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【タイトル】Dear My Alice【未定】  作者: 柿崎みー君
夢、或いは悪夢。
5/14

-3-

 

 がやがやとうるさい廊下。埃の臭いが鼻を掠める。

 小走りで教室へ向かう生徒と、チャットをしながら教室へ向かう生徒。フォーンを見つめながら歩く生徒。友人と話しながら歩く生徒。

 やることなすことバラバラだけど、同じ学園の生徒達が、あと7分と26秒程で鳴る朝礼に間に合うように、自分達の教室へと向かっている。


 「「ゼロ君、おはよう!」」

 「おはよう」


 後ろから来た女生徒に挨拶をされ、零は追い越され際に挨拶を返す。

 顔を赤らめた女生徒二名は、「きゃー!」と言い、走って行った。


 「人に挨拶しといて悲鳴上げて去るのはどうかと……」

 「ゼロも罪作りな奴だよなー」

 「本当本当」

 「何が罪作りなんですか?」

 「「そういう鈍感な所が」」

 「?」


 双子に「にぶにぶー」等と言われつつ、中等部の棟に辿り着いた。


 「じゃ、俺らはこの辺で」

 「お昼にまた来るねー!」


 高等部である双子は、此処でお別れである。

 零に手を振りながら、中等部棟をのんびり悠々と去って行った。

 朝礼まで残り3分と47秒。高等部の棟まで果たして双子は辿り着けるのだろうか?


