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その後、腰を抜かして歩けない零を、ディーが肩に担ぎ(何と恥ずかしい格好か……)三人はシラギク街を後にした。
そして、家まで送ってくれたお礼にと、零の家で零自作の夕食を済ませた双子は、家へと帰宅した。
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食器を洗浄機に入れ、そろそろ風呂にでも入ろうかなと考えていると、テーブルに置いていたフォーンが、けたたましい音を立てて鳴った。
『こんなに音量でかく設定していたか?』等と思いつつ、耳を押さえながらフォーンを取る。
着信はリラからだった。
慌てて通話ボタンを押すと、フォーンヴィジョンが開き、パジャマ姿のリラが映った。
<ハロー、ゼロ>
「やあリラ。何か用?」
<ディー先輩が、今ゼロに電話してみろって。何かあった?>
「あの野郎……」
音量変えやがったのやっぱりお前か……。
つーか、いつの間に人のフォーン弄っていたんだ? 食事作っている時か?
<どうかした?>
「あー……何でも無い。恩を仇で返しやがったなーって思ったのよ」
明日覚えていろよ双子(兄)。
<そういえばゼロ、腰抜かしたんですって?>
「え、もうリラの耳に入ってんの? あの双子いつフォーン打ってんだろ? 情報早すぎ」
<先輩達からじゃなくて、委員長から聞いたんだけど>
「? 委員長から? あそこにいなかったはずだけど…」
<先輩達から聞いたんですって>
「……あいつ等何で、うちのクラスの奴のメアド知ってんの?」
<クラス全員の分知ってるとかなんとか……ふふ。先輩達って、本当面白いわね>
面白いどころの話じゃないよ。自分でも知らないよ。
クラス全員のメアドはおろか、委員長のメアドすら知らない。
あの双子、もしかしたら学園全域の生徒のメアド知っていたりして……。
<もう大丈夫なの?>
「あぁ、うん。多分、貧血だと思うし」
<貧血?>
「結構、酷かったから、その、シラギク街……」
思い出しただけで、吐き気がする。
行くべきじゃなかったんだよ。あの場所は。
光景を思い出して、また気持ちが悪くなってきた。
<私、てっきりアレの日かと……>
「違うから」
アレの日なわけあるか! 一体何を言い出すんだ!
「リラ、からかうのもいい加減にしないと怒るよ?」
<怒っちゃヤッ☆>
何かどっかで見たことある動作だな。
ディーとダムがピースを此方に向ける姿が、思い浮かんだ。
<あ、お父様がね、ゼロはしばらく我が家に泊まったらどうかって>
「小父さんが? 何で?」
<ゼロ一人暮らしでしょう? 犯人も捕まっていないし、危ないじゃない>
「君の姉さんが、捕まえてくれそうだけどね」
<まあ、それもあるけど……>
リラには10以上歳の離れたお姉さんが一人いる。
彼女は女性でありながら、警護隊の隊長を務めていて、以前リラの家に行った時、沢山の表彰状が飾られていたのを覚えている。
「それに、そこまで心配するほどでも無いし、小父さんには断っといて」
<し、心配とかそうじゃなくてね……あー……う~~~っ私がゼロに泊まってほしいの!>
「? 今は長期休暇中じゃないし、しかも年頃の女の子がそんなこと言ったら、いくら自分でも君の父さん姉さん達が堪ったもんじゃないよ?」
リラはハシドイ家の末娘で、とてもとてもとっっっても、家族から溺愛されている。
電話をしている相手が零であろうが、異性であろうが、会話の内容を聞いただけで誤解されて、家まで押し掛けられたりでもしたら、従では済まされない。
<~~~っもう! ゼロの馬鹿ぁ!!>
「? リラ? どうしたの?」
<ふーんだ。ゼロの鈍感!>
「?」
その後、ふてくされてしまったリラの機嫌を何とか直し、他愛の無い会話を一時間ほど続け、通話を終了しフォーンヴィジョンを閉じた。
消えたヴィジョンを見て、零はふー、と一つ、溜息を吐いた。
今日は何とも疲れた日だった。
変な夢は見るわ、双子に振り回されるわ、初めて自分の身を犠牲にして説教から逃れるわ、殺傷事件現場へ行くことになるわ、腰を抜かすわ……。
ぐだー、とソファーに横たわっていると、だんだん睡魔が襲ってくる。
ああ、このまま寝てしまって、明日の朝風呂に入ろうかな、と微睡む意識の中考えていると、キッチンテーブルから大音量で鳴り響くフォーンが、薄ら夢の世界へ旅立っていた零を、現実世界へ呼び戻した。
『………音量変えるの忘れてた』
けたたましく鳴り響く(いや、鳴り叫ぶ)フォーンを取りに、零はしぶしぶ立ち上がり、キッチンへ向かい、フォーンを手に取った。
【着信:ディー先輩】
「……………」
今すぐ切りたい衝動に駆られる。
そして切ろうとフォーンを持ち上げた時、まだどこもボタンに触れていないのに、強制通話となってしまった(一種のホラーかこれは?)