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――昼休み。屋上に続く階段にて昼食タイム。
「朝から担任の説教?」
「担任の呼びかけに気付かなくて?」
「「一体何に夢中になっていたんだい? ゼ~ロちゃん!」」
「……うるさいんですよ。ちなみに説教はありませんでしたから」
購買で買った学園人気No.1の、苺ショートプリンパンを口に頬張りながら、双子はにやにやと此方を見て笑っている。
よくそんな甘いものが食べられるな……。
「つーか流し目って何?」
「とうとうゼロも自分の身体を売るようになったのか……」
「身体を張る、の間違いかと」
「言葉の文だよあーや」
「怒っちゃヤッ☆」
ぎゃははははと、仰け反りながら笑う双子に、零は溜息を吐いた。
朝の説教事件は愚か、流し目までもがもう既に双子の耳に入っているとは……。
『リラの奴、やることが早いんだよ……』
今頃教室で、女子達と優雅にお弁当を囲むリラの姿が目に浮かんだ。
「ゼロなんか朝から絶不調だなー」
「いつものゼロらしくないなー」
「本当ですよ。これも全て朝見た夢のせい……」
はむっと、本日の昼食であるサンドイッチを、口に含む。
う、マスタードを塗り過ぎた……。辛い。
これも夢のせいだあーあーあー。
「お、見ろよ相棒、ゼロ」
「何だよ兄弟?」
フォーンを見ていたディーが、画面を此方に見せてくる。
どうやら臨時ニュースのようだ。アナウンサーが、何やら忙しい様子で話をしている。
「本日午前11時未明、和都・シラギク街にて、無差別に人が殺傷される事件が起こった」
「凶器は包丁……しかも肉切り包丁? うわーこれは酷い」
「犯人は未だ逃走中……人相などは解っていないって、見ていた人皆被害者ですか?」
モニターが現場であるシラギク街へと映り替わる。
シラギク街は、学園からバスで二つ行った先にあるショッピング街で、檻桜学園の生徒達が放課後などに立ち寄る場所でもある。
そんなシラギク街が、今日起こった事件により、緊迫した雰囲気漂う警護隊や救護隊で色めき、人々が不安げな瞳で、好奇な瞳で現場を見ている。
至る所にシートが張られ、被害者のものと思われる赤黒い染みが、地面にじっとりと、染み込んでいた。
その血痕を見ていたら、朝の【桜の花片血飛沫事件】(自分で命名)を思い出してしまった。
何だか気味が悪くなり、零はフォーンチャンネルを替えてみた(ディー先輩のフォーンなのだが・)
しかし、どのチャンネルも、シラギク街で起こったニュースを、忙しく報道していた。
かなり被害者が出たのだろうか? 和都でこんな凄惨な事件が起きるだなんて、珍しい。
「シラギク街って、よく放課後に立ち寄る奴らが多いよなー」
「つーか犯人も犯人で、昼間から盛んだなー」
「……まるで他人事のようにあんた等は」
双子の自由さに、厭きれてものが言えなくなる。
「てか、これ学園の近くだろ?」
「しかも犯人未だ逃走中……てことはさ」
「「臨時休校有りとか!?」」
やっりー!! と両手を打ち合う双子。
本当にこの双子は……。
「先輩方解ってます? 確かに学園の近くで起こった事件ですけど、そう簡単に休校だなんて――」
零の声を遮るかのように、チャイムが鳴り響いた。
しかしそれは、予鈴のチャイムではなく、生徒や教師の呼び出しなどに使われる臨時のチャイムだった。そして切羽詰った声の放送が、廊下に、教室に、そして零達のいる屋上階段に響き渡った。
『教室外にいる生徒は、速やかに自分のクラスへ戻ってください。繰り返します。教室外にいる生徒は、速やかに―――』
「……………」
「……………」
「……………」
「「休校、当たりだな」」
双子がこちらを見て、嬉しそうに、にやりと笑った。
「……えぇ」
あぁ、何もかも、朝の夢のせいだ。
零はがくりと、肩を落とした。
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双子の予想した通り、警護隊は、シラギク街で起こった事件の二次被害を防ぐ為に、事件現場に近い学校一帯に、午後から臨時休校という処置を出した。
担任が警護隊から出された資料を基に、シラギク街で起きた事件のことを、感情移入しながら話している(担任は国文担当なのだ)
そんなところで感情移入しなくても良いのにと思いながら、窓の外に目を向けた。
桜の花片が舞う中、自分の子供を迎えに来た親御達の車等が、校門の前に殺到している。
『――お迎え、か』
ちょっとだけ、羨ましい。本当に、ちょっとだけ。
「……というわけで、明日の登校は、学園からの連絡が入るまで自宅待機だ。解ったなー?」
「はーい」なんて、幼稚園か此処は? と言いたくなるような、クラスメイトの返事を聞き、委員長の指示で立ち上がり、担任に挨拶をする。
先生さようなら。さ、帰りましょうかな。
「おい、一色」
「?」
鞄を肩から担ぎ、教室を出て行こうとした零は、担任に呼び止められ、立ち止った。
朝の説教を今此処でする気かこいつ?
「一色、お前、親御さんは迎えに来るのか?」
「いいえ」
「殺傷犯がまだうろついているんだ。一人は危険だぞ?」
「まあ、仕方ないでしょう。一人で帰らなきゃいけない状況なんで」
珍しく心配する担任なぞお構いなく、零はぶっきらぼうに答えた。
朝のことを忘れたと思うな。
「親御さんが事情で迎えに来れない生徒は、担任が送っていくことになっているんだが、お前のことを家まで送ると、申し出た生徒がいてだな」
「? (誰だ? リラ、は無いな。さっきメールで断ったから)」
「ちょうど良いから、お前、送ってもらったらどうだ?」
「………………」
こいつ、ただ単に送るのが面倒くさいだけなんじゃないのか?
「ありがたいですけど、迷惑じゃないですかね?」
「いやぁ、あの様子は有無を言わさずというか、是非ともっていう感じだったなぁ…」
「はあ。じゃあ、お言葉に甘えて……」
「「ゼロー!」」
零の言葉を遮るように、高等部の練の方からトウィードル兄弟が現れた。
「あ、先輩」
「迎えに来たぜー」
「一緒に帰ろー」
にこにこと笑いながら、悪気も無く、もとい純粋に空気を読まず、双子は零と教師の間に颯爽と割り込んだ。