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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第3章 経営難と世界危機

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さいっこうに狩人ってこと?

 ヘルバーグは身の丈の数倍大きい丸太を、ヤクトと少女に向かって投げ飛ばした。


「借りたもんは返さねぇとなぁ!!!」


 月夜に浮いた丸太は重力に逆らわない。指向性を持ち、真っ直ぐヤクト達へと飛来する。


「コトリ、約束守れなくてごめん___」


 無駄だとわかっていてもヤクトは少女を抱き寄せ、目を瞑って死の瞬間を待った。親友であるコトリとの約束を果たすために、少女を守ろうとしたのだ。そんないい子なら、助けてやらないとな。


「良く耐えた二人共。」


 不慣れな四脚で空に飛び上がり、額に生やした剣で丸太を切り分ける。障害物は二人にぶつかることなく、地面に音を立てて落下した。


「おじさん!!」

「おじさんの使いだがな。契約を履行する!」


 言葉を発する巨大な白狼の名前はソードウルフ。頭から突き出たツノを、剣になるまで研ぐ習性を持った迷い森の住民だ。

 これは隷属魔法の上位互換であるトレースと呼ばれる技術。対象の生き物と意識を共有し、逐次指示を出すことができる技だ


「ほぅ。食いでのありそうなのが出てきたな。」


 だがヘルバーグはそれに臆する事はない。地面に落ちた槍を拾い上げると、舌なめずりをした。狙いが完全に俺達へと移ったのだ。


「そんなお前は不味そうだがな____俺がコイツの相手をする。お前らはさっさと契約者のところへ帰れ。」

「わかった。気をつけてね。」

「任せろ。ウォオオオオオオオ!!」


 ソードウルフの雄叫びが上がる。それを合図にヘルバーグは槍を持って飛び上がった。


「デケェ体は的が大きくてい____」


 だがヘルバーグはソードウルフに辿り着く事はない。見えない壁にでもぶつかったみたいに、反対方向へと吹き飛ばされた。

 ソードウルフの剣は音波を貯める性質があり、その限界値を迎えれば周囲に発散する。無論、指向性を持たすこともできるため武器として良く使っている。つまり音波が壁となり、ヘルバーグを押し返したのだ


「狩人と聞いていたが、大した事はない。」


 古い樹の匂いに隠れた、人間の血の痕跡を嗅ぎ取る。ソードウルフは華麗な身のこなしで、前方から飛来してきた槍を避けた。それがまずかった。

 木製の槍は、木製であるがゆえに殺傷力に乏しい。だがヘルバーグはこれを愛用していた。それは何故か。特別な武器だからだ。


 木製の槍が丁度ソードウルフの脇を通り、完全に通り過ぎた瞬間、突然ヘルバーグが姿を現した。


「なにッ_____」

「そらどうだろうな。」


 ヘルバーグは槍を掴んで空中で身体を翻す。その勢いが留まることはなく、ソードウルフの白い腹に木製の槍を突き刺した。


「がッ!!」


 赤い血が湧き上がる。生命が溢れ落ちる。


「何故だ!転生者の血族が、何故魔法を使える!!」

「さぁな!いいから黙って、その魂を____ぶちまけちまえ!!!」


 槍を伝ってソードウルフの体に組み付いたヘルバーグは、その口を持って、喉笛を噛み千切った。

 うめき声すら上げられず、ソードウルフは血を撒き散らし、狩人を下敷きにして地面に倒れる。だがヘルバーグは何もなかったかのように、狼を押し退け立ち上がり、口に入った血と毛を吐き出した。


「やはりどの狼も不味い………さて。聞こえてんだろ誰かさん。魔法の重ねがけなんてキッツいことしやがるぜ。そんなにマゾなら手伝ってやる。」


 腰にぶら下げたナイフを取り出すと、まだ僅かながら息をするソードウルフに突き入れる。そして皮を剥いでいった。














 



