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「ちょっと先輩。今先生と話をしているんですけど……」
「「えー? 何ー? 早く帰ろうよー!」」
「……………」
聞く耳持たず、か。
担任の方をちらりと見れば、苦々しい顔付きで双子を見ていた。
一応教師なんだから、生徒の好き嫌いで態度変えるな。胸糞悪い。
本日何回目なのか解らない溜息を一つ吐き、後ろから手を回してきた先輩を無視して
「……すみません先生。その生徒の人に非常に申し訳ないんですけど、断っておいてください」
「あ、あぁ。だが、お前はどうやって帰るんだ? その……双子達と帰るつもりか?」
「ええ。まあ、断る理由もありませんしね」
あははははと、棒読みで笑う。
背後で「「断る理由って何だよゼロー!?」」と双子が騒いでいるが、無視を貫く。
「というわけで、帰りますね」
「ああ。気を付けて帰ろよ」
「はい。先生もお気を付けて」
社交辞令よろしく、足早にその場を去って行った担任。
その担任の後姿に向けて、双子は舌と中指を立てて見送った。
「俺あいつ嫌い」
「僕も」
「先輩達はあの先生問わず、全ての学校の先生が嫌いなんじゃないんですか?」
「「まあねー」」
舌を出して笑う双子。
常に二人一緒に行動を共にし、明るくムードメーカー的な存在の二人は、同級生や後輩等には結構人気があるのだが、その反面教師等からは、あまり良いように思われていない。
「あんまりあんな態度取らない方がいいですよ?」
「嫌いなものは嫌いなんだよ」
「ゼロだって、嫌いなものとは、相容れられないだろう?」
「……まあ、そうですけど」
双子の言い分にも一理ある。
だけど、まあ
「それでも、時と場合を考えてくださいよ。一応、先輩達は自分より年上なんですから」
「「はいはいはーい」」
口を尖らせながら、不満げに返事をする双子。
悪たれてはいても、聞き分けだけは何故だか良い。
「さ、早く帰りましょうか。未だ犯人は逃走中なんですから」
「「早く帰りましょう……?」」
「ええ。早く帰りましょ、う……?」
おかしい。何故だか嫌な予感がする。とてつもなく、嫌な予感がする。
背中を嫌な冷や汗が、つう、と一筋流れ落ちる。
あー振り向きたくない。双子の方を振り向きたくない。
しかし振り向かねばいけない気もする……。
零はそぅっと、本当にそぅっと、後ろを振り向く。
振り向きたくないけど、双子の方を、意を決して、零はゆっくり振り向いた。
「俺達が」
「そうすんなりと」
「「帰ると思ってんの? ゼーロ?」」
ああ、最悪だ。
双子のやる気スイッチを押してしまった。
こうなってしまったら、もう双子を止める術は無い。絶対に。
「さあゼロ!」
「殺傷犯が出たシラギク街に!」
「「Let’s Go!!」」
「……………」
両手を双子に掴まれ、天高く掲げられる。
ああ、本当に今日は最悪な日だ。