え!そうなん?!
目が覚めると自室に戻っていた。自室と言っても白い床と白い壁と白いベッドがあるだけの部屋だ。なにも私物を置いておらず、淡白極まりない状況下にある。
いつもと変わらず、ただ起きて、ただ寝るだけの部屋。辟易する。何も無い場所でただ生活している自分を自分が責め立てる。なんの為に生きてるのかと。
「また、起きちゃった。」
呟いた所でなんの意味もない。残ったのは俺と悲しい孤独感だけ。
ベッドの上で食事の時間が来るまで3角座りしているのみだ。こんなの転生前と変わらない
そんなことをしていると、不意に目の前にある白い壁がまるでドアのように開いた。だけど興味は無い。さっさと僕を殺してくれ。
「___君が最近入った転生者だね。」
そこに立っていたのは、ゴリラだった。丸メガネをかけて、白衣だけを羽織る、ゴリラだった。
「.........死期が近いのか。」
「死神では無いぞマサヨシくん。」
人間らしい物言いをするちゃんとしたゴリラは、幻覚では無さそうだ。
「私はモノ。君にお知らせを持ってきたのだ。この悪辣な空間の中で1ヶ月間を耐え抜いたということで、ランクCに昇進だ。」
「ランク___c」
「そうだ。待遇が代わり、コミュニティに参加する事を許されたのだ。その上食事の品質が変わる。」
ゴリラがなんか言っているが、今の所耳には届いていない。
なに?ランクアップ?望まぬ死と蘇りを繰り返させられて、死にかけては生きさせられてるだけの毎日なのに、これ以上がある?ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな
「マサヨシくん。」
大きくてゴツイ手が僕の肩を包む。暖かな感覚が伝わってきて、何故か安心感を刷り込まれてしまった。
なんだろうか。人を信じられない、信じたくない俺にとって、このゴリラは信じてもいいと。
ゴリラは優しい口調で耳打ちをする。
「向こうでコミュニティの長、ヒナギシという老婆に会え。」
「...」
それだけ言い残し、ゴリラはペタペタと背中を見せて歩き去った。ドアは開いたままにして。
「...今更何が怖いって。」
もう何も無い俺にとって魂すら弄ばれる。死ぬという選択肢すらないのに、俺はこれ以上の地獄と苦しみを味わいたくは無い。
でもだ。
込み上げてくる熱い謎の何かが身体を突き動かす。地に足をつけて握り込む拳には、暖かな想いがある。
この暖かさを持っていれば、僕はどこでもやっていけるのかもしれない
ドアをくぐって歩いていく。細長い廊下を重い足取りで渡っていけば、開けた場所に出た。
僕がいた部屋より何倍も広い。広いがなにもない部屋、というよりはただ広くて白い空間に出たのだ。
だがいつもと違うのは、概ね部屋の中心に円形になって座る人間達がいた。
10人の老若男女が食事を囲っている。その中でも白髪の老婆の横には、卵色のお盆に乗る食事だけが置かれてあり、そこが自分の席なんだと見て取れる。
「新しい人が来たみたいだねぇ...」
ジロジロ観察してる僕を見た老婆が呟いた。恐らくゴリラが言っていたヒナギシだろう。
ゆっくりと輪に近づいて立ち止まると、僕に視線が集まる。
「あんたがヒナギシか。」
「そうだ。...まぁここでは番号でしか呼ばれないんでね。あまりピンとこないが。」
「ピンとこない...ここは長いの?」
「マサヨシが赤ちゃんの頃からここにおる。お主も能力を持った転生者なのだから意味合いは解るな?」
つまりこのヒナギシも転生者と言う事なのだろう。俺は彼女の隣に座り、食事を始めた。
すると左隣に正座をした短髪黒髪の少女が俺を見つめている。というより俺の食事にだな。
なんというか、背が小さいのと幼く見える顔立ちから16歳より年若く見える。加えて服装がボロい布1枚とぼさついた髪の毛。この子の外観から受けるバックボーンを想像すると、この箸でつついた食事が食べづらい。
「...たべるか?」
「!!」
少女は身体をビクッと震わせる。そして頭の髪を掻き分けて、2つの猫耳が現れた。
「うぉ!!ネコミミ!!」
「ワ、ワタ、ワタシハ、ハーフキャット」
「ハーフキャット...獣人とはなかなか...」
「おや?マサヨシはこの子の言葉がわかるのかい?」
ヒナギシはなんともとんちんかんな事を言う、お歳を召されてるだけあるな。と一瞬考えたが自分のスキルを思い出した。
「あんたはわからないのか?」
「今はわかるがの。ここに来た時は何を話しているのかすらわからなかったわい。語学体系が違いすぎて、本当に何を言ってるのか分からんかったのぉ....という事はマサヨシのスキルは語学系か。」
「あぁそうだ。大して使い所ないけどな。」
そんな会話を繰り広げていても、ハーフキャット少女はフル無視で食事にありついている。野性味可愛い。
「この子はまだまだ新入りでの。言葉を話すことが全く出来んかった。奴隷の親を持つ生まれつきの奴隷だそうじゃ。不憫よのう。」
「...なんか魔法とか使えないのか?」