「______ンンンアッッッ!」


 夜の雨に向かって断末魔を上げる。隷属魔法に自己投影魔法の重ねがけは魔法使いの間で危険とされている。多種なリスクを伴う複雑な魔法だが、一番は隷属させた生物の死を実感してしまうからだ。

 穿たれた腹。噛み千切られた喉。そして今まさに、生皮をナイフで剥ぎ取られる痛みが、襲っていた。


「ぐぁあああ!!」

「おじさん!どうしちゃったの!おじさんってば!」


 タイミング良くヤクトが辿り着いたが、肝心な彼はそれどころではない。ヤクトの叫び声すらも届いてはいない。


「あ、ああああ!!」

「繋がりが消えてない…。」


 未だに魔力パスが繋がっているため、今もなお痛みが体を突き抜ける。

 契約パスの濃さが強ければ強い程、従える獣へのメリットが高くなる。デメリットは受けた痛みがまともに返ってくる事だ。

 

「えっと…えっと…。確か…」


 そうしてヤクトはナイフを持って、切っ先を俺の懐に当て、力を入れて押す。肉は切るが大事には至らない絶妙な加減はテレサが教えてくれたものだ。

 教えに従い幻想から「本物の痛み」と言う刺激で、もとに戻す試みは成功した。全身の感覚を取り返して膝を折り、空気を腹一杯に吸い込んだ。


「ハアッ!ハアッ________ヤクトか…。」

「おじさん…戻ってこれたんだ!そ、それよりオネェちゃんとはぐれちゃって_____」


 息を整えぬ間に、ヤクトの小さな肩を掴んで言った。


「す、すまない。俺としたことが。」

「ここがコンクエスタの領地。って言うか勝手に住んでる場所だな。」

「_____てめぇ、早すぎんだろ。」


 ヤクトの目の前にある闇から現れたのは血に濡れた野生。木製の槍を携えたヘルバーグだ。

 だがヘルバーグは槍の他に、腰に何かを巻き付けている


「お、おじさん。アイツなんか…」

「ヤクト…ちゃんと見ろ。それから強く持て。これからお前らに向かってくる悪意ってやつだぞ。」


 それはおねぇちゃんだった。胴体だけ繩でベルトに巻きつけられ、力なく流れる首と足は地面に向かっている。血を流し切っているため肌は青白く、目は生気を無くしていた。


「あ?これ?悪いがお気に入りでね。剥製にして飾るつも____」


 怒りが引き出した速さは目にも止まらない。ヤクトの蛇族としてのフィジカル100%がヘルバーグに襲いかかる。


「まてッ!!」

「ほう。得物を変えたか。」


 ヤクトの両手に持っているダガーは、刃部が三日月型になっていた。


「コロス!!」

「来い!!」


 俺の目にはただ通り過ぎただけ。だがヘルバーグには全てが見えていた。

 襲い来る刃部を槍でガードをする。簡単な事だ。常人を超えるが常識に留まった子供獣人の力なぞ。ヘルバーグはそう考えていた。


「手数が増える。しかもまだ」


 現実は違いって恐ろしいほどの手数が、断続的に増えて、それが津波のように押し寄せた。一挙に6手、防げば8手。確実にダメージを与える為に打ち込まれていく。


「ひん曲がった刃がガードすり抜けて切りつけてる…めんどくせぇ…大した攻撃じゃねぇがイラつく!」

「気を取られてるなぁヘルバーグぅッ!!」

「何だうるせぇぞクソザ____」


 声が一喝、空気を切り替える。ヘルバーグは俺へと視線を向けた。

 胸の前で手を組んでいたが、気になったのはそこではない。服の袖から漏れる緑色淡い光だろう。


「____裏にルーン仕込んでやがるな!!!」

「遅すぎだぜ。」


 ヘルバーグの言葉は、足元から生えた太い木の根によって遮られる。体に巻き付き、動きを捕らえた。


「今更気づいても遅いんだよ間抜け。俺はなぁ…」


 やたら笑っているなと思った時、そこで気づいた。彼の手に槍が無かった事に。

 クソが。後ろを見ると、すでに背後に槍が刺さっていた。瞬きをするだけで展開が劇的に変わる。


「間抜けはてめぇだ。」


 突然耳打ちが聞こえてくると、まるで貫かれたような痛みが右の肋骨から突き抜ける。打ち込まれたのは蹴りではあるものの、堅固な筋力は人を殺す。耐えかねる衝撃に吹き飛んだ。弾け飛んだように地面を滑り、身体を起こす。


