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【タイトル】Dear My Alice【未定】  作者: 柿崎みー君
夢、或いは悪夢。
8/14

-6-

 

 檻桜学園前停留所からバスに乗り、二つほど行った停留所【チョウヨウ】

 その停留所を下車し、しばらく進むと、紅、黄、白の菊で飾られた門が聳えている。

 その三つの門のうち、白菊で飾られた門を潜り、10分ほど進むと、ショッピング街【シラギク】に出る。


 「「シラギク街到着ー! ……しかも歩いて」」


 あー疲れたーと、白菊門に寄りかかる双子。

 お前等毎日徒歩で学園に通っているじゃないか。


 「仕方ないですよ。自分達は徒歩で登校していて、バスを利用する為のパスカードを持っていないんですから」

 「特待の称号使えたらなー」

 「この称号、本当訳に立たねぇよなー」


 桜の花片(はなびら)が埋め込まれた、檻桜学園特注の翡翠のネクタイピンを見て、ダムは口を尖らせた。

 零もダムと同じように、花片が埋め込まれた、双子とは少し違う青藍玉のタイピンを見つめた。

 零とトウィードル兄弟は、檻桜学園の特待生である。

 『一に成績、二に家柄』をモットーとする学園において、零と双子は唯一成績だけで特待制度をキープする、学園きっての異端な存在。

 それ故に、あまり教師等から良いように思われていない(特に双子)

 しかし、零と双子の頭脳、そして温和で、陽気な人柄、容姿端麗な姿に対し、右に出る者はいないというのが事実である。


 「まあ、他の場所では色々と役に立つ称号なんですから。一応大事にしましょうよ」


 「確かになー」等と双子は言い、三人はシラギク街に入った。




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--- 





 「これは……」

 「酷いな」


 双子の言葉に無言で頷く。

 名前の通り、白を基調とした、飾り気の無い、だけど、沢山の白菊で彩られた、美しいシラギク街が、


 「酷いってものじゃない。酷過ぎますよ……」

 (けが)れていた。シラギク街は、赤く、真っ赤な色に汚れていた。

 花壇に植えられている、白く咲き誇った白菊が、飛び散った赤に、染められていた。

 双子がよく通っていたメンズファッションのお店。

 そのショーウィンドウや、白い壁に、被害者のものと思われる血液が、完璧に拭い切られておらず、擦れて付着していた。

 いつもリラと一緒に入るグッズ店。

 子供が落としたのだろうか? うさぎのぬいぐるみがぽつんと一人、寂しげに店の前に落ちていた。

 その愛らしいぬいぐるみの傍には、夥しい量の血痕が残っていた。


 「こりゃ……組織ぐるみの犯行だろうな」

 「どんだけだよ、この血の量……致命傷どころの話じゃねぇよ」

 「つーか犯人今逃走中だろ? 一人の犯行じゃねぇなら、複数犯逃げているってことだよな?」

 「警護隊も警護隊で、何してんだかな」


 ニュースでは、無差別殺傷事件と言っていた―-だが、この夥しい血の量や、配属されている警護隊の尋常じゃない派遣数と、緊迫した空気。あまりにも、常識を逸脱していた。


 「俺、ちょっとあそこにいる警護隊の奴に、話聞いて来ーよう、と!」

 「あ、おい兄弟!」


 ダムの制止を聞かずに、ディーは黄色のテープを飛び越え、警備をしている警護隊に無謀にも走り寄り、行ってしまった。


 「もー! 少しは人の話を聞けってんだ! なーゼロー?」

 「………………」

 「ゼロ?」

 「………………」



 ――どくり。



 何だろう、この、胸騒ぎは? 

 シラギク街に入ってから、動悸が激しい。一向に治まらない。

 おかしい……今までこんなこと、一度も無かったのに。

 この、沸き立つ感情――胸の奥底から、何かが込み上げて来る感じ……喜び? 快感? 

 違う。そうじゃない。だけどこんなこと、確か、以前何処かで体験したような……。

 いや、そんな筈は無い。

 そんなこと、ありえない。ありえない。ありえなさすぎる。

 だって、14年間生きてきた中で


 ひ と ご ろ し な ん て す る わ け が な い 。


 じゃあ、一体何なのだろう、この、心の底から、湧き出でて来るような、狂喜の感情、は――


 「ゼロ、大丈夫か?」


 不意に話しかけられ、びくりと身体が飛び上がる。

 顔を上げると、ダムが首を傾げながら、身体を屈ませて顔を覗いていた。


 「顔、真っ青だよ?」

 「え」

 「すっごい血の気引いてる。汗もすごい。……大丈夫?」

 「……多分、大丈夫、です」


 詰まりながら声を出す。

 足が地に着いていない気がする。

 

 「嘘。大丈夫じゃない」

 「………」

 「すごいふらふらしてる」

 「……確かにそうっすね」


 ダムの言うとおり、シラギク街に入ってから、何だか体が重く感じ、立っているのがかなり辛い。

 とうとう足に力が入らなくなり、後ろにふらりと行きかけた零を、ダムが片手で背中を支えた。


 「はは、すみません」

 「もう帰ろう」

 「そうですね……警護隊の方々に学園なんかに連絡されたりでもしたら、堪ったもんじゃないですし……」

 「違うよ」

 「え?」

 「ゼロが心配だから、もう帰る」

 「……………」


 真剣な表情で、零を見つめるダム。

 初めて見るダムの真剣な表情に、零は思わず声が詰まった。


 「……ダム先輩でも、たまには真面目なこと言うんですね」

 「? 俺はいつでも真剣だよ?」

 「ははは。嘘言うな」


 普段通りに冗談を言い、人をからかう無邪気なダムに戻る。

 ――やっぱり、ダム先輩は、笑っている顔が一番良い。真面目な表情は、一年に数回程度で良い。

 もしそれ以上あったら、この世は破滅するだろうな……うん。ちょっと、言い過ぎた。


 「おい兄弟!」


 ぼやける視線の先に、警護隊と何やら話をしているディーの姿が見えた。

 ダムの呼び声に気付いたディーは、警護隊と二言ほど交じわせてから、黄色のテープを飛び越え、此方へ向かって来た。


 「悪い悪い! ちょっと話し込んじゃって……って、ゼロ! どうした!?」


 零のもともと色白な肌が、いつも以上に青白くなっていて、それが体調の悪さを醸し出していた。

 慌てて走り寄って来るディーの姿が、霞んだ視界に見えた。


 「貧血かもしれないんだ……なあ兄弟もう帰ろうぜ?」

 「当たり前だろ! 早く帰ろうぜ!!」

 「ゼロ、歩ける?」

 「はい。もう大丈夫で……」


 ダムの支えていてくれた手から離れ、零は数歩進み、そして、かくんと、膝から崩れ落ちる。

 ガッ、と地面に強く膝を打ち付ける。痛い。嘘だろ。足に力が入らない……。


 「「ゼロ!!?」」


 双子が慌てて零を抱え起こすが、零の両足には力が無く、両脇を支えてもらって立つのがやっとだった。


 「ゼロ大丈夫か! そんなに体調悪いのか!?」

 「いや、体調は悪くは無いんですけど……」

 「じゃあ何で今倒れかけたんだよ?」

 「こ、腰が抜けたとか……?」

 「「……………」」

 「……………」

 「ゼロ、今までに無いくらい」

 「つまらない言い分けだね」


 厭きれ返った溜息が二つ、シラギク街に重々しく響いた。

 ちくしょう溜息を吐きたいのはこっちだよ。

 悔しくて、目に薄らと涙が浮かんだ。


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