-2.5- とある女生徒の歪な恋心
あの人がいる。登校して来た。
八重桜の太い幹に隠れながら(此処ならあまり見付かりづらい)そこから、そっと、あの人を見つめる。
良かった。昨日の放課後は会えなかったからすごく落ち込んでいたの。
夢にあなたを見てしまうほど、落ち込んでしまったのよ。
あら? 今日は珍しくマフラーなんかしてる。
しかもそのマフラー、去年ライラック・ハシドイとシラギク街で買っていた色違いのマフラーじゃない……。
そんなにお気に入りなの?
まあ、季節的に些か早い気もするけど、きっと彼のこと。
季節を先取りしているのね。ファッションセンスがあるわ。さすがね。
私も彼を見習って、明日からマフラーを巻いて登校しましょ。
……あぁ、今日もあの双子と一緒に登校なのね。
あなたはいつも双子と一緒ね。
私といるよりも彼らといる方が楽しいの?
……でも、そんなこと無いわよね。
あなたは私と一緒にいる方が楽しいはず。えぇ、絶対そうよ!
あら、双子がまたあなたにちょっかいを出してる。
その悪戯はこないだもやっていたじゃない。
頭の良い彼が何回も同じ手に引っ掛かるとでも? 彼らも馬鹿ね。
……ほら、やっぱり! 彼は双子の悪戯を見事回避したわ!
さすが私の――なんて、おこがましいわね。まだ私のじゃないのに。私の馬鹿馬鹿。
なんて、少しの間あなたから目を離していたら……
「う、わああぁぁああぁあああぁあ!!」
あなたの悲鳴が校庭に響き渡った。
え!? どうしたの!! 一体何!?
あなたの方を見れば、両手を掲げ、顔を青ざめて大きな悲鳴を上げていた。
今まで叫んだりしたことが無かった彼が悲鳴だなんて!
彼の傍で双子が慌てている。何よ!? 一体彼に何をしたの!!?
……あぁ、良かった。彼、落ち着いたみたい。
どうやら双子の悪戯が過ぎたみたいね。本当やめて欲しいわ。
あなたに何かあったら私……。
あなたもあなたよ! どうして双子ばかりに構うの?
私がいるのに、あなたは登校も休み時間も昼食も放課後も帰宅もいつも一緒!
どうして学年が一緒の私といるより、他学年の彼らといつも一緒なの?
そんなに双子と一緒がいいの?
私よりも、双子の方が好きなの……?
――でもね、双子と一緒にいる時のあなたの笑顔、とても素敵なの。
その笑顔を、いつか私にも向けて欲しいな。
あの日のように…。
あ、チャイムが鳴った。彼も双子と一緒に校舎に向かっている。
私も行かなくちゃ。
今日こそあなたとお話できますように☆