「無理じゃな。魔法という力は学問を通じて発現できる。魔法をスキルとして持ち合わせた我々とは違う。」
語り口が賢さを際立たせている。長い間この世界で生きてきた事を伺えさせるのは、やはり経験なのだろう。
「僕のスキルをばらしたんだ。ヒナギシのも教えてくれよ。」
「ワシか。ワシのスキルは不死じゃ。」
「不死...でもあんたその姿は。」
「不老ではなく不死。どんな手傷を被っても死なず、だが身体は老いるのだ。年齢を聞くのは辞めてくれ、そんなものはもう覚えておらぬ。」
それからヒナギシは食事をしながら、この世界の事を教えてくれた。彼女が見てきた実体験を交えているだけに、壮絶な時間を体感した事が肌見に染み入る。
食事が終わる頃には堅苦しい口調も解けて、なんとなくの質問でも軽く返してくれるようになった。
「そう言えばあのゴリラは何者だ?...なんかの能力で変身したとか?」
「あーモノだねそりゃ。あの子は元の世界でもゴリラらしい。」
「なんでわかる?」
「自分でいってたわい。ビックリじゃろうが、まぁそこはおいおい話を聞きなさい_____おやおやまぁ懐いて。」
談話をしている傍らで、ハーフキャットの少女は僕の太ももを枕にして寝転がっている。
無防備な頭を時折撫れば、たまに聞こえるゴロゴロという猫特有音。完全なる野良猫属性だ。よい。非常に良い。
「この子は特別な能力を持たない子供。特別頑丈という所を除けば、そこいらの子供とは変わらない子じゃ。」
他の生き方を知らないし、仮に可能性を見つけられたとしても周りの人によって潰されてしまう。
ブラック企業に勤めていた俺にはわかる。この子が無自覚に消費されている事を。
「...奴隷としてしか生きられない人生か。」
「なんじゃ。へんな思い入れでもあるのか?」
「まぁな。ここでの生活も、設定がダークファンタジーすぎる以外には生前と変わりないからなぁ。なんか感情移入しちゃう。」
「ほーならまぁそうじゃな_____ここを出て、この子を買ってやってはどうじゃ?」
「...奴隷が奴隷を買うのか?」
老婆はなんとも気持ちの悪い笑顔を作って話す。
「この世界はの。強力な魔法を持つ転生者が沢山おった。そういった経緯から転生者を捕まえる為の束縛術がかなり発達しておるのだ。副産物として、沢山の奴隷が隷属を強いられておる。」
「つまりなんだ?」
「この子みたいな子が沢山おる。そういう話じゃよ。」
想像もしなかった言葉。俺が誰かを従えるなんて夢のまた夢だと思っていた。でも見方を変えればこの世界も随分夢みたいなもんだ。
「奴隷を買う...」
「そうじゃ。その後は好きにすればいい。お主は奴隷を正当に買い取り、解放する初めての人類となる。」
「なんかあんまりパッとしないよ。」
「どうせやることもないなら、そういう道もあると言っておるだけじゃ。人生はどこまで行っても遠回り、なら寄り道して経験を積む方がかっこいいじゃろ。」
「そっか...」
孤独と戦いながら、終わる事が死と=で結ばれている彼等。この膝の上で寝ているハーフキャットの少女もそうだ。
ならいいじゃないか。そういう道も。
「あぁ。寄り道もいいかもしれないな。」
「____」
スッキリした。自分の進む道がこの婆さんのおかげで見つかるとは思わなかったが、生きてきた28年間では味わえなかったこの情熱を心でありがたく抱きしめた。
「俺に中身をくれてありがとな、ばぁさん。」
「よい。これでわしも重い腰を上げられる。」
「?」
するとヒナギシの優しかった雰囲気が一気に変わった。
「スマンが少し痛むぞ...やれ!カーラ!」
「何が_______」
不意に背後から打撃が入った。衝撃が背骨を波立たせ、身体が大きく弓なりに曲がる。
(またかよこんな...ん?痛くない)
後づいてくる痛みはない。単なる衝撃だけが身体に広がっただけだ。振り向くと、センターで髪を分けたブロンドの女性が笑いながら手を振っていた。
「彼女の能力は能力移行じゃ。他人から抜き取ったスキルを他人に移すことができる。」
「急に何を...」
「これはワシ達と、死んで行った仲間の想いを積み上げた心そのもの!!お主がもつに相応しい!!」
「だからッ!急になんなんだよ!」
「ワシこそが本来の役割を持つ、女神アストライアの信者!あのクソ忌々しい夫婦に役割を取られたが、ここでその役割を全うしてやる!マサヨシよ!ワシがお前をここから送り出してやる!!」
立ち上がる婆さんの周りに食卓を囲んでいた仲間が集まる。
「転生者のスキルで憲兵を各個撃破、獣人は撹乱作戦で混乱させよ。ワシが盾となって先陣を切る。あー後仲介人には攻撃するな。」
「説明を省くな!説明頼むーーー!!」
「さぁ行くぞ若人。リベリオンじゃ!反逆じゃーーーー!!!!」
円陣の真ん中に立って雄叫びを上げるヒナギシ、それに応えて咆哮を上げる仲間たち。かく言う俺は説明もなく、ただ置いていかれるのみだった。
「...,え?おれもいくの?」
「にゃ...むにゃむにゃ。」
「オメーはいい加減起きろ」




