言ったのに。ずいぶん早いな。」

「昨晩は腕がうずいて、眠れなかった。奴らが近づいてきている証拠だ。闇の組織の危機は刻一刻と迫っている。」

「そうかそうか。」

 要は緊張して眠れなかったということなのか。

「しかし、我は今日で闇の世界との縁を切るかもしれぬのだ。そこでだ、我が親友にして従者である宏くん、君に頼まなければいけないことがある。」

「ちょっと待って。僕は一般世界の住人だ。引退するからといって、人を巻き込まないでくれ。」

「わが従者である宏くん、世界を救えるのは君しかいないんだよ。いいか、我が従者よ。闇の組織は我々には見えぬところから、常に我々に危害を加えようとしているのだ。そこでだ、君にはなんとしても闇の組織に対抗する力を身につけてもらわねばならぬ。」

 まったく、すごい想像力である。

「そうかそうか、それで僕は一体何をすればいいんだ?」

「まず、このお菓子、中二病メザメールを食べてもらおう。」

「なんだ、その安いネーミングセンスは。そんなんで誰も目覚めないよ。」

 ちなみに、この中二病メザメールというお菓子、実在している。興味がある人は、是非食べてみるべし。きっと第三の眼が目覚めるはずである。

「そうしたら、君の真の能力が発現するだろうから、我の剣をやろう。闇の組織と対峙するときに、きっと心強い味方となるはずだ。」

「いらないよ、そんなもん。もう使わないならオークションで売ってしまえばいいのに。結構高値で売れるんじゃないかな。」

「あとは、聖典も必要だな。迫り来る闇の組織の脅威に対処するためには、聖典に乗っている魔術の力を借りる必要がある。君も、見事能力が発現すれば、立派に魔術を使いこなせるようになるだろう。あと、聖典には異次元の扉を開いて精霊の力を借りる方法も載っている。闇の組織が送り込んだ強敵に対処するためには、精霊の力を借りることが不可欠だ。これができるようになれば、君も立派に世界を救えるよ。」

「ああ、そうかい。」

 この想像力、本当にどこか他のことに活かしてくれ。


 昼ごろ、今日の主役である精神科の先生がやってきた。

「やあ、こんにちは、宏くん。そして…  そちらが直哉くんかな。話は聞いているよ。相当深刻だそうだね。」

「こんにちは、増井先生。今日は、直哉をよろしくお願いします。」

 増井先生は、僕の親戚である。近くの大きな病院で、精神科医として働いている。少しお腹の出た、中年の優しそうな人である。今日は休日だったはずだが、トレードマークの白衣は脱いでないようだ。

「こんにちは。我が名は美濃部直哉、闇の世界の住人だ。よろしくお願いする。」

 直人は相変わらずこの調子である。これには増井先生もさすがに苦笑いであった。

「増井先生、とりあえずお茶を入れますので、座って楽にしていてください。直哉も、おとなしく待っててね。」

 とりあえず、お茶をいれるため台所に向かう。直哉と増井先生が話している声が聞こえていたが、突如、直哉の叫び声がする。「俺に近づくな!く、くそ、こんなときにまで…また暴れだしやがった。」どうせ腕でも押さえているんだろう。増井先生も、折角の休日にこんな奴のカウンセリングをするだなんて、本当に気の毒である。


「では、早速カウンセリングを始めたいと思うのだが…最初にはっきりさせて置かなければいけないことがある。」

「はい。なんでしょうか?」

 真面目モードになった直哉が聞き返す。

「君の中二病、僕が治せるっていう評判になっているらしいけど、僕は中二病を治すことはできない。治るとしたら、君が勝手に一人で治すだけだ。」

「え…?先生、そうだったんですか?」

 思わず、増井先生に聞いてしまった。てっきりカウンセリングか何かをすれば、簡単に治るものだと思っていたのに。

「世の中そんなに甘くはないぞ。特に、心の病においては、こちらは治す手助けをすることしかできん。いくらこちらが手助けをしても、本人に治す意思がなければどうにもならん。」

 部屋にしばらく沈黙が流れる。

 そして、その沈黙を、直哉が破る。

「分かりました。こうなった以上、精一杯努力します。」

「本当に大丈夫か?中二病を治すということは、君が今まで作ってきた世界観を壊すことになる。自分一人ではその世界を壊すことが難しくても、僕がその手伝いをすることはできる。だが、君は本当にそれでいいのか?後で後悔しないか?」