「脆い割に外側が硬い。ルーンで固めてやがるな。」

「お前の方こそ、その槍…ルーンが書かれてるだろ。」

「ほう。」

「強化系、防御系、移動系。細く書かれすぎて最初わからなかったが、とんでもない量の付与魔法が書かれてる。その瞬間移動もそのルーンによるもんか…。」

「そう言うお前も、服の裏にルーン仕込んでんだろ。今の蹴りで死なない奴はいなかった。」

「あほか…右の肋骨全部折れて、瀕死だわ。」


 意識を蝕む痛みが逆に気付けになってくれている。だが戦闘行為が出来るほどの力はない。それを見越して、ヤクトが俺の傍に現れ、身体を起こしてくれた。


「ふん。黒フード…その服には恐らくこの槍以上のルーンが刻まれてるな。そんな服を着て意識があるなんてのは、俺が言うのもあれだがまともじゃねぇ。」


 ヘルバーグが言う所は技術的な部分だ。ルーン文字が単語として成立した場合、相応の魔力量を正確に流さなければならない。

 つまり、服というプラットフォームに繋がったルーン文字を全て把握し、的確に魔力管理し、発動させなければならない。幾万に及ぶ量のルーン文字の各種相応魔力量を把握するには常人ならざる努力が必要である。


「ルーン文字は針一つ分でも魔力コントロールを間違えれば爆発や自身に返ってくる呪詛返しが起こる。ピーキーすぎる爆弾抱えやがっ____」


 その時、周囲の空気が急激に冷え込む。冷え込んだ空気が質感として肌に触れる頃に、空中に氷柱が仕上がった。それもヘルバーグの視界を埋めるほどの量が、全てヘルバーグに切っ先を向けてだ。


 だが野生を抑え込むことは叶わない。


 数多の血を吸った槍と業が、全ての氷塊を薙ぎ払った。まるで振り回すようでいて、正確に軌道を読み、槍のリーチを活して撃ち落とす。

 ヘルバーグが氷柱を霜に変えても、それすら薙ぎ払って君臨した。


「聞かせろ。名前も知らねぇ奴を殺しても仕方ねぇ。」


 俺はフードを脱いだ。碧眼を晒し、長いブロンド髪を全て後ろに流したオールバック。誰にも晒したことのない素顔を天に魅せる。この名前を言うのなんて、いつぶりだろうか。


「ゲルマンの血を引く者。俺はエイワズ・ユル・エイジャックス。ユルと呼んでくれ。」

「そうか。ユル_____」


 ヘルバーグがここで我に返り、遅すぎると俺は嘲笑ってやった。何が起きたのかわけもわからないヤクトは眺めるだけだ。


「魔術師ってのは名を上げることを誉れにしてる。自分がどんな魔法使うってのがバレちまうのにな。そんな中でも俺はそうしない。何故か。」


 一瞬の間が空くと、ヘルバーグは木の槍を投げようと大きく振りかぶった。


「俺の名前にもルーンが入ってるからだ。」


 だがそれを投げる事はない。まるでヘルバーグは一時停止でもされたかのように、投槍のフォームを固めたまま崩さない。

 何が起きたのかわかっていないヤクトが見つめる。


「な、なに?何が起こったんだおじさん。」

「俺の一族は弱いから、名前まで武器にしたって話さ。…いいから行くぞ。アイツはもう動かねぇ。」

「…。」

「殺すなよ。今使ったルーン文字は外的刺激に弱いから刺せば解除されるぞ。お前が殺しきれなかった時が大変なことになる。」



 

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