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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第1章 下積み

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コンバーターの進撃

 ただひたすらに走っていけば、ぶち当たったのは大きなクレーターだ。

 歪にエグれた大穴は、元々の姿を想像する事すら困難だ。

 この超常現象とも取れるクレーターは、中心にいる彼らによって作られた。



 クレーターの中は血や肉、誰かの腕などが撒き散らされている。その中心には、リーダーだったヒナギシばぁさんがたおれていた。

 弱った身体を必死に立てようと足掻いているが、どうにも力が入らないようだ。それもこれもヒナギシの前に立つ赤い巨人のせいだろう。


「なんだあれ...」


 身長は4メートルは超えているだろう。赤い肌、筋肉質な身体を持つ巨大な男はまるで赤鬼だ。

 赤鬼は全裸で尻をつけて座り込み、地面を覗き込んでいる。地面でもがくヒナギシばぁさんを観察するためだ。


「やはり、不死は伊達では無いな。」

「こちとら300年物の身体じゃ。そこいらの老人と一緒にしてくれるな。」

「ではどこまでいけるか試してみよう。」


 赤鬼はなんの躊躇もなくヒナギシを大きな手で叩いた。音が舞い砂塵が僕を通り抜ける。

 床が凹むほどの衝撃は辺りを揺らしていた。その収まりもつかないままに、赤鬼は手を振りあげて叩く。

 振り上げて叩く。叩く。叩く。ヒナギシを地面にめり込ませるように何度も振り上げて下ろす。


 まるで地震のように長く揺れて、身体が揺れた余韻を残す頃に、赤鬼の動きは止まった。


「ヒナギ、シ、ウワ、ァァ、ァ___」

「ハーフキャット。すまない、今バレたら不味い。」


 ハーフキャットの小さな口は泣き喚こうと開きそうになっていた。だから俺はそれを手で塞ぎ、小高い床の破片に身を隠した。婆さんに言われた事を守るために。

 そんなのは俺自身の情けない感情を紛らわす単なる言い訳だ。怖い。見たこともない暴力的な巨大生物を視界に入れてるだけで足が震える。怖い。逃げ出したくなるくらい怖い。


 破片の横から顔を出してみると、赤鬼は不思議そうに何かを見ていた。


「興味深い。自己再生ではないな、そんなものでなく、時間の巻き戻しに見えるぞ。その証拠に服も元通りだ。」


 砂塵の真ん中に組み上がっていく人間の身体。足から順にパーツが再生していき、下顎まで来ると人体構造的に発声が可能になった。


「____ほぅ。ひょなたはかなり聡明なのじゃな。」

「不死はブラフか。それなら分解酵素が無くても毒がなくなったのも理解出来る。体に入れた途端、なかった事になる訳だからな。」

「……嘘をついても仕方ない。その通りじゃ。」

「自死をスイッチとした時間逆行再生。6次元世界からのギフトと考えたら____アストライアの信徒だな。ヒナギシよ。」

「ふむ。身バレと言うことじゃな。」


 よく分からない話をする1人と一体。丁度赤鬼の背後の瓦礫に、隠れたミレーヌが槍を構えていた。


(ミレーヌ...わかってるだろ。そんなことしたって何にも変わりはしないって。)


