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【タイトル】Dear My Alice【未定】  作者: 柿崎みー君
夢、或いは悪夢。
12/14

-9-

 

『×××××』 



 声が聞こえる――。

 ゆっくりと、瞼を開くと、瞼を閉じていた時と同じ、光が一筋も無い暗闇が続いていた。

 悟る。あぁ、また、この夢か……。



『×××××』



 今日も叫んでいるんだな。



『×××××』



 震わせながら、悲痛に叫ぶ声。

 その声に混じり、何かを叩く音も一緒に聞こえた。

 光が一筋も無い暗闇。

 足元の感触と、触れた壁の感触で、此処は、岩か何かで、人工的に作られている場所なんだと解った。



『×××××』



 どうしてそんなに叫び続ける?



『×××××』


『×××××』


『×××××』

『×××××』

『×××××』

『×××××』

『×××××』

『×××××』



 そんなに悲しげに、何度も、何度も叫び続けているのに、お前の所に、その求めるものは来ないんだね……。


 ゆっくりと、足元に注意を払いながら、暗闇の中を、ゆっくり、前へ、声のする方へ進む。



『×××××』



 教えてほしい。

 どうしてそんなに叫ぶのか。

 どうしてそんなに悲しむのか。

 どうしてそんなに嘆くのか。


 どうしてそんなに、



『アリス……』



 アリスを、求めるのか……。






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「……アリス」


 (くう)に手を伸ばす。

 何も掴めない。近くにいたのに、いつも傍にいたのに……!

 ……この手は、何も、掴めていなかった。

 ああ、アリス。

 君の、その、白く、柔らかい、優しい手に……触れたい。


「……んぁ? あぐ痛っ!?」


 ぱちりと目を開けると、顔面に何かが落ちてきて、鈍痛が走る。

 目覚めは最低最悪。朝から一体何なんだ?

 顔に落ちたものを右手で持ち上げたら、犯人は自分の左手。

 何故だか解らないが、自分の左手は何かを掴むように、何かを求めるかのように、手の平を力いっぱい開いて、天井に大きく掲げていたようだ。

 そして、力無く、顔面に落下した。

 何故だ? 何で朝っぱらからそんなことしてんだ?


「何やってんだろ自分……」


 じんじんと痛む鼻を押さえながら、左手を見る。特に問題無し。

 寝ぼけていたのか?

 むくりと身体をベッドから起こし、時計に目を向ける。

 長い針が1、短い針が5を指していた。


「……早過ぎだろ」


 只今の時間は午前五時五分を指したところ。

 もさもさの髪の毛を手櫛で整えながら、ベッドから降り、リビングへと足を運んだ。

 あれ? そういえば昨日いつベッドに入ったっけ?

 キッチンテーブルに置き去りにされた、自分のフォーンを見つめ、零は首を傾げながら、バスルームへと向かった。






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 バスルームから出るとちょうど時間は六時半。

 うん。準備するのに良い時間。

 今日は時間もあるし、朝ごはんをしっかり作って学校に行くかな。

 暢気に考えながら、テレビを付ける。

 朝のニュースは、昨日シラギク街で起きた無差別殺傷事件の話で持ちきりだった。


「犯人は未だ見付からず、か」


 暖めた牛乳を一口飲み、一息つく。

 そういえば、結局今日は結局学校あるのかな?


<次のニュースです>


 あ、そういえば昨日寝ちゃったから宿題やってないや。国文の時間にやろう。


<今日午前三時過ぎ、和都【ナナヨヅキ】のマンション前で、男性の死体が発見されました>


 【ナナヨヅキ】とか、自分の住んでる所じゃん。

 とうとう自分の家の近くにまで殺傷犯が来たのかな? くわばらくわばら。


<男性は首が切られた状態で発見され――>


 画面が女性アナウンサーから、現場であろうマンションの映像に移り変わる。

 ……あれ。このマンションなーんか見たことある……






 どう見ても我が家です本当にありがとうございました。






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「っざけんなよ殺傷犯!」


 足元の小石を怒りを籠めて、全力で蹴り上げる。

 蹴られた小石は弧を描きながら高く吹っ飛び、バウンドしながら着地した。

 あの後、画面を見つめながら、石の様に固まってしまった自分を、現実へと強制的に引き戻したのは、けたたましく鳴り響くフォーンの着信音だった。

 ゆったりとした動作で電話に出ると、三人分のフォーンヴィジョンが同時に開いた。

 一つはリラ。二つ目は双子。そして最後が担任。

 リラと双子はもちろん今日のニュースについて、心配して電話をかけて来てくれた。

 無事か? 大丈夫か? 学校は今日は休むべきじゃないか?

 と心配されたが、取り敢えず、担任次第と答えて、二人の着信を終えた。

 そして担任。

 第一声が挨拶では無く、今日は学校があること、昨日の事件の影響で短縮日課であること。

 以上。それだけ。

 ……おい担任。

 自分の家の目の前で、殺人事件が起きたというのに学校に来いだと?

 全都のニュースになっているというのに、あんたは何も言うことは無いと?

 はっはっは。ふざけんな。

 

「大体何でわざわざうちの家の前で、人を殺すんだよ!? 何が目的で人殺しまくってんだよ!? 人の命を何だと思ってんだよ!!?」


 ふざけているふざけている。

 迷惑千万。不愉快極まりない!


「……まあ、そんな状況でも、学校に向かう自分が一番馬鹿だな」


 ふー、と一つ溜息を吐く。

 溜息が癖になってきたな。幸せが逃げてしまう。あー嫌々。

 そんな鬱塞な空気を180゜引っ繰り返すかのごとく、ポケットに入っていたフォーンが、けたたましい音を立てて鳴き叫んだ。


「……音量変更するの忘れてた」


 周りの視線を感じつつ、ポケットから慌ててフォーンを取り出し、着信ヴィジョンを開いた。


 【着信:ディー先輩】


「……………」



 何だろう。この胸の奥底から湧き上がってくる、おぞましい気持ちは?

 怒りでフォーンを投げ飛ばしたい衝動を押さえ込みながら、通話ボタンを押した。



「もしもしディー先輩?」


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