プロローグ
それは、ごくごく普通の家庭だった。
父親がいて母親がいて兄がいて弟がいる。時間は夜の八時頃で夕飯はもう食べ終わり、ゴールデンタイムのテレビを一緒に見ていた。
どこにでもあるような、とても一般的で幸せな家庭。
それは、一瞬で崩壊した。
窓が割れて電気が消え、暖かな家庭が深い暗闇に飲み込まれた。女の悲鳴と男の怪訝そうな声が聞こえる。
少年が割れた窓を見ると、そこには細い線をした男性と思わしき侵入者のシルエットがあった。侵入者は不敵に笑っているように見えた。まるで、ご馳走の兎を前にした狼のような笑みだった。
侵入者が空を仰ぐように両手をあげる。瞬間、室内に嵐が吹き荒れた。残った窓も全て割れ、置いてあった新聞に始まり、そこらに散らばっている衣服から棚にしまわれていた皿、果てはテーブルまでが宙を舞う。男と女が吹き飛ばされ、そこにテーブルが襲いかかった。嵐に乗って鮮血が飛び散る。
嵐が収まり少年の視界がクリアになった。部屋は酷く荒れ果て、兄が隣で気を失っていた。どうやらここまで吹き飛ばされた際に頭を強く打ったようだ。両親は……視界に入れる勇気が無かった。
ゾッとするような笑い声を聞き、そちらへ振り向く。
いつの間にか、侵入者が男と女の近くに立っていた。侵入者が首を掴んで持ち上げると、男の身体がドロドロの液体へと変化し、侵入者の口に吸い込まれていった。
少年には何が起きているのかは分からなかった。だが、彼の父親がもうこの世にいないことだけは理解できた。そして、母親もまた、同じ末路を辿るであろうことも。
女も液体に変えた侵入者がまた両手を突き上げる。少年が悲鳴に近い叫び声をあげた。嵐が再度吹き荒れる。
その刹那、少年から青い光が発せられた。
侵入者が立ち去る。生き残ったのは、小さい少年一人だけだった。