 こちらの気持ちとは裏腹に、ヒナギシの行動は進んでいく。そんなことを知らない赤鬼は話を続ける。


「ではここで問題になるのが発動条件。その対象だが____それは自分にしか対象を選ぶ事ができないからだァ!!!」

「チッ!!治癒向上、筋肉硬直、体重倍加、速度超____」

「ふん」


赤鬼は簡単そうに巨大な腕を振り抜いた。


「____ほぉ...」


 だが腕が振り抜ききることはなく、ピタリと動きを止めた。それこそ時間が止まったかのように。


「ふんぬぅうううううううううぅあああアアアッッッ____」


 だが時間など止まっていない、単に止められただけだった。

 ミレーヌの槍が赤鬼の巨大な手の平に刺し込み、2つの足で支えている。自分よりも何倍も巨大な腕を槍で受け止めていたのだ。


「単なる強化魔法だけで受け止めきるか、蛇族の生き残り。」

「お褒めに預かり光栄だけど、持たないってのこんなの...___早くッ!!早く契約を結んで!!」

「...なんだ。来ているのか。」


 ミレーヌは今にも身体が爆裂四散しそうな声で叫んだ。名前も言っていないのに、俺の事を指していることは明白だった。







 胸の中で震えるこの子に、できるだけ優しく話した。


「なぁハーフキャット。」

「ナ、ナニ。」

「ミレーヌやヒナギシを助けたい?」

「ウン。」

「なら俺と契約できるか?お前が嫌ならいい。俺みたいなボンクラと主従を結ぶのは嫌な筈だし、それならそれで何か考えを___」

「マサヨシガイイ。」


 ハーフキャットは体を翻し、俺の目を見ながら言う。


「マサヨシ、イガいはいやだ。」

「お前...言葉が。」


 ハーフキャットの黒猫種はかなり希少だ。心を許した時に進化する「心境変化」。

 9個の魂を持ち、前世のスキルを受け継いで行く「輪廻継承」。

 そしてその真価を発揮するのは奴隷契約を結んだ時に起こる「潜在発揮」。

 他の獣人種族より魔力を器用に扱えない分、身体変化は目覚しい。とミレーヌとヒナギシは語っていた。


 ヒナギシばぁさん曰く、俺とハーフキャットは適性がかなりあるので切り札として残していたいというのが裏話だ。

 やり方は知っている。心を込めて名前を呼んでやる。それだけで成立する。


「ならお前の名前は、ミコチ。ミコチだ。」

「ミコチ...」









 ミレーヌの腕は限界だった。まるで隕石や新幹線でも受け止めているような、どうしようもないほどの理不尽を、気力と魔法だけで受け止めていたのだ。


 巨大な赤鬼の腕、比べる事が難しい圧倒的な力がミレーヌの槍と両腕を襲う。はち切れそう筋繊維を魔法と言う外骨格が締め上げており、それだけで耐えていた。

 普通ならば瓦礫共々砕け散る肉体は、ミレーヌの純粋な筋力と体を縁取る魔法によって、その形を留めているだけに過ぎない。だがそれも限界だ。


「くそ____治癒が間に合わない____」


 眼前に迫る赤く巨大な腕を押しとどめている筋肉は、想像を超えるスピードで死んでいく。

 それらを蛇の一族特有スキル「脱皮」の上位互換「甦治癒」によって身体再生が行われ、それを魔法によって再生速度にブーストをかけていた。


 だがそれでも削られる。即死級の攻撃を恒常的に与えられ、それを上塗りする形で体を再生するが、スキルの回復上限値は赤鬼の力加減によって削られていく。


「蛇族よ。よく耐えておるが___これはどうか?」

「フンッ__________んぬぬぬぬぬぬぬぬぅッ!!!」


 急激に力みが増えた。

 ボクサーが最終ラウンドを踏みとどまっているような切迫感。限界のギリギリ、ここを超えたら全てが瓦解するというボーダーラインをミレーヌは理解していた。

 それを赤鬼は指で押すみたいに軽々と、息を吐くように易々と 。


「ぬぬぬぬぬぬぬぬ____ガッ!!」


 それを飛び越えた。馬鹿みたいにかつ、程度を加え、それでもなお絶対的に覆す事の出来ない力を受けて、ミレーヌは気力で耐え抜く。

 すると腕の表面に青白い斑点が浮き出始める。


「ふんににぃいいいい」

「ほれほれ。内出血が始まったぞ。」


 筋肉の耐久限度は常に超え続けていたが、ついに血管が千切出した。

 これでもかと緊張し続ける筋肉、その圧力に耐え兼ねて、体内で血管の切断が群発的に発生。「甦治癒」による再生能力は、自動的にカバー範囲が薄い所から見切りをつけ、優先的に筋肉の保護へと回る。