 『ま、あの二人なら行けるよな』

 「ゼロ君おはよー」

 「おはよーゼロ君ー!」

 「あ、おはよう」


 挨拶を返せば、またきゃーきゃーと悲鳴を上げて去っていく女子生徒。

 だから何で挨拶返しただけで、いちいち悲鳴を上げられなきゃなんねぇんだよ。


 「あーイライラする……」

 「おはよう。ゼロ」

 「あーはいはいおはよ……って、リ、リラ!?」

 「朝から機嫌が悪いのね」


 慌てて振り向くと、くすくすと笑う可憐な少女が、自分を見上げていた。

 ライラック・ハシドイ。

 通称【リラ】

 ふんわりとした藤色の髪と、儚げな翡翠色の瞳が、見る者をうっとりとさせる優雅さを醸し出している。


 「ごめん。まさか、リラだとは思わなくて……」

 「あら、私じゃなかったらどんな顔をしていたの?」

 「多分こーんな顔」

 「嫌だゼロッたら!」


 鈴を転がすのような声で無邪気に笑うリラ。愛らしい姿に少し見惚れてしまう。

 昔からずっと一緒の、大切な幼馴染。


 「まあ、どうして機嫌が悪いかは大体察しが付くわ。またきゃーきゃー言われたんでしょう?」

 「さすがリラ。解ってらっしゃる」

 「仕方ないわよ。だってゼロかっこいいから」

 「あまり嬉しくないね」

 「その素敵な容姿をちょっと周りに使ってみたら? きっとクラス中大騒ぎになるわよ」

 「使ってみたくも無いし、使う気も無い」

 「つまらないわねぇ」


 リラはそう言って笑うが、零自身はあまり笑い事には思えない。

 零は、自分の中性的な容姿がコンプレックスなのだ。


 「トウィードル先輩達から聞いたわよ。ゼロ、変な夢見たんですって?」

 「伝達が早すぎだろあの双子……で、先輩方が何だって?」

 「ゼロが今日一日気落ちしているかもしれないから、よく見といてあげてくれって」

 「へぇ……」


 先輩達の心遣いに、少し感心。

 あんな双子にも、そんな人を気にかけてくれる心があったのか……。

 「追記:もしゼロが居眠りして(うな)されていたら写真を撮る様に」

 「台無しだよ」


 何が居眠りしていたらだ。授業中に誰が寝るか。

 つーか魘されねぇよ。失礼な。


 「でも、ゼロが魘されるだなんて珍しいわね」

 「そうかな?」

 「ねぇ、どんな夢を見たの?」

 「え、聞きたいの?」

 「うん!」


 ふんわりと、綻ぶ笑顔にどきりとしつつ、夢の話をリラに話した。

 リラは笑みを崩さず、終始笑顔で話を聞いていてくれた。





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 「――変な夢ねぇ」

 「だろう? その夢のせいで朝から遅刻しかけるわ、双子にからかわれるわ、変なものは見るわ……本当散々だよ」

 「変なもの?」

 「疲れているだけだと思うんだけどね」

 「それは大変だわ。早速先輩達にお伝えしなくちゃ」

 「いやいやいや、何言ってんの」


 リラが恐らく双子達に打っていたと思われるフォーンを、素早く取り上げる。

 危なかったな……この子、先輩達にメール送信する寸前だったんだけど。


 「あの双子の耳に入ったら徒じゃ済まなくなるだろ?」

 「あら、私ゼロが先輩達に弄られて困っている姿、見るの好きよ」

 「……………」


 冗談よとコロコロ笑うリラ。この子可愛い顔してかなりのドSだわ。

 先輩達に余計なメールを送らないように、リラに入念に釘をさし、フォーンを返した。


 「リラはどっちの味方なんだか」

 「私はいつでもゼロの味方よ」


 ふんわりとした笑顔で、リラはうふふと笑った。


 「おーい朝礼始めるぞー席座れー」


 馬鹿みたいな(まあ実際馬鹿なのだが)大きい声を上げながら担任が教室に入ってくると、初めからがやがやとうるさかった教室が、さらにうるさくなった。


 「あら、先生がいらしゃったわね」

 「席に着かないとな」

 「じゃあ、また後でね」

 「うん」


 ひらひらと零に手を振ると、リラは自分の席へと戻った。

 零も自分の席――窓側の一番後ろの席へ向かった。

 桜木が近い今の席は、零のお気に入りの席である(しかも担任の目があまり届かないという利点)

 朝の挨拶をし終えると、担任は出席を取りながら、今日の予定を話し出した。

 零は担任の話を、右から左へと受け流しながら、外を眺めていた。


 『今日も良い天気だな……』


 桜の花片(はなびら)がふわりふわりと、風に幾重にも舞い上がっている。

 ふと、薄紅の花片の合間に、赤いワンピースに白いレースをあしらったエプロンドレスの姿が、垣間見えた。


 「?」


 身を乗り上げて窓の外を見ようとしたら、ざっと、一陣の風が吹き、桜の花片を大きく吹き上げた。

 その大量の花片の合間から、にたりと笑んだ唇が、見えた気がした。

 風が治まり、再びそこを見ると、そこには誰も居らず、ただ桜がちらほらと舞っているだけだった。


 「何だ?」

 「何だ? は、こっちの台詞だ一色ぉぉおおお!!」


 びくりと身体を飛び上がらせ、ばっと右を向けば、いつの間に自分の前に来たのか? 

 額に青筋を立てた担任が、目の前で、仁王立ちをして立っていた。


 「外に可愛い女の子でもいたのか? 一色?」

 「いえ……」

 「じゃあ何だ? 俺の話よりも夢中になるものが、窓の外にいたっていうのか? あぁ?」


 全く……自分はこの担任がかなり気に食わない。

 相手も自分と思っていることが同じようで、自分が何かする度にいちいちしつこく絡んでくる。

 嫌みで偏見なあほ面教師。


 「桜が」

 「あ?」

 「桜が奇麗だな、って……」


 すっ、と此方を見つめる女子に流し目を(故意に)向け、くすりと微笑む。

 すると顔を一気に赤らめた女子達が、一斉に悲鳴を上げ、教室内が騒然とした雰囲気に陥った。

 担任は慌てて、うるさい教室に怒声を響かせる。しかしなかなか教室内は静まらない。

 ふと、斜め前から視線を感じ、そちらの方を向いた。

 リラがくすくすと笑いながらこっちを見て、口パクで「使わないんじゃなかったの?」と言ってきた。


 『物は使いよう』


 口パクで、リラに伝えた。

 その後、数回の怒声を響かせ、クラスを静めた後、意気揚揚と嫌みな説教を始めようと、此方に向かって来た担任は、一時間目開始のチャイムにより、憎たらしい顔を此方に向けて、教室を去って行った。

 やれやれ。




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