十一話
まもる 達が出るまでもなく、その後すぐに場は収まった。
ブラウスが――めんご、めんごとすこぶる適当な感じで謝り、ジェラートの体をぐいっと寄せて耳元で二言三言ささやいた。そして自分より背の高いジェラートの頭をやさしくなでる。
するとジェラートの機嫌は、不満は残るものの半分くらいは回復したらしい。泣き止んで怒りも収めたようだ。なんというかチョロいな。きっとこの二人の間柄では日常茶飯事のやり取りなのだろう。
目の赤いジェラートは小言を言いながらブラウスの手を引っ張りさっきまで座っていたテーブルに導く。
「もうっ! 次やったら本当の本当に許さんからな。隣に座れ! おまえには監視が必要だ!」
今度は素直に引っ張られヘラヘラ笑いながら着席するブラウス。申し訳無さそうな感じはまったくない。
「いやあ、あはは、ゴメンよ。今度は頑張るって。信じて~」
周りの人間からすれば信用度0以下だが、なんとか酒場の喧騒収まったようだ。ウィーワント親父の開いた口も塞がった。
テーブルを囲んだ四人は今日何度目かの自己紹介を行った。まもる ととしあき の紹介を受けたブラウスの感想は――いいんじゃない?弱そうだけどいい人そう、というものだった。
前半は辛辣なコメントではあるが、放言ふりまいてもなんとなく憎めない。お得な人徳の持ち主のようだ。
ただこれから赴く場所は命がかかっている。としあき が一言苦言を呈した。
「おちゃらけも外でならいいが、迷宮ではやめてくれよ。こっちも死にたくないんでね」
「ふふん。そんなこと言っていいのかな? ざっと見た感じこの中で一番強くて旨いのは私だと思うけどね。そんなことよりもさぁ、二人共どうよ。かわいいっしょ?」
と、言ってブラウスは席を立ち曲線美を強調するセクスィーポーズをとり、さきほど正式に彼女の装備品となった薔薇の脚絆を見せつけた。
ブラウスは美しく良いプロポーションの持ち主だ。派手な薔薇の脚絆がよくはえている。ただ少々、いやかなり筋肉がつきすぎていた。ふくらはぎパンパンで固そう。体に密着する脚絆を付けているせいもあって持ち前のゴツさが存分に強調されていた。この凶器を鞭のようにふるえば、道具なしでスイカ割りができそうである。
二人は、――そうですね、と棒読みで心にもない事を言って受け流す。まもる がコホンと咳払いして話題をリセットした。
「さっきの口上で言っていた聖女云々。あれは本当のことなのかい?」
ブラウスは我が意を得たりと目を輝かせる。その隣でジェラートが嫌そうにため息をついた。
「ふふん。聞きたいのね。そうそんなに! いてもたってもいれらないほど聞きたいと! いいでしょう。教えてあげましょう。神と私の物語をね!」
「二人共真に受けないでねこの子の話し。こいつに客観性などというものは存在しない。ってこらやめ、グエーッ!」
笑顔でジェラートの腕をひねり関節技を決めながら偉大なるブラウスの聖蹟語りが始まった。ジェラートの悲鳴を開幕の鐘として。
やたら装飾過多な語りなので要約するとこういう話である。後ろから入る客観的な視点はジェラートのツッコミによる。
ある朝、善神ゼガーリアから神の啓示を受けた、と主張。世界の危機を救う勇者を探し導けと大天使が窓から入ってきて言ったらしい。
上層部に奇跡として申告したが日頃の行いのせい(乱暴狼藉と借金)で認定して貰えず、奇跡を詐称したとして処刑されそうになる。なんとか地位のあるブラウスの義兄の取り成しで免れたものの、脳みそが弱くなった狂女として僧籍を剥奪、追放される。
勇者探しに出発しようとはするが行くあても先だつ路銀もなく酒場で飲んだくれ途方にグダっていると、姉弟子たるジェラートが大司教イッシドルスの密命を果たすため旅装を整えているのを目ざとく発見。
これぞ神の導きと解釈して強引にくっついてきた。お告げでは、困難の地に勇者が出現するらしいのでアリガミンで勇者を探すというのは一応理にかなってはいる。
ちなみに勇者は赤髪の大剣使いらしい、それっぽいのがいたら教えてほしいとのこと。
聞かせてもらった二人は、まあジェラートと同じような意見だ。――信じらんねー、だそうである。会ってから今までの本人の言行からして致し方ない結論であった。
――傍若無人に筋肉をつけたような奴だなこりゃ。と、としあき は嘆息した。これからのことを思うと結構億劫だ。それに恩人といえるジェラートに対する態度も考えものだ。他者の人間関係に口を出すのは如何なものだが、かなりひどいと思う。
が、しかし。彼女の、ジェラートの泣き怒り顔は中々そそられるものがあった。惚れたかもしれない。凛々しく泰然としている平常からのギャップ。そこにドキドキしてしまう。それとも自分にS気があるのか、彼女が天然のいじられ体質があるのか。まあどっちにしろブラウスに、出来ればジェラートの見ている前で一言いってやりたい。
だがとしあき はやめておいた。彼女の方が口達者っぽいからだ。そんな時ふとテーブルを目にすると、ちょうどいいのがあるではないか。
としあき はブラウスに声をかけた。キャベツの酢漬けだ。これをさりげなくすすめた。なるべく感情を表に出さず、悟られないようポーカーフェイスで。
どうやら腹が減っていたらしく、策謀に気づきもせず遠慮なく手にとった。皿にのった酢漬けの三分の二ほどをごっそりとって口にほうりこむ。
――ゴボフゥ!
目論見は成功した。咳き込むブラウスを見てとしあき はニヤニヤしている。
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ブラウスはスーパーキャラだ。他のキャラのボーナスポイントが10~15の間に対し、ブラウスは20を誇る。振り直しはしていないのでかなり幸運だった。前衛に立てるようにちからに多く振ったので戦士二人よりモリモリになった。
ちなみにドラクーエドリィでは転職してもBPが引き継がれるのでかなり重要だ。後から消費アイテムで増やせるようだが3DダンジョンRPGは序盤とくにきついのでBPが多いのにこしたことはない。
基本職その3
僧侶
信仰心12以上でなれる。神々に仕える聖職者
並外れた信仰心で崇拝する神と一時的につながり人知を超えた奇跡をおこす僧侶呪文を扱います。
味方の負傷を回復する僧侶呪文レベル1~6までを覚える。戦士には劣るがそこそこ強い防具、そこそこ高いHP成長率を持ち前衛でも戦える
不浄な存在であるアンデット系モンスターに対するスキルを多く持つ。
専用スキル
ファーラム 神々に祈りを捧げ、敵1グループのアンデッド系モンスターを25~75%で消滅させる。SP消費1
ジュナク 神々に祈りを捧げ、呪われたアイテムを解呪する。失敗するとペナルティを受ける。
妖魔調伏 テンション+3以上でファーラムの成功率がアップ。
アンデッドガード アンデッド系モンスターの通常攻撃に対し回避力が増える。
ご加護 闇属性耐性が増える。
聖句暗唱 ジョブレベル20以上から信仰心が高いほど僧侶呪文の発動速度がアップ。
兼用スキル
僧侶呪文習得 レベル1~6までの僧侶呪文を覚える
シルバーソリッド アンデット系モンスターへの通常攻撃に攻撃回数+1と命中力+3。鈍器装備が必要
※専用スキルはその職業に就いている間だけ。兼用スキルはジョブレベルを一定以上上げることにより転職後も引き継ぐ事が可能。