「それでもッ!!」


 身体を支える脚はまだ健在だ。足裏が床面にめり込んでいても、上半身の緩やかな崩壊が始まっても、ミレーヌの気力だけは潰えない。


「ここいらで潮時じゃな______ミレーヌゥッ!!一瞬じゃ!」

「!!」


 クレーターの中心から号令が届く。その瞬間、赤鬼の巨大な腕は床から這い出てきた木の根が絡み取る。

 その刹那的な暇を見逃さず、ミレーヌは後ろにワンステップ下がる。すると圧力によって頭打ちをしていたスキルの回復速度が一気に吹き返し、下半身から回復が始まった。


「鬱陶しい。」


 だが全て間に合わない。木の根ははち切れ、赤い巨腕は再び動き始める

 赤鬼にとっては魔法によって鋼鉄の強度を持つ木の根なぞ、紙程度の耐久力しかない。1にも満たない悪あがき。だが最速のミレーヌにとっては充分過ぎた。

 腰を屈めて衝撃を受ける体勢を取り、向けていた槍の切っ先はミレーヌの魔力を待っている。


「魔槍術_____」


 合図が来た。槍に魔力が帯びる。緑色の光を縁って鮮烈な突きを送り出す。


「_____追突反響!!」


 残像すら残す最速の突き。繰り返し連動し、途切れることの無い刺突は回数を追う毎にギアを上げていく。


「ほぅ、努力は認めよう。その技の練度はスキルを最上位に上げた転生者にも劣らない。だが...」


 それはミレーヌにも分かっていた。幾重に重なる強化魔法とスキルは、ミレーヌのステータスに比例される。つまりミレーヌのステータスが0なら0なのだ。


 肉体の耐久力は既に無に近い。赤鬼の堅牢な赤膚に槍の先が触れる度、刺突の威力が手に戻ってくる。それを1秒間に何度とミレーヌを苦しめていた。

 裂けていく肉は無理やり繋がれ回復する。その度に受ける痛みは確実に精神を削り、意識がどこかへ行ってしまいそうになる。だが折れない。ミレーヌは消して折れたりしない。


「魔法がなくても私には私がいる!!負けたりしない!!」


 魔法は掛け算と言われている。無から有を産む魔法を扱えるものは殆どおらず、有をブーストさせるのが基本的である。

 体を鍛えればそれだけ強力に、魔法の練度が上がればそれだけ強く長くなる。

 つまりミレーヌは、可能性が1でもあれば道が開けると信じていた。


「私は____」


 だがそれは本人の問題である。赤鬼の絶対値を比例してしまうと、ミレーヌの勝利の可能性は限りなく0に近くなってしまう。


「私はぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁァァアアアアッ!!!!」


 迫り来る赤鬼の腕。留まる事を知らず、ミレーヌの抵抗をものともせず押し進む。


「か、可能性はいつだって_____」

「もう飽きた。死ね。」


 眼前に迫る確実な死を前にしていても、ミレーヌはこの手にしている槍のように真っ直ぐ信じて突き進んでいた。それも限界を迎えた。


「ほう...」


 赤膚に切っ先が深く刺さり、堅牢な肌に亀裂が走る。だがそれと同時に槍は獲物と柄の部分を断裂させてしまった。

 武器を失い、抵抗力を無くしたミレーヌは、それでも尚表情を固めていた。


「_____あの子にあるんだよ!!!」


叫びが届いた。


 赤膚の亀裂は一瞬で広がり、巨大な腕は体から身体から離れる。

 轟音と滝のような流血を伴って派手に転がる肉。それを見たミレーヌは膝を落として崩れる。


 見上げると、光を纏って空を舞うだ長身の女性がいた。その女性には見慣れた黒色の猫耳としっぽが着いている。


「契約したの。良かったと、素直に喜べないわ。上手く回ったとはいえ...ごめ...んね.,.」


 心臓の音が遠くなる。ミレーヌの見えていたモノが世界と一緒に離れていき、手に持ったボロボロの槍の柄を地面に転がした。


(ぁぁ...。こんなときにおもいだすのは...あの子の笑顔じゃなくて...一族のあんねい...。最低ね...)


 ミレーヌは横たえるも、すぐには死ななかった。痛みと苦しみで意識が落ちそうで落ちない。

 即死するほどの深手を追った彼女だが、再生スキルにより延命処置代わりになっていたのだ。

 だがその治癒速度は遅く、長く続く痛みに声を上げることすらできず、自身が持つ再生能力で死を長引かせられるだけである。


(ぁぁ。体が痛くて動けない...。声も出ない。あたし...なんでこんなこと、してんだろ...)


 彼女は自分にかけられた呪いを恨みながら、緩やかに息絶えた。

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