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【タイトル】Dear My Alice【未定】  作者: 柿崎みー君
夢、或いは悪夢。
14/14

-11-

 

 名前を答えた後も、沈黙は続いていた。

 あっちでも歩みを止めたらしい。

何かを引き摺る音も、ぴたりと止んでいた。


「……………」

<……………>


 静寂と沈黙が続く。

 聞こえるのは自分の心臓の音と、クグツ通りを通る人々の雑音、受話器からしゅうしゅうと苦しげに聞こえる呼吸の音、のみ。


<……そう>


 ぽそりと、向こう側で呟いた声が聞こえた。


<貴方が、一色(ひといろ) (ぜろ)、なの、ね……?>


 ぞくり。

 空気が変わる。

 背筋に寒気が駆け降りた。

 さっきまで何とも思っていなかった電話の相手が、怖い。とても、怖い。

 何故だ? 何故自分は会ったことも無い、ただ会話をしている相手を、こんなにも恐れている……?

 

「あ、の」

<ゼロ来るな逃げ>


 ディーの苦しげな叫びが一瞬聞こえ、即座に途絶えた後、何処かに激しく打ち当たる音がし、聞き覚えのある声が呻き声として耳に飛び込んで来た。



「――っ!?」

<ちょっとぉ! 今あたしがゼロとお喋りしてたのよ! 何で邪魔するわけ!?>


 微かに聞こえる苦しげな声を覆い隠すかのように、甲高い少女の叫びが受話器からうるさく響く。


<千年ぶりの出会いなのよ! 少しは空気を読みなさいよ! バカッ! バカッ!! バァーカッ!!!>


 重いものを何度も蹴り上げる音、くぐもる呻き声、少女の怒鳴り声。

 しかし頭に響くのは、


「ディー先輩!? ディー先輩!!? 止めて……止めろ!! 何やってんだよ!!? ディー先輩!!?」

<あっ……とと、ごめんねゼロォ……あたしったら興奮しちゃってぇ……ゼロのこと無視しちゃった>


 少女は悪びれず笑いながら答える。

 一度何かを蹴り上げ、くぐもる呻き声が聞こえた


「そんなのどうでもいいんだよ!! ディー先輩は!? 一体何してんだよ!!?」


<やだぁ……ゼロ何怒ってるの? そりゃあ、あたしがゼロのこと無視しちゃったのは、悪かったと思ってるけどぉ……>


「あんた誰だよ!!?」



 はっと、息を飲み込む音。

 静まり返るフォーン。

 ずっと立ち止まる零を追い抜かしていく人々。



<……あたし、を、憶えて、いない、の、ゼロ……?>


 ぴんっと再び、空気が張り詰めた。

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