 直哉は、数瞬、顔を俯け、迷う素振りを見せたが、やがて顔を上げると、まっすぐに増田先生を見て、頷いた。

「そうか。では、宏くんは部屋の外に出ていてくれるかな?一時間もあれば終わると思う。」



 それから、部屋の中で何があったのか僕は知らない。ただ、月曜日に学校にやってきた直哉を見て、彼の中二病が治ったことを確信した。

 それから、彼は少しずつクラスに溶け込み、みんなと仲良くやってるようだった。


 それから一ヶ月ほど経ったある休日の昼ごろことである。

「どうしたんだ、直哉。その格好…  もうやめたんじゃなかったのか?」

 街で買い物をしていると、ばったりと直哉に会ってしまった。しかも、以前の中二病時代の服装をしている。

「いや、ちょっとね…」

 言葉を濁す直哉。そこに、突然後ろから女の子の声がする。

「やあ、待たせたな、直哉くん。そして… 君は直哉くんの友達かな?」

 そこに居たのは、わが校の生徒会長、唯月楓先輩だった。学年トップの成績を誇り、男子からの人気1位、2位を争う美貌の持ち主、ハキハキとした口調ときれいな黒髪が特徴の、わが校のアイドルと言っても差し支えない美少女である。

 僕は学校の外で生徒会長に会ったことに驚いたが、生徒会長を見た時、それ以上に驚愕した。中二病女子を見るんのは初めてだったが、一見して明らかにそれとわかる格好であった。嗚呼、中二病は、こんなにも人の印象を変えてしまうものなのか。

「あ、宏、えーっと、この人は、唯月楓先輩、僕の彼女だよ。」

「What’s?」

 耳の調子が悪いんだろうか。信じられないような単語を聞いた気がしたんだが…

「だから、なんて言えばいいんだろう、生徒会長と僕は付き合い始めたんだよ!」

「ああ、神様… 僕は夢を見ているのでしょうか…?」

 そんなバカな。生徒会長と直哉が付き合い始めたなんて… 

「本当だ。私が邪王真眼の名にかけて保証する。」

「生徒会長…?」

「同じ道を志す者として、不遇な扱いを受けている直哉くんを捨て置けなかったのでな。契りを交わしたよ。」

 なんとなく流れがわかってきた。要は、趣味の合う者同士くっついたというわけだ。

 その時、一ヶ月ほど前の補習の夜に出会った中二病少女が唐突を唐突に思い出した。あの格好と言動、印象的な黒髪。すべて一致する。

「直哉、あの補習の日に見た人って、生徒会長だったのか?」

「うん、そうだよ。中二病卒業した後に、また会って、その時に仲良くなったんだ。」

「ふぅん… まあ、とりあえず彼女ができておめでとう。ところで、生徒会長、なんとなく予想できますけど、その格好は一体どういうことなんでしょうか?」

「まあ、所謂中二病ではあるが、あくまでも趣味の範囲だ。学校までは引きずらないしな。でも、同じ学校に同じ趣味の人が居てよかったよ。前の中学でもわかってくれる人が居なくてな…苦労したものだ。」

「僕も理解して貰える人が居なくて辛かったですよ。ここで出会えたのはきっと運命。僕と先輩は運命の赤い糸で結ばれているんですよ!」

 直哉がしれっと言い放つ。

 はぁ、これだからリア充は。

「でも、良かったな、直哉。彼女できて。全く羨ましい。」

「ありがとう。お前もがんばれよ。」

 優しい言葉をかけられる。ただ、今の直哉の状況を考えれば皮肉がこもっているのかもしれない。

「じゃあ、またね。」

 手を振り、直哉たちと別れる。次第に遠ざかっていく直哉と生徒会長を目で追う。

 結局、直哉は、中二病も一般生活に支障がない程度には治ったわけだし、彼女もできたことだし、きっとこれってハッピーエンドなんだよね、と心のなかでつぶやく。

 何はともあれ直哉が幸せになれてよかったと思う。

 脱中二病おめでとう、直哉。

 そして、いつまでもお幸せに・・・


 END



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